弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係等の法律問題についての発信をしています。

タグ:発信者情報開示請求

弁護士の満村です。

最近、捏造された疑いのある誹謗中傷的ツイートに基づいた発信者情報開示請求訴訟が通ったことで、最終的に請求者が反訴を受けたというケースが話題となっています。

発信者情報開示請求訴訟でこの「捏造」がスルーされた原因がどこにあるかはっきりしたことは分かりませんが、
①原告代理人弁護士
②被告となったプロバイダの代理人弁護士
③裁判官
の全員がこれに気づかず、開示判決に至ったということは確かです。

犯人探しをするつもりはありませんが、発信者情報開示請求訴訟を簡単に通してしまう昨今の司法には問題が無いとは言えません。

開示判決=自身に嫌悪感や敵対心を持っている人物に個人情報が特定されるということです。
投稿者側には甚大な精神的負荷が伴います。

私は勿論、違法な誹謗中傷を擁護しませんが、とはいえ、「匿名表現の自由」というものがもう一度考え直されるべきタイミングなような気がしています。
以下詳述しますが、これを重視することは発信者情報開示請求をする側にとっても有益なことです。
なぜなのか今は分からない人も多いかもしれません。最後までお付き合いいただければと思います。

以下、憲法的な表現の自由の話から発信者情報開示請求制度の限界、それから請求側が考えるべきことといったトピックについて見ていきたいと思います。




目次








①憲法上の権利としての匿名表現の自由

憲法21条1項表現の自由を規定しています。

例えば、報道をする自由やネット上で発信する自由も当然ここに含まれてきます。

表現が抑圧された時代への反省もあり、憲法において非常に重要な権利とされます。

ただ、ここで、匿名者による表現の自由は重要な権利として認められるの?名前も出さずに言いたい放題なわけだし重要ではないのでは??という疑問が生まれてきます。
ただ、これを軽視するならば、少しでも不快な発言をした匿名投稿者であれば、簡単に特定をさせたり、警察の捜査対象にさせたりできるようになってしまうかもしれません。

まず匿名表現の自由が憲法の保障下にあるのかについて参考になる裁判例を紹介します。

平成18年10月3日最高裁判所決定は、
とある記者が裁判における証人尋問で自らの取材源が誰か等を証言拒絶したことについて、憲法21条の精神を持ち出しつつ、一定の場合に取材源の秘密は保護に値すると解すべき、としました。
公共のための報道を維持するための情報源の匿名性を支持したわけです。

これよりももっと正面から匿名表現の自由を認めたものとして、
令和2年1月17日大阪地法裁判所判決があります。

これは大阪市ヘイトスピーチ条例が憲法に違反するか問題となった事件ですが、ここで裁判所は、「匿名による表現活動を行う自由は、憲法21条1項により保障されているものと解されるところ・・・」と匿名表現の自由を認めました。

このような判決の流れを見るに、匿名表現の自由は憲法の保障外だとする見解にはもはや無理があるでしょう。

では、これはどこまで重要な権利として認められるべきでしょうか。

この点、立命館大学の市川正人教授は、「政府や多数者から見て好ましくないと思われるような内容の表現活動を行う者は、素性を明らかにすることによって『経済的報復、失職、肉体的強制の脅威、およびその他の公衆の敵意の表明』にさらされる可能性が高いのであるから、素性を明らかにしての表現活動しか認めないことはそのような表現活動を行おうとする者に対して大きな萎縮効果を与えるであろう」と指摘しています(『表現の自由の法理』 日本評論社 2003年)。

また、京都大学の曽我部真裕教授は、「表現の自由の歴史を振り返ってみても厳しい検閲に対抗する手段として、匿名での出版物が大きな役割を担ったのであって、そこからも、匿名表現の自由の重要性を認識することができる」としています(『匿名表現の自由』 ジュリスト 2021年2月#1554)。

こういった学者の見解を見ると、匿名表現の自由の内実はより鮮明に浮かび上がってきます。
そして、その重要性を認識させられます。

匿名だからこそできる表現というのは多岐にわたるはずです。
当然、インターネット上の匿名アカウントによる投稿というのは、現代的文脈で言えば、まさにこの匿名表現の自由の問題のど真ん中に位置付けられるでしょう。
ですので、
「匿名アカウントによる投稿は実名アカウントによるものよりも価値が劣る」とは一概に言えないわけです。

