今回は、音楽の著作権についてですが、皆さまも例えば「路上ライブって適法なの?」「YouTubeで勝手に人気の曲を使ったり演奏したりしているのは違法じゃないの?」という疑問を抱かれたことがありませんか?
この疑問を解くにはまずは基本的な知識から習得していかなければなりません。
さらに応用的な音楽に関する著作権法の深みも知りたい方向けに最近の最高裁判例で「演奏主体性」が問題となった音楽教室事件を紹介します。
これは、JASRACが音楽教室から音楽の使用料を徴収しようとした動きに対して、音楽教室を開いている法人・個人事業主らが総出で反撃した裁判の結果である令和4年10月24日最高裁判決です。
この記事を読んでいただければ、日々社会にあふれる音楽の裏にある権利の問題が良く理解できるかと思います!
目次
音楽の著作物とは
音楽を作曲すると、作曲者には著作権が発生します。主に演奏権という権利が発生するのですが、その内容はこうです。「著作物(音楽)を、公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として、演奏することができる権利(著作権法第22条)」
CDやスマホでの音楽再生でも、基本的にこの「演奏」に含まれます。
そして、「公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として」という要件がありますが、不特定多数・不特定少数・特定多数の者の前で演奏すればこれを満たすとされます。特定少数のみセーフという要件になります。
個人的な練習や音楽鑑賞はもちろん、特殊な例ですが結婚披露宴の余興で素人が演奏する場合には多くの来賓がいても「特定少数」とされるだろうと考えられています。
来賓は親族・友人といった限られたコミュニティが想定されるし、素人が歌う分には影響も限定的で、「不特定少数への演奏」と評価しても差し支えないだろうということです。
要は、演奏されることによる影響が大きいか、小さいか、という要件と考えた方が簡単かもですね。
他方で、入会金を支払えばだれでも入会できるダンス教室での音楽使用について、「公衆に対するものと評価するのが相当である」と判断されたことがあります(社交ダンス教室事件)。
だれでも入会でき、入れ替わりもあることで、「不特定」に向けた音楽の再生と見れる、と考えられたものと思われます。
また、「営利を目的としない上演等(著作権法第38条)」について例外規定がありますので、例えば学園祭で一切入場料等をとらずに公衆に向けて演奏する場合には演奏権侵害にならないことになります。
じゃあ、投げ銭を貰おうとしている路上ライブで人の曲を使っていたら演奏権侵害じゃないの?という疑問がわきますよね。 というところで次に行きましょう☟
路上ライブやYouTube等での音楽利用は違法なのか
路上ライブは、ストリートで不特定多数を対象に演奏しますし、それで他のアーティストの人気曲を歌っていたりします。「いやいや、よくないんじゃないの!?」と思ったことのある方もいるのではないでしょうか?
でも、これはあの著作権管理団体JASRACが「著作権侵害でない」と考えているようです。
路上ライブでは、多くの演奏者がギターケースか何かに投げ銭してもらえることを想定しているわけですが、これについては、「投げ銭をしなければ聴けないわけではない」ということで、演奏の対価と見なされていないようです。
ですので、営利を目的としないとされ、先ほどの38条でセーフということになるわけです( 参考 https://digireco.com/jasrac-interview2018/ )。
では、ライブハウスで高校生の下手なコピーバンドが仲間内を集めて演奏を披露するというのはセーフでしょうか?
これは一旦アウトです。
ライブハウスでは、入場料やドリンク代がかかりますから、「お金を払わないと聞けない」に当たるわけです。(下手過ぎて、その曲とは認識できないレベルならいいですが)
但し、ライブハウスでは、事前にライブハウスが著作権管理団体に使用料を包括的に支払っている(包括契約)ケースが多いため、実際にはセーフとなっているでしょう(そのような対応をしていないライブハウスでの演奏は・・・アウトです!)。
次に、YouTubeです。
ここで他人の音楽を使用すれば、「不特定多数」に向けた演奏になることは明らかでしょう。
しかし、YouTubeは、予め著作権管理団体と先ほどの包括契約を締結しているため、「歌ってみた」動画は適法となるんです(著作権管理団体が管理していない楽曲等は基本的にNGです)。
ただ、自ら歌う場合ではなく、アーティストの音源を直接流してしまえば、その音源の収録や編集等を行ったレコード会社の権利である原盤権を侵害してしまします。
また、そのアーティスト自身の持つ実演家人格権という固有の権利も侵害する可能性もありますので、このような使用はしてはいけません。
さて、本題の最高裁判決につなげるためにもう一つのケースを考えます。ここからさらに応用的になります。
カラオケスナックで客が歌を歌うというケースです。
スナックの客は誰が来てもいい店が普通でしょうから、そこで歌う行為は「不特定多数」に向けた演奏と言えそうです。
しかし、客が他の客に自分の歌の対価を要求することもないでしょうし、素人の歌が何か影響力を持つことも普通ありません。
また、一人ひとりの客の演奏行為を捕まえて使用料を個別に徴収するわけにもいきません。
しかし、著作権管理団体はどうしてもこの日本中で行われている演奏行為から使用料を徴収したかったのです。
なんと、クラブキャッツアイ事件において、下記の理由から、客のカラオケでの歌唱は、スナック運営者による演奏行為と同視できるという判決が出されました。
1 このカラオケテープ及びカラオケ装置を管理している主体はスナックであるということ
2 及びこのカラオケ装置を使用して利益を得ているのはスナックであること
これをカラオケ法理などと言います。
そして、、JASRACの使用料徴収はこの理論を論拠として音楽教室にも及ぶこととなったのです・・・☟
音楽教室からの徴収事件(最高裁判決)
ヤマハ音楽振興会など250程度の音楽教室運営者らが、JASRACに対して、レッスンの際に音楽を演奏することについて、使用料を支払う義務がないことについて確認する訴訟を提起しました。確かに、不特定多数の生徒が想定される音楽教室において、他人の曲を演奏した場合、演奏権侵害が起こりそうです。
実際に、教師がする演奏については、この使用料の徴収が認められることになりました。
しかし、カラオケ法理を引っ提げて最強に思えたJASRACは、「生徒の演奏についても教室側の演奏と同視して使用料を徴収できるか」という論点においては、まさかの敗北を喫しました。
なぜ、生徒の演奏は著作権上セーフなのか、最高裁は下記のような理由を示しました。
1 生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的とし
て行われるのであって、前記課題曲を演奏するのは、そのための手段に過ぎない
2 生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、教師によ
る伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる
3 教師による課題曲の選定や生徒の演奏への指示・指導は、生徒が前記1の目的を達成することが
できるように助力するものにすぎない
先程のカラオケ法理のざっくりとした要件を超えて、より実質的な部分が重視され、このような結論となりました。
この件、地裁段階ではJASRACが生徒の論点でも勝っていたので、もしかするとJASRACの全勝もあり得ました。
JASRACの使用料徴収の動きに少し歯止めをかけた最高裁判決だと評価することができます。
今回は以上です!
著作権法は難解で、弁護士でも専門でなければ取り扱えない人はたくさんいると思います。
著作権やネット上のトラブルでお困りの方は、ご相談をお受けいたします(30分5500円税込み)。
お問い合わせは、弁護士法人長堀橋フィル( k-mitsumura@nflaw.jp or 06-6786-8924 )まで!

