弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係等の法律問題についての発信をしています。

カテゴリ: 裁判例紹介

弁護士の満村です。

昨今、有名人の性的スキャンダルが話題となり、芸能界やスポーツ界などを大いに揺るがしています。

情報源の多くは週刊誌ですよね。

そして、週刊誌の記事に対して、有名人側が法的措置をとることも耳にします。

ここでの争点は、“スキャンダルが真実かどうか” とされていることが多いですが、果たして真実なら週刊誌側に違法性はない、となるのでしょうか?

少しそこには誤謬が潜んでいるように思います。

今回はそこを簡潔に説明していければと思います。

1 名誉棄損の成立要件について少し

性的スキャンダルは、一般的にそれを公にされた人の名誉を毀損することは明らかです。
著しくその人の社会的な評価を低下させますからね。

とはいえ、名誉棄損は、
①公共の利害に関する事実に関するものであって(公共性)、
②専ら「公益を図る目的」があり(公益目的性)、
③摘示された事実が真実である(真実性)

と言えれば、その違法性が阻却されて、損害賠償の責任も無くなります。

多くの場合、有名人が週刊誌と争う場合、ここが争点になることが多いように思います。

では、社会において、一定以上の影響力のある有名人であれば、上の②公共性が簡単に認められるのでしょうか??

2 政治家の場合
 
刑法230条の2の2項では、名誉毀損罪に該当する行為が、「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されていて、政治家も公務員であるため、名誉を毀損する内容が真実である場合には、名誉毀損罪が成立しないことになります。

これは、国会議員等の政治家は、国民の代表として、いわゆる「公人」として存在している以上、公人に関する事項は、公人の名誉よりもその事実を周囲に公表することにより国民の利益(知る権利等)を尊重すべきと考えられているからです。

3 芸能人の場合   
では、本記事のメインテーマである芸能人が、性的スキャンダルを報じられたような場合はどうでしょうか。

芸能人は当然,公務員ではありません。

ここで、とある最近の裁判例を紹介します。
 東京地方裁判所平成21年08月28日判決です。

元アイドルのタレントAさんが、元カレに法外な慰謝料をせびっているなどの男女トラブルを週刊新潮に書かれたという件で、このような判示がされています。

原告Aが、アイドルグループ「B」の元メンバーであり、同グループ脱退後も芸能活動に従事しているにしても、公職ないしそれに準ずる公的地位にあるものではなく、また芸能活動自体は、一般人の個人的趣味に働き掛けて、これを通じて公共性を持つものであるから、必ずしも私的な生活関係を明らかにする必要があるとの特段の事情は認められない。

はい、少なくとも、私生活上の事柄であれば、芸能人のスキャンダルが公共の利害や公益とは無関係だと考えているわけです(犯罪に至ったものなどは別であることには要注意)。  

よって、多くの場合、有名人側が週刊誌を訴えれば勝つわけです。

しかし、暴露された芸能人が、全員週刊誌を訴えないのはなぜかというと、

①法的紛争を抱えることがさらなるイメージダウンを招く、
②慰謝料をとれても、暴露された事実が真実であることがより固まってしまう(より詳細になる)、
③損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり、内容によっては数十万程度しか認められない場合もある
④素直に謝罪することがイメージアップにつながることもある

等など考えられます。

そして、マスコミ側としても、少額の賠償を払うリスクよりも、その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているので、週刊誌による暴露が止まらないわけです。


4 思うこと
性的スキャンダルとひとえに言っても、それが本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)であれば、週刊誌を始めマスコミがそれを報じることに公共性が認められます。

ただ、「本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)」かどうかを判断するのは司法の領域です。

週刊誌が先陣を切って「今回の報道には自信を持っている」なんて言うのは少し滑稽です。

週刊誌が率先して芸能人やスポーツ選手を潰しに行くかのような今の状況は変えて欲しいと思っています。
しかし、週刊誌が利益を追求する以上、この状況は中々変わりません。

多くの人が意見しているように、私も、名誉棄損の慰謝料相場の引き上げしか答えが無いように思います。
この問題は、これから、国民全体での議論を必要とするでしょう。

では、今回の記事はこれまでです!