とはいえ、この匿名表現の自由は、a他者の人権との衝突、b現実との衝突を避けられません。

aは簡単に言えば、明らかに違法な誹謗中傷をすれば氏名・住所を開示されることがあるし、損害を賠償しないといけないということです。

では、bとは何でしょう。

②発信者情報開示請求の増加と限界

NTTコミュニケーションズ株式会社が2020年4月30日に出した推計によると、同社内における発信者情報開示請求件数は、増加の一途(直近3年で約2倍)だそうです。

実務家の肌感覚でも分かりますが、発信者情報開示請求件数は増え続けています。
3年で約2倍ですから、実務に支障が出ないはずがないとも考えられるでしょう。

現に、捏造されたツイートや投稿が開示請求訴訟をすり抜けてくる現象まで起きているわけです。

現場の疲弊(または怠惰化?)は現に発生している現実と言えるでしょう。

そうです。

上述したb現実との衝突とは、
ネット上の法的トラブルの飛躍的増加による制度的リソースの限界、それに伴う権利の地盤沈下とも言える現象のことを念頭に置いて指摘しました。

これはある種構造的問題であるが故に、表面的に何か批判しようにも、どうにもならない側面があります。

「裁判官を増やせ!」と言っても予算の問題もありますし中々解決するものではありません。
「プロバイダはもっと人員を割いてまともな仕事をしろ!」と言っても彼らには本業があり、本業部分にリソースが回されることを止めようがない面があります。

そこで、弁護士の立場で私が強調したいのは代理人弁護士の責務です。次に行きましょう。

③発信者情報開示請求を如何に行うべきか

発信者情報開示請求訴訟もその出発点は誹謗中傷被害者から弁護士への依頼であり、「先生こんな投稿をされているんです。特定してどうにかしたいです。」といった相談が想定されます。

ここで弁護士はその投稿を見て、発信者情報開示請求をするのか、削除請求をするのか、などといったメニューを提示し、違法の主張立証が困難なケースでは依頼をお断りしたりすることもあります。

この判断のハードルをある程度高くすべきなのです

例えば、すでに現存していない投稿をもとにした請求なら私であれば依頼をお断りするでしょう。
今回のような捏造も疑われますし、立証が難しかったりして主張が通る可能性も本来高いものではないです。
裁判例に照らして違法だとされる可能性がかなり低そうな投稿についてもその説明をしてお断りすると思います。

「いやいや、弁護士は依頼者の味方でしょ? 匿名表現の自由を重んじるあまり加害者の見方をするの??」と聞こえてきそうです。

ですがそうではありません。

危ない橋を渡るような請求には請求者側に大きなデメリットがあると考えられます。
①開示請求に多くのお金と時間を費やしたのに開示もされず無念だけが残ることや、今回のように②捏造された証拠を根拠としたこと等で反訴を受けるリスクがあること、そして特に強調したいのは、③少しでも不快だと感じる投稿を乱発的に請求対象とすることで「あいつに言及したらやばいぞ」的な評判が立ち「名前を言ってはいけないあの人」状態になって自らの発信力・影響力が大幅に減少することさらには④より一層アンチ感情が膨らむこと、です。

だから私は請求対象は慎重に選んでから請求をすべきだと思います。

代理人弁護士らがこれらを意識して無駄な請求をしなければ上記の制度的限界は少しは解消しないでしょうか?
夢物語でしょうか?
少なくとも、この制度的限界の問題の解決策を裁判所やプロバイダの改革に求めるよりも現実的な気がします。

自戒を込めてこのような提言をしました。

④まとめ

今、ネット上は、「実名VS実名」「実名VS匿名」「匿名VS匿名」なんでもありの戦国乱世です。

正直SNSに毎日浸かれば滅入ってしまいます。

そして、皆様も思ったことはないでしょうか。
「色んな人が色んなことを言っているけど・・・結局何が正しいの・・・?」と。

今回の記事で匿名者による表現をどのように考えるのか、少しクリアに考えられ楽しんでいただけたのであれば幸いです。

私のツイッターアカウントはそろそろこのブログの更新情報発信専用にしようかと思っておりますが、ご相談やご依頼はお受けしていますので、
こちら(k-mitsumura@nflaw.jp)までご連絡ください。

では!

