弁護士の満村です。

昨今、有名人の性的スキャンダルが話題となり、芸能界やスポーツ界などを大いに揺るがしています。

情報源の多くは週刊誌ですよね。

そして、週刊誌の記事に対して、有名人側が法的措置をとることも耳にします。

ここでの争点は、“スキャンダルが真実かどうか” とされていることが多いですが、果たして真実なら週刊誌側に違法性はない、となるのでしょうか?

少しそこには誤謬が潜んでいるように思います。

今回はそこを簡潔に説明していければと思います。

1 名誉棄損の成立要件について少し

性的スキャンダルは、一般的にそれを公にされた人の名誉を毀損することは明らかです。
著しくその人の社会的な評価を低下させますからね。

とはいえ、名誉棄損は、
①公共の利害に関する事実に関するものであって(公共性)、
②専ら「公益を図る目的」があり(公益目的性)、
③摘示された事実が真実である(真実性)

と言えれば、その違法性が阻却されて、損害賠償の責任も無くなります。

多くの場合、有名人が週刊誌と争う場合、ここが争点になることが多いように思います。

では、社会において、一定以上の影響力のある有名人であれば、上の②公共性が簡単に認められるのでしょうか??

2 政治家の場合
 
刑法230条の2の2項では、名誉毀損罪に該当する行為が、「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されていて、政治家も公務員であるため、名誉を毀損する内容が真実である場合には、名誉毀損罪が成立しないことになります。

これは、国会議員等の政治家は、国民の代表として、いわゆる「公人」として存在している以上、公人に関する事項は、公人の名誉よりもその事実を周囲に公表することにより国民の利益(知る権利等)を尊重すべきと考えられているからです。

3 芸能人の場合   
では、本記事のメインテーマである芸能人が、性的スキャンダルを報じられたような場合はどうでしょうか。

芸能人は当然,公務員ではありません。

ここで、とある最近の裁判例を紹介します。
 東京地方裁判所平成21年08月28日判決です。

元アイドルのタレントAさんが、元カレに法外な慰謝料をせびっているなどの男女トラブルを週刊新潮に書かれたという件で、このような判示がされています。

原告Aが、アイドルグループ「B」の元メンバーであり、同グループ脱退後も芸能活動に従事しているにしても、公職ないしそれに準ずる公的地位にあるものではなく、また芸能活動自体は、一般人の個人的趣味に働き掛けて、これを通じて公共性を持つものであるから、必ずしも私的な生活関係を明らかにする必要があるとの特段の事情は認められない。

はい、少なくとも、私生活上の事柄であれば、芸能人のスキャンダルが公共の利害や公益とは無関係だと考えているわけです(犯罪に至ったものなどは別であることには要注意)。  

よって、多くの場合、有名人側が週刊誌を訴えれば勝つわけです。

しかし、暴露された芸能人が、全員週刊誌を訴えないのはなぜかというと、

①法的紛争を抱えることがさらなるイメージダウンを招く、
②慰謝料をとれても、暴露された事実が真実であることがより固まってしまう(より詳細になる)、
③損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり、内容によっては数十万程度しか認められない場合もある
④素直に謝罪することがイメージアップにつながることもある

等など考えられます。

そして、マスコミ側としても、少額の賠償を払うリスクよりも、その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているので、週刊誌による暴露が止まらないわけです。


4 思うこと
性的スキャンダルとひとえに言っても、それが本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)であれば、週刊誌を始めマスコミがそれを報じることに公共性が認められます。

ただ、「本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)」かどうかを判断するのは司法の領域です。

週刊誌が先陣を切って「今回の報道には自信を持っている」なんて言うのは少し滑稽です。

週刊誌が率先して芸能人やスポーツ選手を潰しに行くかのような今の状況は変えて欲しいと思っています。
しかし、週刊誌が利益を追求する以上、この状況は中々変わりません。

多くの人が意見しているように、私も、名誉棄損の慰謝料相場の引き上げしか答えが無いように思います。
この問題は、これから、国民全体での議論を必要とするでしょう。

では、今回の記事はこれまでです!

私の法律事務所では、こういった名誉棄損事件を始め様々な事件を取り扱っております。
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