弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係等の法律問題についての発信をしています。

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こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争についての第2弾です。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

第1弾は肖像権侵害についての解説でした↓


今回は著作権侵害についてです。
SNSが発達した今、ネット上では日々著作権侵害のオンパレードですが、この記事を機に改めて著作権について学んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが現行犯逮捕される等の様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。これについてYouTuberBは肖像権侵害等でYouTuberAを訴えました(本訴)。

そして、YouTuberBは、弁明等の趣旨で本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

簡単に言うと、
Bの逮捕現場をAが撮影した動画を、後日Bが編集して公開してしまった
ということです。

元の動画、すなわち本件逮捕動画の著作者は誰でしょうか?
当然、撮影したAですね。
これをBが、不当逮捕の弁明等のためとはいえ無断で使用してしまっては著作権侵害となってしまいます。
では、裁判所の判断はどういったものだったでしょうか?

2 裁判所の判断(著作権侵害~引用について~)
(1)どこが争点となったか
上で申し上げた通り、本件逮捕動画はAの著作物です。
そして、Bはこれを一部切り取り、モザイク等を施したりして無断使用しました。

これについては裁判所も著作権侵害を比較的簡単に認めています。
しかし、こういうときによく出てくる「引用」を次に考えます。
他人の著作権を侵害しうる行為でも「引用」に該当すれば適法な利用行為となります。
本件の大きな争点は「引用」です。

以下、裁判所の認定した事実です。
①動画冒頭で「これから公開させていただく動画は私が不当逮捕された時に通りがかったパチスロ系人気YouTuberAさんに撮影され・・・。動画を開始させていただきます。」という導入に続き、
②背景に「当動画はAさんにモザイクなしで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で本件状況が映っている。
③最後に「ご視聴ありがとうございます・・・。」と締めのテロップが入る。
④本件逮捕動画のうちBが逮捕されるなどした生の映像について引用する一方で、Aが独自に作ったテロップ等は引用していない。
⑤本件逮捕動画は早いうちに削除されており、著作者であるAに実質的な不利益が生じていない。


(2)実際の判断
上のような事実を前提として、裁判所は「引用」を認めました。
なので、この点のAの請求は結局認められませんでした。

他にもBはAの動画をいくつか使用していたため著作権侵害の主張はこれ以外にもなされましたが、いずれも「引用」を認めました。要点としては、出所が明示されていること弁明や反論等目的が正当なものであったこと必要な範囲内で使用していることAに実質的な不利益が発生していないこと、です。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この記事で言いたかったのは大きく二つ、
①人の撮った動画や画像を勝手に使用すると著作権侵害になる可能性が高い
 →ちょっとくらい大丈夫と思っている人がかなり多い
②正当な目的でお作法を守れば「引用」が認められますが、安易に「引用」が認められることを期待してはならない
 →正当な目的もなく「引用だから大丈夫!」と考える人もけっこういる

です。

また、これを機に「引用」について詳しく勉強されてもいいかもしれませんね。

著作権のトラブル等のご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)にご連絡ください。
では!


こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争について紹介します。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

まさに現代に生きる我々に「何をしたらだめなのか、何はしていいのか」教えてくれる教科書のような最新裁判例です。
最後まで読んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが警察官に押し倒され制圧されたり、押し問答の末に現行犯逮捕されている様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberBはそもそもこの逮捕は不当逮捕であるし、自らの容貌を無断で公表した行為は肖像権侵害に当たるとして提訴しました。

さらにここから興味深い展開ですが、
【事案2】
撮影されてしまったYouTuberBは、本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り(不当逮捕の事実やYouTuberAの本件逮捕動画投稿を糾弾するような目的で作成したと思われる)、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

このように本件では、
①B→A
肖像権侵害の本訴(名誉棄損・プライバシー権侵害の主張もあり)