弁護士の満村です!
今回は、新たに改正される発信者情報開示請求制度について、簡単になると言われる手続きの中身や弁護士費用はどうなるかといった点を簡潔に解説したいと思います。

1 改正や新手続きの概要
発信者情報開示請求の根拠法令であるプロバイダ責任制限法の一部を改正する法律が成立しました。
そして、この「施行日」すなわち実際にその法律が効力を持つ日が令和4年10月1日に決まりました。

この改正の目的は、簡潔に言えば、インターネットでの誹謗中傷などの権利侵害の被害者救済をより迅速・確実に図ることということになります。
これまで、誹謗中傷をした匿名の発信者が誰かを調べるには、2段構えの裁判所での手続が必要でした(多少の例外はありますが)。

まず、投稿がなされたサイトの管理者から、裁判手続きを通してIPアドレスを開示してもらい(第1段階目)、次に、そのIPアドレスを管理する接続プロバイダ(J:COMやソフトバンク等)を調査して割り出し、これまた裁判手続きにより発信者の氏名・住所等の情報を開示してもらいます(第2段階目)。
かなり時間がかかる手続きでした。

新法では、「発信者情報開示命令」という制度が新たに作られ、上記2本あった手続きが1本化されることになりました。
分かり易いように下のような図を作りました(小さくて見えにくい場合は画面を拡大するか画像をクリックしてください)。

発信者情報開示請求新旧図解

新法では、請求者は、まず、サイト管理者を相手方とする「IPアドレスの開示命令」を裁判所へ申し立てるとともに、「提供命令」の申立てをします。
「提供命令」が発令されると、サイト管理者から請求者に対し、接続プロバイダの名称が提供されます。
この「提供命令」は比較的緩い要件のもと認められるため、すんなりと接続プロバイダが判明することでしょう。
次に請求者は、開示された接続プロバイダを相手方とする、「住所及び氏名の開示命令」を裁判所へ申し立てるとともに、「消去禁止命令 」の申立てをします(※この「消去禁止命令」は、投稿の足跡であるログを接続プロバイダに長期保存してもらうために申し立てます)。
請求者が、「接続プロバイダに対し開示命令の申立てをした」旨をサイト管理者に通知すると、サイト管理者は接続プロバイダに対し、IPアドレス等の情報を提供することになります。これを受け取った接続プロバイダは「投稿は誰が行ったものなのか」自社の契約者情報から検索することができるようになります。
このサイト管理者と接続プロバイダとの連携はこれまでありませんでした。

最後に、申立人の主張が認められ、接続プロバイダに対し開示命令が発令されると、投稿者の住所氏名が開示されます。


2 新制度のメリットとは
これまでは、IPアドレスの開示請求と、住所氏名の開示請求と別々に裁判手続を利用する必要があったため、発信者の住所氏名が判明するまでに、長いと1年近くかかったりしていました。

この期間がかなり短縮されることが予想されますので、解決までの期間が短くなります


特に、これからは、これまでのサイト管理者との間の第1段階目の裁判手続きを終えるよりも、かなり短い期間で「提供命令」が発令されると考えられます。
そのため、接続プロバイダが判明するまでの期間が短くなることになり、“サイト管理者との裁判手続きをやっている間にログ保存期間が過ぎてしまって投稿は違法なのに開示がされない”という非常に残念な事態が起こりにくくなります。
実際これが一番重要と考えることもできると思います。

3 弁護士費用は安くなるのか?
結論から言うと、多少弁護士費用の相場が安くなることが予想されます

もっとも、上で述べた通り、新制度では、請求者側は、
①サイト管理者への発信者情報開示命令申立
②提供命令申立
そして、
③接続プロバイダへの発信者情報開示命令申立
④消去禁止命令申立
をすることになります。

要は、証拠収集・書面作成・提出等、やることが多いという状況が抜本的に解消されるということにはなりません。

弁護士に依頼する場合、これらを全て弁護士が行うことになりますが、このようにこの改正で弁護士の業務量が劇的に減少するということには繋がらないため、中には弁護士費用を下げない法律事務所もあると思いますし、下げるとしても、「手続きが2つから1つになったんだから、これまでの半額にします!」というレベルで値引きする法律事務所はほとんど出てこないでしょう(勿論、これまでの費用が高い事務所ほど値下げはしやすいと思いますので、「半額」にします!という広告を目にすることはあるかもしれません・・・)。
もっとも、かける労力や時間は多少減少するでしょうから、その分の相場の引き下げは予想されるということになります。