私の法律事務所では、こういった名誉棄損事件を始め様々な事件を取り扱っております。
HP→弁護士法人長堀橋フィル  -大阪市中央区の法律事務所- (nflaw.jp)
お困りごとがありましたら、一度、ご相談ください。
メール k-mitsumura@nflaw.jp

弁護士の満村です。

今回は、音楽の著作権についてですが、皆さまも例えば「路上ライブって適法なの?」「YouTubeで勝手に人気の曲を使ったり演奏したりしているのは違法じゃないの?」という疑問を抱かれたことがありませんか?

この疑問を解くにはまずは基本的な知識から習得していかなければなりません。

さらに応用的な音楽に関する著作権法の深みも知りたい方向けに最近の最高裁判例で「演奏主体性」が問題となった音楽教室事件を紹介します。
これは、JASRACが音楽教室から音楽の使用料を徴収しようとした動きに対して、音楽教室を開いている法人・個人事業主らが総出で反撃した裁判の結果である令和4年10月24日最高裁判決です。

この記事を読んでいただければ、日々社会にあふれる音楽の裏にある権利の問題が良く理解できるかと思います!

目次
  1. 音楽の著作物とは
  2. 路上ライブやYouTube等での音楽利用は違法なのか
  3. 音楽教室からの徴収事件(最高裁判決)

音楽の著作物とは

音楽を作曲すると、作曲者には著作権が発生します。

主に演奏権という権利が発生するのですが、その内容はこうです。「著作物(音楽)を、公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として、演奏することができる権利(著作権法第22条)

CDやスマホでの音楽再生でも、基本的にこの「演奏」に含まれます

そして、「公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として」という要件がありますが、不特定多数・不特定少数・特定多数の者の前で演奏すればこれを満たすとされます。特定少数のみセーフという要件になります。
個人的な練習や音楽鑑賞はもちろん、特殊な例ですが結婚披露宴の余興で素人が演奏する場合には多くの来賓がいても「特定少数」とされるだろうと考えられています。
来賓は親族・友人といった限られたコミュニティが想定されるし、素人が歌う分には影響も限定的で、「不特定少数への演奏」と評価しても差し支えないだろうということです。

要は、演奏されることによる影響が大きいか、小さいか、という要件と考えた方が簡単かもですね。

他方で、入会金を支払えばだれでも入会できるダンス教室での音楽使用について、「公衆に対するものと評価するのが相当である」と判断されたことがあります(社交ダンス教室事件)。
だれでも入会でき、入れ替わりもあることで、「不特定」に向けた音楽の再生と見れる、と考えられたものと思われます。

また、「営利を目的としない上演等(著作権法第38条)」について例外規定がありますので、例えば学園祭で一切入場料等をとらずに公衆に向けて演奏する場合には演奏権侵害にならないことになります。
じゃあ、投げ銭を貰おうとしている路上ライブで人の曲を使っていたら演奏権侵害じゃないの?という疑問がわきますよね。 というところで次に行きましょう☟

路上ライブやYouTube等での音楽利用は違法なのか

路上ライブは、ストリートで不特定多数を対象に演奏しますし、それで他のアーティストの人気曲を歌っていたりします。

「いやいや、よくないんじゃないの!?」と思ったことのある方もいるのではないでしょうか?