②A→B
著作権侵害の反訴


という二重構造が生まれました。


今回の記事では①B→Aのみ扱い、次回の記事で②A→Bをやります。


2 裁判所の判断(肖像権侵害)
(1)判断基準

裁判所は、肖像権侵害に関するこれまでの下級審裁判例の判断基準を整理し、以下のような3類型に区分した上で違法になるケースを示しました。
この整理は従来のものから判断基準を一歩推し進めたものと理解されています(判例時報7月11日号)。

①被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき
②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき
③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき

(2)当てはめ

本件では、白昼路上での撮影が問題となっており、その内容も被撮影者の現行犯逮捕という屈辱的なものであることから、②の類型に当たることを前提としたうえで、「本件逮捕動画を原告(YouTuberB)に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為上違法となる。」と判断されました。

(3)応用的考察
なお、少し応用的なところですが、本件逮捕動画には警察官やYouTuberBの発言のテロップが「逮捕だYO!」「変態(現逮)だYO!」などと嘲笑的につけられていました。
これは、名誉棄損の違法性阻却事由の判断で、公益目的性が認められない理由として使われていました。

しかし、これは肖像権侵害の判断においては触れられませんでした・・・。なぜでしょう?

肖像権侵害の判断に当たっては、「容貌についての情報のみ」が侮辱的かどうかで判断され、それに付された文字情報等を問擬するのであれば名誉棄損とか侮辱の問題として判断してくれ、というメッセージなのでしょうか?
しかし、過去の裁判例では私が担当したものも含め、後に付された文字情報の内容も考慮して「侮辱的だ」ということで肖像権侵害を認めたものもあります。

また、例えば、「YouTuberが自宅で撮影し、自ら公表した動画に映るそのYouTuberの容貌」はどう考えればいいでしょうか?
私的領域での撮影なので①ですか?
それはちょっとおかしいですよね。公表する目的で撮影されていますから、もはやプライバシー権の保護下にある容貌とも思えません。
そうなると、②ということになるでしょう。
ただ、これはYouTuber自ら公表した容貌なので、「容貌についての情報のみ」をもって侮辱的と判断されるケースはあり得ないですよね。
そうなると、やはり、後から付されたテロップのような文字情報も一応考慮に入れて侮辱的かどうかを判断するという枠組みに落ち着きそうです。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この裁判例が出たことによって多くの事例で肖像権侵害の有無を判断する際の基準に迷うことは無くなったようにも思えますね。

もっとも、「応用的考察」で述べたように、これからの裁判所の判断を待つしかないかなというようなケースがあるのも事実です。

肖像権侵害について、皆さまはどう考えますか?

次回はこの裁判例の反訴の部分、他人のYouTube動画を勝手に使用した場合の著作権侵害について扱います!
そちらもぜひよろしくお願いいたします。

ご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)までご連絡ください。


こんにちは!
弁護士の満村です。

弁護士として仕事をしていてよく思うのは、「著作権ってみんな存在は知っているはずなのになぜそんなに軽視するのか?」ということです。

その答えは、「ワードとして知っているけど中身はよく知らない」というものかもしれません。

特に今は個人が簡単にネット上で発信を行う時代。

日々大量の著作権侵害が発生しています。

そんな中で起こった悲劇的な著作権侵害事件が「ファスト映画」をめぐる事件でしょう。

東京地方裁判所は2022年11月17日、「ファスト映画」を著作権者に無断でYouTubeにアップロードした2人対し、著作権侵害による損害賠償金5億円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

また被告らは刑事事件としても有罪判決を受け、執行猶予付きとはいえ、懲役刑が課せられ、罰金刑も併科されました。
人生崩壊レベルの悲劇ですが、著作権侵害の怖さが分かりますね。

さて、では、この事件何がいけなかったのでしょうか?どのようにすれば責任を逃れられたのでしょうか?簡潔に説明していきます。

1 著作権って何?
著作権は著作物について認められる権利で、簡単に言うと、その著作物を公表したり、編集したり、売ったりできる権利です。
著作物をネット上にアップすることも著作権者ができることで、基本的に他の人はできません。