この点について、弊所では、弁護士費用の減額を想定して動いています。
例えば、これまで全部で50万円程度いただいていた件では、大体40万円くらいに、40万円いただいていた件では、大体30万円ちょっとくらいになる感じの減額を検討中です。
勿論これは投稿件数や内容次第になります。

できる限り弁護士費用を抑えることが被害者救済に繋がりますし、訴えられた発信者が無駄に「調査費用」として相手方の弁護士費用を払わせられる状況を緩和することにも繋がりますので、その辺頑張りたいと思います。

4 請求される側は改正でデメリットがあるの?メリットがあるの?
請求側の調査費用(発信者情報開示請求に要した弁護士費用)は一部又は全額が損害として請求される側の負担となりますから、その金額が減るかもしれないという点は請求される側にメリットがあります。
また、請求される側の方の悩みとして、「争いがかなり長期間になって精神的に辛い・・・」といったことをよくお聞きしますが、良くも悪くも結果が出るまでの時間が短縮されるので、そういった悩みは軽減されるかもしれません。
もっとも、自分の情報が開示される確実性が増すので、デメリットも大きいですが。。

5 まとめ
以上、ごく簡潔に「新・発信者情報開示請求制度」を解説しました。
そして、新制度による請求側のメリットとして、①早期解決が期待される、②それにより匿名投稿者の特定の確実性が増す、②弁護士費用が安くなる、ということを紹介しました。

ネット上の権利侵害にお悩みの方について、請求する側・請求される側問わずご相談を受け付けていますので、一度、mitsumura@vflaw.netにお問い合わせください。

では!

弁護士の満村です。

今回は「偽造開示請求」について。実際のご依頼を参考に書きます。

ネット関連のご相談を日々受けていますが、その多くは発信者情報開示請求に関する相談です。
むやみやたらと発信者情報開示請求をすることについての批判的意見がネット上を飛び交うこともありますが、多くの請求は少なくとも認められる余地のある妥当なものです。
しかし、法的に認められる余地のない投稿について、脅しや威嚇目的で発信者情報開示請求をすることは、倫理的に問題があるばかりか、プロバイダ責任制限法4条1項2号の「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」をまず充たさない法に反した請求ということになります。

つい最近ご依頼を受けた件で次のような「トンデモ」請求がありました。

請求者が実際の投稿に酷い文章を付け加えるという偽造を行ったうえでの発信者情報開示請求でした
これを本記事では「偽造開示請求」と命名して書いていきます。

依頼者様の承諾を得ましたので、以下ではブログ記事用に具体的事実を脚色して事案の内容を紹介すると共に、対処法等を書いていこうと思います。

1 事案
佐々木さん(仮名)は、ある日YouTubeで、特定の芸能人Aをやたらとこき下ろすような動画を見て、気分を害し、「そのような動画を上げるのはやめた方が良い」というコメントをしました。
すると、投稿者から「つまらんコメントしてくんなよ。お前非表示にするな。」と返信が来て、そのコメントは見れなくなってしまいました。

「このまま放っておいて、Aに対する根拠ないアンチ意見だけ残るのは良くない。」と思った佐々木さんは、その動画の概要欄に書いてあったその動画投稿者のブログと思われるサイトに移り、そのブログの記事に、「Aを根拠なくこき下ろすのはよくない。YouTubeもやめた方が良い。」とコメントしました。
すると、後日、契約するプロバイダから意見照会書が佐々木さんの自宅に届きました(意見照会書=発信者情報開示請求がなされたとき、請求を受けたプロバイダから投稿者に意見を求める書面 発信者情報開示請求=あるネット上の投稿をした者の個人情報取得を目指した請求)。

その意見照会書の内容は驚くべきものでした。佐々木さんのした投稿は、
「Aを根拠なくこき下ろすのはよくない。YouTubeもやめた方が良い。あと、お前殺しに行くからな。覚悟して待ってろよ。お前は死んだ方がいいんだから。」という内容になっていました。太字部分が付け加えられています。
慌てて佐々木さんは弁護士に相談しました。