でも、これはあの著作権管理団体JASRACが「著作権侵害でない」と考えているようです。

路上ライブでは、多くの演奏者がギターケースか何かに投げ銭してもらえることを想定しているわけですが、これについては、「投げ銭をしなければ聴けないわけではない」ということで、演奏の対価と見なされていないようです。

ですので、営利を目的としないとされ、先ほどの38条でセーフということになるわけです( 参考 https://digireco.com/jasrac-interview2018/ )。

では、ライブハウスで高校生の下手なコピーバンドが仲間内を集めて演奏を披露するというのはセーフでしょうか?
これは一旦アウトです。

ライブハウスでは、入場料やドリンク代がかかりますから、「お金を払わないと聞けない」に当たるわけです。(下手過ぎて、その曲とは認識できないレベルならいいですが)

但し、ライブハウスでは、事前にライブハウスが著作権管理団体に使用料を包括的に支払っている(包括契約)ケースが多いため、実際にはセーフとなっているでしょう(そのような対応をしていないライブハウスでの演奏は・・・アウトです!)。

次に、YouTubeです。

ここで他人の音楽を使用すれば、「不特定多数」に向けた演奏になることは明らかでしょう。

しかし、YouTubeは、予め著作権管理団体と先ほどの包括契約を締結しているため、「歌ってみた」動画は適法となるんです(著作権管理団体が管理していない楽曲等は基本的にNGです)。

ただ、自ら歌う場合ではなく、アーティストの音源を直接流してしまえば、その音源の収録や編集等を行ったレコード会社の権利である原盤権を侵害してしまします。

また、そのアーティスト自身の持つ実演家人格権という固有の権利も侵害する可能性もありますので、このような使用はしてはいけません。

さて、本題の最高裁判決につなげるためにもう一つのケースを考えます。ここからさらに応用的になります。

カラオケスナックで客が歌を歌うというケースです。

スナックの客は誰が来てもいい店が普通でしょうから、そこで歌う行為は「不特定多数」に向けた演奏と言えそうです。

しかし、客が他の客に自分の歌の対価を要求することもないでしょうし、素人の歌が何か影響力を持つことも普通ありません。

また、一人ひとりの客の演奏行為を捕まえて使用料を個別に徴収するわけにもいきません。

しかし、著作権管理団体はどうしてもこの日本中で行われている演奏行為から使用料を徴収したかったのです。

なんと、クラブキャッツアイ事件において、下記の理由から、客のカラオケでの歌唱は、スナック運営者による演奏行為と同視できるという判決が出されました。

1 このカラオケテープ及びカラオケ装置を管理している主体はスナックであるということ 
2 及びこのカラオケ装置を使用して利益を得ているのはスナックであること

 
これをカラオケ法理などと言います。

そして、、JASRACの使用料徴収はこの理論を論拠として音楽教室にも及ぶこととなったのです・・・☟

音楽教室からの徴収事件(最高裁判決)

ヤマハ音楽振興会など250程度の音楽教室運営者らが、JASRACに対して、レッスンの際に音楽を演奏することについて、使用料を支払う義務がないことについて確認する訴訟を提起しました。

確かに、不特定多数の生徒が想定される音楽教室において、他人の曲を演奏した場合、演奏権侵害が起こりそうです。

実際に、教師がする演奏については、この使用料の徴収が認められることになりました。

しかし、カラオケ法理を引っ提げて最強に思えたJASRACは、「生徒の演奏についても教室側の演奏と同視して使用料を徴収できるか」という論点においては、まさかの敗北を喫しました。

なぜ、生徒の演奏は著作権上セーフなのか、最高裁は下記のような理由を示しました。

1 生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的とし  
  て行われるのであって、前記課題曲を演奏するのは、そのための手段に過ぎない
2 生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、教師によ
  る伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる
3 教師による課題曲の選定や生徒の演奏への指示・指導は、生徒が前記1の目的を達成することが 
  できるように助力するものにすぎない


先程のカラオケ法理のざっくりとした要件を超えて、より実質的な部分が重視され、このような結論となりました。
この件、地裁段階ではJASRACが生徒の論点でも勝っていたので、もしかするとJASRACの全勝もあり得ました。

JASRACの使用料徴収の動きに少し歯止めをかけた最高裁判決だと評価することができます。


今回は以上です!

著作権法は難解で、弁護士でも専門でなければ取り扱えない人はたくさんいると思います。
著作権やネット上のトラブルでお困りの方は、ご相談をお受けいたします(30分5500円税込み)。
お問い合わせは、弁護士法人長堀橋フィル( k-mitsumura@nflaw.jp or 06-6786-8924 )まで!