では、著作物とは何か、ということですが、以下の通り説明できます。

(1)「思想又は感情」を表現したものであること → 単なるデータが除かれます。
(2) 思想又は感情を「表現したもの」であること → アイデア等が除かれます。
(3) 思想又は感情を「創作的」に表現したものであること → 他人の作品の単なる模倣が除かれます。
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること → 工業製品等が除かれます。

(文化庁HPより 著作物について

こう見ると、何か芸術的なすごい物にしか認められないのではと思うかもしれませんが、例えば日々のツイートやこういうブログ記事なんかにも認められることが多いです。

映画が著作物に当たるというのは当然ですね。

2 映画の要約動画は元の映画の著作権を侵害するの?
「ファスト映画」はいろんなチャンネルからいろんなものが配信されていました。
でも基本的にその内容はある映画のダイジェスト版を作り、ナレーションを加えて作品を紹介するというものです。

映画そのものではないし、創意工夫して映画を宣伝しているようなものだからいいのではないか?と思う人もいるかもしれません。

ただ、先にも述べたように著作物を編集したり手を加えることも著作権者しかできないはずです。
そして、手を加えたものを全国に無断でばらまいたわけですから悪質です。

彼らが唯一言い逃れできる余地もありました。 それは「引用」(著作権法 第32条第1項)です。

自身の著作物を作成するにあたり、他人の著作物を常識的で正当な範囲内で拝借することは「引用」として適法とされるのです。

ただ、この「常識的で正当な範囲内で拝借する」と言えるためには、あくまで自分の作品が主で、他人の著作物が従(サブ)と言えるような力関係が必要になります。また、拝借してくる必要性もないといけません。

例えば参考文献的にちょろっと他人の書籍の一文を示す、といった具合ですね。

「ファスト映画」はこの点明らかに映画を見せることがメインであり、サブ的にナレーションを加えたりしてるわけですね。 主従逆転しており、さすがに「引用」は認められません。

このようにして「ファスト映画」は明確な、そして甚大な著作権侵害として多くの責任を作成者に課す結末となりました。

3 著作権侵害にならないためには
残念ながら、映画のシーンを切り取って使うことも、また、ストーリーを紹介してしまうことも基本的に著作権を侵害してしまいます。

もっともごくごく簡潔なあらすじを短い文章で抽象的に書く(話す)くらいであれば大丈夫と考えられます。
そして、あくまでも自らの思想や、社会問題に対する問題意識を語るような「意見・評論」をメインにした動画にするのが重要です。独自の映画論を語るというのでもいいでしょう。
映画をちょっとした題材として、ほんの少しその存在を拝借する程度に留めれば、「引用」ということができると考えられます。

これは、自らの元から持っていた意見を言うために映画のストーリーの一部を題材にする必要性が認められるからと言えます。

これに対して、映画のワンシーンを切り取った動画、又は静止画については、軽微なものでも基本的に「引用」は認められず、違法だと思った方がいいですね。映像まで拝借する必要性・必然性ってあるんですか?という話になります。(ただ、かなり軽微であれば刑事告訴したり、損害賠償請求してくる映画会社も無いかもなので、まあ実質セーフですかね・・・笑)

でもできれば、その映画の雰囲気と似たフリー素材の画像を使うなどして、創意工夫した動画を作ってみてください!

4 まとめ
以上、YouTube上で起こった「ファスト映画」の事件を参考に著作権について説明しましたが、著作権の問題はなにも映画だけの問題ではありません。
ツイッターのアイコンをアニメのキャラにしている人、テレビ番組の面白い一幕を撮影してSNSに上げている人等々、挙げだしたら著作権侵害事例はキリがありません。
いつ責任追及されるか分からない現状にあるので、著作権についてはよくよく気を付けてください。

著作権やネット上のトラブルでお困りの方は、ご相談をお受けいたします(30分5500円税込み)。
弁護士法人長堀橋フィル( k-mitsumura@nflaw.jp or 06-6786-8924 )まで。

ご無沙汰しております、弁護士の満村です。

警視庁がガーシー氏の複数の関係先へ捜索に入ったことからガーシー氏の逮捕もあるのか?ということが話題になっていますが、ネット上における表現については日に日に社会の関心が増していると言えます。