2 どう対処する?
私は、このような偽造開示請求の相談を受けたのは初めてでしたが、このような請求はこれまでにも無かったわけでもないようです。

ポイントは「ブログにコメントしたこと」です。
ブログによっては、ブログ管理人が閲覧者ののコメントを勝手に編集することができるのでこのようなことが起こるということだと考えられます。

本当にとんでもない請求です。この請求自体、不法行為と言ってもいいと思います。

では、どのような反論をすればいいのでしょうか?

実際にした反論を紹介します(意見照会書に対する回答書における反論)。

(1)実際にコメントの偽造ができるのか検証してみた
ご依頼を受けてから、その請求者の使っていた無料ブログで新たにブログを開設しました。
意見照会書を見れば、請求対象の投稿がなされたページのURLが載っていますから、それで請求者の使っている無料ブログが判明しました。

そして、記事を作り、別端末からコメントを書き込みました。

管理者アカウントでコメントを見ると、コメントの下部に「編集」というボタンがありました(左下矢印部分)。

最新

何とこの「編集」を押すとコメントの編集ができてしまいます。

これによって、コメントの偽造が可能になるのでしょう。
これら偽造に至る一連の操作を証拠化して、容易にコメントの偽造ができることを証明することにしました。


(2)同様の被害者との協力
本件では、たまたま同じ請求者から同じ被害を受けている方を見つけられました。
その方と連絡を取り、互いに「陳述書」を作成しました。
要は、別の方も同じ被害に遭っていることを書き記した書面を作成し、証拠にしました。

このようなケースでは、同じ被害が複数発生しているというのは、自分の反論に説得力を付与する心強い事実になります。

(3)当初の投稿の調査をプロバイダに促す
プロバイダは自らを媒介として行われたネット上の通信を管理しているわけですから、この偽造されたコメントの当初の内容の調査が可能でしょう。
この調査を十分にしてほしい旨念押しで主張しました。

3 注意喚起
事案の内容や実際にした対処法は以上のような感じです。

先にも述べましたが、このような偽造開示請求は大問題であり、不法行為にも該当しうる行為と思われます。
カッとなったとしてもやっていい行為ではありません。

また、他者のブログに攻撃的なコメントをするのもやめるべきでしょう。
コメントを偽造できる場合があることを知ってください。

実際に、偽造開示請求に遭ってしまった場合には、弁護士に相談することをお勧めします。


この問題に限らず、ネット上のトラブルについてのご相談を広くお受けしていますので、mitsumura@vflaw.net まで気軽にご相談ください。

ではでは!








弁護士の満村です。

以前から総務省において、「発信者情報開示請求制度」の簡易・迅速化の議論がなされてきました。

そして、令和2年11月12日に行われた「発信者情報開示の在り方に関する研究会(第10回)」において最終とりまとめ(案)が出されました。現在、意見公募中です。

案なので当然ここに書かれていることが全て制度化するわけではありませんが、おそらく書かれている内容の一部について制度化が行われるでしょう。

と、いうことで、今回は取り急ぎその内容を簡潔に書きたいと思います。あまり案ごとの場合分けを重ねて分かりにくくなるのも嫌なので、メインの部分の解説とします。以下で解説する内容はおそらく制度化されるんだろうなあと思われるものです。

1.開示対象情報の拡大

まず、令和2年8月にすでに省令が改正され、開示対象となる発信者情報の中に「電話番号」が含まれました。
積み残しとして議論の対象となっていたのが「ログイン時情報」です。
ブログにしてもSNSにしても、ほとんどのコンテンツで、IDとパスワードを打ち込みログインします。
そのログインのときにネットへの通信が発生するので、その通信に関するIPアドレス等も開示対象とするというものです。

権利侵害を発生させているのはあくまで個別の記事やツイートなどですから、その投稿の通信に関するIPアドレス等が出れば足りるのですが、それが消去されているなどして残っていないとき用ということです。
問題の投稿は結構前になされている。でもログインはこれまで定期的にされている。という場合に有効です。