映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」(8月2日公開)の製作委員会が、主人公の名前を「小説ドラゴンクエストV」から無断で使用したとして、著者の久美沙織さんから訴えられた事件で、久美さんの請求が棄却されたとのニュースが飛び込んできました。

ところが、「なぜ請求が棄却されたか」について詳しく解説するような記事はあまり見当たりませんので、私なりに著作権法の知識の紹介と共に解説していきたいと思います!

事件の概要をご存じの方は目次で「著作物性が認められなかった理由」の方に飛んでください。

目次

ドラクエ事件の概要

ドラクエのゲームでは主人公の名前を自由に設定できるところ、久美さんは小説版の主人公を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」として、これのニックネームとしては「リュカ」としていました。

この命名に自身の創作性が認められるべきなのに、映画版ドラクエでは、主人公の名前を「リュカ・エル・ケル・グランバニア」と無断で改変して使ったとして、これが著作権侵害だと主張していたとのことです。

名前としては、かなり長い部類ですし、創作的な感じもするので著作物とされてもおかしくないのでは??と思う方もいるかと思います。

しかしながら、これについて判決では「人物の名称は、思想または感情を創作的に表現し、文芸や美術などに属するとは言えない」とされ、著作物ではないと判断されてしまったようです。

この判決文通りだとすると、人物の名称はどのようなものであっても著作物でないと考えるべきようにも考えられますよね。

では、ここから、なぜこのような判断となったかについて書いていきたいと思います。

著作物性が認められなかった理由

まず、「著作物」と言えるためには、「思想または感情を創作的に表現し、文芸や美術などに属するもの」と言えなければいけません(著作権法第2条1項1号)。

これだけ見るとかなり高尚な芸術でないと著作物ではないのかと錯覚しますが、実際のところ「特に高邁な学問的内容・哲学的思索・文学的薫り等が要求されるものではなく,人の考えや気持ちが現れているものであれば足りると解されている。人の思想・感情のレベルは裁判所で判断すべきものではなく,またしてはならないものであると考えられるので,幼稚園児の絵も著作物たり得る。」と考えられています(著作権法 第3版/中山信弘)。

では、キャラ名についてはどう考えられるでしょうか?

分かりやすく、例えば、ポケモンの「サトシ」の名前を考えてみましょう。

「サトシ」というのは、日本人男性の名前としてよくあるものと捉えられますが、いくらここで例えば「このポケモンのストーリーからすればサトシという主人公の名前はベストであって、長い期間と労力をかけて考え出された名前である」と主張したところで、ありふれた名前としか言いようがなく、また、「サトシ」という名称があらゆる場面で簡単に使用できなくなると考えると「それはダメだろ!」とすぐ分かりそうです。

この点、東京地裁決判平成22年12月21日(廃墟写真事件)では、「廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限することはできない」と述べられています。
このことからも、著作物性を判断する際には、「いか考えたか、労力を要したか」といったプロセスはほとんど考慮されないと考えられます。

また、キャッチフレーズなどの短文の著作物性について判断された裁判例を紹介しますと、英会話教材キャッチフレーズ事件があります。
「英語がどんどん好きになる」「ある日突然、英語が口から飛び出した!」という宣伝用のキャッチフレーズが著作物だと主張されたのですが、「他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が現れる余地が小さい場合には、創作性が否定される場合はあるというべきである」として、これらキャッチフレーズの著作物性が認められることはありませんでした。

宣伝用キャッチフレーズという性質も関係していましたが、これと単純な文字量も相俟って「個性が現れる余地が小さい」と考えられたと言えます。

では、「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」は名前としてはかなり長く、奇抜な印象も抱きますが、とはいえ名前として把握される文字の羅列という枠を超えるものではなく、そして名前なので一般論としてそれぞれの文字に何か語義があってそれぞれ組み合わせることで新たな意味が発生するというものでもなく、また、単純に文字量として見ても多いとは言えませんので、個性が現れる余地が小さいと言わざるを得ないと思われます。
名前を、それを考えた人の著作物とすることでその名前を使用できなくなることへの純粋な違和感もありますし、やはり、キャラ名が著作物性を獲得することはできないでしょう。