また、弁護士としての日々の業務を通じて、ネット上のトラブルが増加傾向にあることも感じます。

そんな中にあって、四面楚歌の状況に立たされているのが物申す系・炎上系YouTuberではないでしょうか。

この記事では、物申す系・炎上系YouTuberが直面する問題を整理すると共に、彼らがこれからも生き残り、成功していけるのか考えてみました。
このように本ブログではこれからYouTubeを題材とした記事をちょくちょく出していこうかと思っております。

1 刑事罰の問題
YouTubeを通じて人や組織を誹謗中傷すれば、名誉棄損罪や侮辱罪等に当たり、逮捕される可能性があります。

例えば、YouTuberの「よりひと」さんは2021年10月に人気女性YouTuberが過去にいじめを行っていたという発言を繰り返したことで、名誉毀損容疑で逮捕され、同11月には強要未遂容疑で再逮捕されました。
そして、2022年3月に懲役2年6月、執行猶予4年の判決が言い渡されました。

「いじめを行っていたって言っただけで犯罪者になるの!?」と驚く方もいるかもしれませんが、しつこいとそうなってしまうという例ですね。
本人も「まったく捕まると思っていなかった」と発言しているようです。

現状、YouTuberがコンテンツ上の言動により名誉棄損や侮辱罪で逮捕や起訴された件数は多くないようですが最近ではガーシー氏の例もありますし、侮辱罪が厳罰化されたこともあり、今後YouTuberの逮捕が増えていく可能性はあります。

また、誹謗中傷をすれば、刑事罰に留まらず、被害者からの損害賠償請求を受けることにもなり得ます。

2 利用規約・コミュニティガイドライン違反

YouTuberは上記のような違法行為を行っていなくても、別途、YouTubeの利用規約コミュニティガイドラインに違反すれば、各種ペナルティを受けることになります。

最も違反しやすそうなものとして、「下品な表現に関するポリシー」がありますが、これには例えば「性的に露骨な表現や口調を使用している」「コンテンツで過度に冒とく的な表現を使用している」等が挙げられています。
これに違反すれば、動画が削除されたり、年齢制限が課せられます。
また、違反を繰り返せばチャンネル又はアカウントの停止も予定されています。

特に「これから注目を集めて有名になるぞ!」という駆け出しYouTuberであれば、少々手荒いことをやって注目を集めたいと思うものですが、努力も虚しくコンテンツが消されてしまうわけですね・・・。
確実に成功のハードルの高いプラットフォームとなっていると言えそうです。

3 悪口禁止強化へ
2019年6月に改訂された規約により、YouTubeの広告掲載規制が強化されました。

「炎上目的・侮辱的」な動画について、広告表示無しや広告制限となる例が追加されました。
だれかを悪く言う動画については程度にもよりますが、広告がつかず収益を得られないことになったんですね。

物申す系・炎上系YouTuberはこれでかなりダメージを受けたようです。

「悪口はもうだめ」というのはあまりに規制が広いなあという気がしますし、誰が判断するんだよという不満も出てきそうです。
この判断をしているのはAIとされています。
「AIに判断できるの?」と疑問も出てきそうですが、最近のAIは優秀なんですね。

もっとも、間違った判断があって広告が規制されたと思う場合は「人間による審査をリクエスト」できますので試してみるのはありですね(https://support.google.com/youtube/answer/7083671?hl=ja)。

4 物申す系・炎上系はもう出てこないのか
これまで見てきたように、物申す系・炎上系YouTuberの未来は決して明るいとは言えません。

ただ、無名のYouTuberにとっては「物申す」「炎上」は無くてはならない武器かもしれません。

刑事罰に当たる行為をしてはいけないのは当然で、また、利用規約・コミュニティガイドライン違反をしていてはアカウントを継続できないので避けるべきですが、広告を諦めて多少手荒いことをやって知名度を上げるという戦略はこれからも続くような気もします

そして、そのような方々に気を付けて欲しいのは、①嘘の事実で人を貶めない、②人の人格攻撃をしない、③物申すにしても、発生した「事実」をベースに、それを批判するという内容にする、といったことでしょう。

正当な表現の自由の行使であれば弁護士も未来のYouTuberを応援しています!