ただ、この投稿をしたのと、このログインをしたのが別人だったらどうするの?という疑問もありますので、双方の関連性を要求するなど何らかの限定を付すことが適当であるとされています。
公募された意見も踏まえて最終的に詰めるのでしょう。

2.新たな裁判手続きの創設等

ここが議論の本丸でしょう。
以下、Twitter等のコンテンツプロバイダをCP、OCN等のアクセスプロバイダをAPとします。
今までは、
CPへの仮処分→APへの本案訴訟→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、時間とお金をかけて3段階の措置をとらなければなりませんでしたが、
最終案では、
裁判所への開示命令申立→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、かなり簡単な非訟手続のみで発信者情報を開示することを想定しています。
 ※非訟手続き=裁判所が当事者の主張に拘束されず、その裁量によって将来に向かって法律関係を形成する手続。

この最終案においては、最初はCPに開示命令申立の通知がいくのですが、CPがこれに対して発信者の使っているAPを特定し、そのAPにIPアドレスやタイムスタンプといった発信者の発信の形跡を提供し、APが発信者の氏名住所等を割り出し、開示命令がなされればそれに応じて情報を開示するという流れを想定しています。

もっとも、これでは、「発信者の意見はどうなるの??」となりますよね。
この点、開示命令申立を受けてプロバイダは、従前の通り発信者に意見照会を行い、その意見を考慮することになりそうです。

そして、最終的に裁判所が開示相当と判断し、開示命令がされれば、プロバイダは開示命令に応じるか、異議申し立てを行うかの判断をすることになります。
異議申し立てがなされればAPへの訴訟手続に移行します。

この異議申立権を発信者にも付与するなどの意見もあったのですが、最終的にそれは採用されなさそうです。
この点、「制度的には異議申立てについては直接の当事者であるプロバイダが最終的に決定すべき事項ではあるものの、発信者から非訟手続における開示決定に対して異議申立てを希望する意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましいと考えられる」とされています。

3.任意開示の促進
このような裁判手続のみならず、当事者間における任意の開示の促進も重要と位置付けられています。

この点、「権利侵害が明らかである場合には、プロバイダが迷うことなく開示の判断を行いやすくする観点から、例えば、要件該当性の判断に資するために、プロバイダにアドバイスを行う民間相談機関の充実や、裁判手続において要件に該当すると判断された事例等をガイドラインにおいて集積するなどの取組が有効であると考えられる」とされています。

4.雑感
ネットの誹謗中傷における権利救済が前進した点、大変喜ばしいことです。
もっとも、発信者情報の開示手続がかなりスムーズになる一方で、当然、発信者側のストレスは増えることになりそうです。
適切な制度利用を呼び掛けると同時に、濫用的利用の抑制は課題となってくるでしょう。

また、損害額についてですが、発信者の特定までに使う弁護士費用は抑えられることになるでしょうから、最終的な損害賠償請求額はおのずと抑えられることになります(というより、これまで高額な特定費用を発信者が押し付けられるという状態がどうも苦々しく思わざるを得ないものでした)。

あとは最終的な制度化を待ちましょう。適宜情報発信をしていきます。

また、現在ネット上の誹謗中傷についての相談をお受けしています。
mitsumura@vflaw.net
までご連絡ください。

では!




弁護士の満村です!

最近では、発信者情報開示請求が飛び交っており、もはやそれを傍観する人も「なんと人の個人情報の儚いことか」と、個人情報の重みの低下を主観的に感じとってしまっているかもしれません。

しかし、そんなことはありません。
デジタルタトゥーという言葉もある時代、個人情報の重みはむしろどんどん増しているはずです。

今回は、発信者情報開示請求訴訟において、個人情報の重みを軽視してしまった人の裁判例を紹介します。開示を受ける「正当な理由」が否定され、請求棄却となりました。
東京地方裁判所 平成25年04月19日判決です。 

1 事案の概要

 2ちゃんねるでなされた投稿が、原告の人格権ないし著作権を侵害したとして、原告が、被告(プロバイダ)に対し、氏名不詳者の発信者情報である氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を求めた事案。  
本件に関して、権利侵害を主張する原告はあろうことか自身のブログに以下の記事を掲載しました。