商標権について

本件で、仮に久美さんが「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」を商標登録していれば、映画版の無断利用について商標権侵害の責任を問えた可能性があります。

商標とは、市場において、自社の商品やサービスを、他社のものと区別して需要者に示すためのいわば「めじるし」であり、商品名やサービス名、あるいはロゴマークなどが商標の代表例です。

キャラ名も商標登録が可能です。

商標は著作物と違って、登録しなければ商標権は認められないところ、久美さんはこれを特に商標として登録していませんでした。

そして、商標権侵害に問うためには、①登録商標の使用または類似範囲での使用及び②商標的使用に該当することが必要とされるため、使用された場合に全てにおいて商標権侵害が認められるわけではありませんが、本件では商標権侵害となる可能性はあると考えられます。

上記要件①②については、またどこかで解説記事を出せればと思います。


今回は以上です!

著作権法は難解で、弁護士でも専門でなければ取り扱えない人はたくさんいると思います。
著作権やネット上のトラブルでお困りの方は、ご相談をお受けいたします(30分5500円税込み)。
お問い合わせは、弁護士法人長堀橋フィル( k-mitsumura@nflaw.jp or 06-6786-8924 )まで!

こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争についての第2弾です。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

第1弾は肖像権侵害についての解説でした↓


今回は著作権侵害についてです。
SNSが発達した今、ネット上では日々著作権侵害のオンパレードですが、この記事を機に改めて著作権について学んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが現行犯逮捕される等の様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。これについてYouTuberBは肖像権侵害等でYouTuberAを訴えました(本訴)。

そして、YouTuberBは、弁明等の趣旨で本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

簡単に言うと、
Bの逮捕現場をAが撮影した動画を、後日Bが編集して公開してしまった
ということです。

元の動画、すなわち本件逮捕動画の著作者は誰でしょうか?
当然、撮影したAですね。
これをBが、不当逮捕の弁明等のためとはいえ無断で使用してしまっては著作権侵害となってしまいます。
では、裁判所の判断はどういったものだったでしょうか?

2 裁判所の判断(著作権侵害~引用について~)
(1)どこが争点となったか
上で申し上げた通り、本件逮捕動画はAの著作物です。
そして、Bはこれを一部切り取り、モザイク等を施したりして無断使用しました。

これについては裁判所も著作権侵害を比較的簡単に認めています。
しかし、こういうときによく出てくる「引用」を次に考えます。
他人の著作権を侵害しうる行為でも「引用」に該当すれば適法な利用行為となります。
本件の大きな争点は「引用」です。

以下、裁判所の認定した事実です。
①動画冒頭で「これから公開させていただく動画は私が不当逮捕された時に通りがかったパチスロ系人気YouTuberAさんに撮影され・・・。動画を開始させていただきます。」という導入に続き、
②背景に「当動画はAさんにモザイクなしで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で本件状況が映っている。
③最後に「ご視聴ありがとうございます・・・。」と締めのテロップが入る。
④本件逮捕動画のうちBが逮捕されるなどした生の映像について引用する一方で、Aが独自に作ったテロップ等は引用していない。
⑤本件逮捕動画は早いうちに削除されており、著作者であるAに実質的な不利益が生じていない。


(2)実際の判断
上のような事実を前提として、裁判所は「引用」を認めました。
なので、この点のAの請求は結局認められませんでした。

他にもBはAの動画をいくつか使用していたため著作権侵害の主張はこれ以外にもなされましたが、いずれも「引用」を認めました。要点としては、出所が明示されていること弁明や反論等目的が正当なものであったこと必要な範囲内で使用していることAに実質的な不利益が発生していないこと、です。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この記事で言いたかったのは大きく二つ、
①人の撮った動画や画像を勝手に使用すると著作権侵害になる可能性が高い
 →ちょっとくらい大丈夫と思っている人がかなり多い
②正当な目的でお作法を守れば「引用」が認められますが、安易に「引用」が認められることを期待してはならない
 →正当な目的もなく「引用だから大丈夫!」と考える人もけっこういる

です。

また、これを機に「引用」について詳しく勉強されてもいいかもしれませんね。

著作権のトラブル等のご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)にご連絡ください。
では!


こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争について紹介します。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

まさに現代に生きる我々に「何をしたらだめなのか、何はしていいのか」教えてくれる教科書のような最新裁判例です。
最後まで読んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが警察官に押し倒され制圧されたり、押し問答の末に現行犯逮捕されている様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberBはそもそもこの逮捕は不当逮捕であるし、自らの容貌を無断で公表した行為は肖像権侵害に当たるとして提訴しました。

さらにここから興味深い展開ですが、
【事案2】
撮影されてしまったYouTuberBは、本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り(不当逮捕の事実やYouTuberAの本件逮捕動画投稿を糾弾するような目的で作成したと思われる)、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

このように本件では、
①B→A
肖像権侵害の本訴(名誉棄損・プライバシー権侵害の主張もあり)


②A→B
著作権侵害の反訴


という二重構造が生まれました。


今回の記事では①B→Aのみ扱い、次回の記事で②A→Bをやります。


2 裁判所の判断(肖像権侵害)
(1)判断基準

裁判所は、肖像権侵害に関するこれまでの下級審裁判例の判断基準を整理し、以下のような3類型に区分した上で違法になるケースを示しました。
この整理は従来のものから判断基準を一歩推し進めたものと理解されています(判例時報7月11日号)。

①被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき
②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき
③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき

(2)当てはめ

本件では、白昼路上での撮影が問題となっており、その内容も被撮影者の現行犯逮捕という屈辱的なものであることから、②の類型に当たることを前提としたうえで、「本件逮捕動画を原告(YouTuberB)に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為上違法となる。」と判断されました。

(3)応用的考察
なお、少し応用的なところですが、本件逮捕動画には警察官やYouTuberBの発言のテロップが「逮捕だYO!」「変態(現逮)だYO!」などと嘲笑的につけられていました。
これは、名誉棄損の違法性阻却事由の判断で、公益目的性が認められない理由として使われていました。

しかし、これは肖像権侵害の判断においては触れられませんでした・・・。なぜでしょう?

肖像権侵害の判断に当たっては、「容貌についての情報のみ」が侮辱的かどうかで判断され、それに付された文字情報等を問擬するのであれば名誉棄損とか侮辱の問題として判断してくれ、というメッセージなのでしょうか?
しかし、過去の裁判例では私が担当したものも含め、後に付された文字情報の内容も考慮して「侮辱的だ」ということで肖像権侵害を認めたものもあります。

また、例えば、「YouTuberが自宅で撮影し、自ら公表した動画に映るそのYouTuberの容貌」はどう考えればいいでしょうか?
私的領域での撮影なので①ですか?
それはちょっとおかしいですよね。公表する目的で撮影されていますから、もはやプライバシー権の保護下にある容貌とも思えません。
そうなると、②ということになるでしょう。
ただ、これはYouTuber自ら公表した容貌なので、「容貌についての情報のみ」をもって侮辱的と判断されるケースはあり得ないですよね。
そうなると、やはり、後から付されたテロップのような文字情報も一応考慮に入れて侮辱的かどうかを判断するという枠組みに落ち着きそうです。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この裁判例が出たことによって多くの事例で肖像権侵害の有無を判断する際の基準に迷うことは無くなったようにも思えますね。

もっとも、「応用的考察」で述べたように、これからの裁判所の判断を待つしかないかなというようなケースがあるのも事実です。

肖像権侵害について、皆さまはどう考えますか?

次回はこの裁判例の反訴の部分、他人のYouTube動画を勝手に使用した場合の著作権侵害について扱います!
そちらもぜひよろしくお願いいたします。

ご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)までご連絡ください。


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