弁護士に話を聞いてみたいと思った方は是非ご連絡ください。
30分3300円(税込)で法律相談を受けております。では!

こんにちは!
弁護士の満村です。

今回はYouTubeでの誹謗中傷が問題となった発信者情報開示請求訴訟について紹介します。
特に公益目的性について争点となった事案ですので、ここにフォーカスして書いていきますね。
分かりやすさの観点から、かなり簡略化しています。


徳島地裁令和2年2月17日判決(徳島地裁平30(ワ)338号)

事案
LEDを主力商品とする大企業X社の元社員と称するYが自身のYouTubeチャンネル「晒しチャンネル」にX社の内部状況を告発するような動画を投稿した。
その内容は、「(X社には)まともな社員教育がありません。なので、社員はいつまで経っても学生気分です。」「学生社員が提案したLEDの製造工程を、下の学生社員が従う。まともな部分が無いので、仕上がるLEDの質もその程度です。」「「クリーンルーム」内に鳥が紛れ込んだり、犬が紛れ込んだり。こんな状態で仕上がったLEDです。」などと、X社の社員の質の悪さや、製品の品質の悪さなどを暴露するようなものであり、さらに上司からのパワハラが日常的にあったことにも言及しており、これらがX社の名誉・信用を毀損したと主張された。
YはX社を解雇された元社員のようである。

Y側の反論としては、①動画の画面は黒の背景に青字というおどろおどろしいもので怪情報と見られるようなものであり一般的な読者がこれを真実と受け取るようなものでなく、また、Yの主観的な意見が抽象的に述べられているにすぎず、X社の社会的評価が低下するものではない、②動画の内容には公益目的等の違法性阻却事由がある、というものであった。

判決
①動画内容は、会社の内部者しか知りえないような事実を具体的に摘示しつつ意見を表明する形式となっていて、一般的読者にとって信用性が低いというものでなく社会的評価の低下はある。

②動画の内容は、X社の製品の品質や職場環境に関するものが含まれており、X社の事業内容や規模等を考えると、これが公共の利害に関するものであることは否定できないし、そうであれば、公益目的で出された動画であるとも一定程度は推認できる。しかし、チャンネル名が「晒しチャンネル」であることや、内容が色々な表現を用いて執拗にX社を貶めるものであることを考えると、X社への嫌がらせ、復讐等を行うことを主たる目的とするものと認められる。よって、公益目的が認められない。

と、判断され原告の請求は認められた。



はい、こんな感じの裁判例でした。
名誉棄損における違法性阻却事由というのは、以前の記事でも解説していますが、
ア 公共の利害に関するものであること
ィ 専ら公益目的でなされたこと
ウ 重要な部分の内容が真実であること
(エ 論評としての域を逸脱したものでないこと)
とされており、本裁判例ではィが否定されたということになるでしょう。


「みんなのため」「社会のため」っぽい感じで言ってるけど、結局は個人的にムカつくていうのが一番強いんでしょ?みたいな感じですね。

SNSや掲示板上の、スキャンダルを起こした芸能人やきな臭いインフルエンサーに対する批判などの中には、正義感に根差してはいるものの、「でもそれを言うことで本当に社会のためになるのか?」「言うにしても、もっと伝わりやすく、洗練された言い方はなかったのか?」などと考えると、そうでもないということは多いかもしれません。
そうすると結局、「じゃあそれって、自己満足だよね?ほとんど公益目的ではないよね?」と判断されてしまうってことですね。

「社会のためを思ってのことだからいいでしょ」といって軽はずみに投稿すると訴えられてあっさり負けてしまうかもしれないので要注意です。

現在、ネットに関するトラブルについて相談を受けています。
メール、電話、Zoom等でも相談受け付けます。最初の連絡はこちらまでbenngoshi.mitsumura4715@gmail.com

料金についてはこの記事を参考にしてください。



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