(ア) 氏名住所が分かり次第、弁護士とは別に探偵や興信所があなたの全てを調べます。家族構成、勤め先、学校、資産背景など調査します。   
(イ) 卑怯な小心者は、表舞台に引きずり出して、晒し者にして差し上げますよ。どんな奴か皆で拝見しましょうね。   
(ウ) プロバイダー全社の開示請求終了  実名が公に公表されてもプライバシーの侵害にはあたりませんよ。   
(エ) 月末までの告知が過ぎたので、今月から本格的に次のステージに進みます。バーチャルな世界で特定した人を集中的に攻撃していた方達が、今度は現実の世界では自分たちが今度は追いつめられて行く訳だ。それも一人ずつジワリジワリと、私のネット専門の代理人が追い詰めて行く。私だったら毎日落ち着いて寝る事もできないかもしれないね。家族がいれば、その不安が倍以上になってしまうだろう。   
(オ) あなたは喧嘩する相手を間違えてしまいましたね。昔、私が狩猟をしていた時の「イノシシ狩り」にこの作業は似ていると思った。   ・・・   さあ、次のステージは「ショータイム」になりそうですね。不動産投資業界に、あなたを知る人が大勢いるでしょうね。全てを暴露して差し上げますよwww   
(カ) 先月一杯までは、私には名前を知らせず、弁護士側だけで処理するはずだった。それに従っていれば穏便に済ませて、名前も世間に公表されなかったのにね。   

これについて指摘を受けた原告は、裁判の中で弁解として、平成25年1月21日付の陳述書を提出。
その中で、  
(ア) 私に対する書き込みに、私や家族は長年苦しめられてきました。ですので、発信者に対し法的措置を執ることを決めた際、やっとこのような理不尽な仕打ちに対抗することができる、と嬉しくなりました。   
(イ) その勢いとお酒も手伝って、発信者をさらし者にするとか、今回の訴訟をイノシシ狩りにたとえるようなブログ記事を書いてしまいましたが、もちろん違法なことをするつもりはまったくありません。発信者や発信者の家族の生命に危害を及ぼすこともありませんし、発信者をさらし者にしたり、家族や職場に対する嫌がらせなんてしません。   


このような弁解をしたにもかかわらず、原告は、平成25年2月9日、「ネットの世界だけで好き放題言っていた小心者のグズ奴らが誰なのか、名前が公開される時が来ました!昨年の8月から結構時間が掛かったのは、奴らグルになって証拠資料を集め、言い逃れをしてジタバタしてたので時間が掛かりました。ここからが本番で、全ての首謀者達を公開します!お楽しみに!」という内容のブログ記事等をさらに掲載するに至りました。   

2 裁判所の判断

法4条2号(プロ責法)は、損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることを、発信者情報開示請求を認める要件の1つとしているが、
法4条3項が、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならないと規定していることからすれば、少なくとも、発信者情報の開示請求をしている者に、開示を求めている発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図があると認められる場合には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと解するのが相当である。

そこで検討するに、原告が、発信者に対して損害賠償請求等をする意図を有していること自体は否定しないにしても、上の通り、原告は、自身のブログにおいて、発信者情報を取得した後、探偵等をつかって全てを調べる、晒し者にする、全てを暴露する、名前を世間に公表するなどと繰り返し投稿し、被告からこれらのブログ記事について指摘を受けると発信者情報を不正使用する意図はない旨の陳述書を証拠提出したが、その後も、自身のブログにおいて、発信者の名前を公表する旨の投稿をしているのであり、かかる事実経過に照らせば、原告において、開示を求めている発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図を併せ持っているものといわざるを得ない。   

以上によれば、原告には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとは認められない。 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する・・・。



「個人情報晒してやる!」などと言っている人への個人情報の開示が拒まれることなど当たり前と言えば当たり前なのですが、いざ自分が優位な立場に立つと人はこのように勇んでしまうものなのでしょうか。

せっかく権利救済へと努力していても、これでは時間やお金、労力の無駄使いですね。

もしあなたが発信者情報開示請求を受けたのであれば、請求者がどんな人で、どんなことを言っているか、やっているかに着目した反論をするのも一つの切り口です。


現在、発信者情報開示請求を受けた方がプロバイダから受け取る意見照会書への回答書の作成を多くやっております。
詳細は別記事にて公開しています。



回答書をテキトーに自分で作ってしまうことはその後の損害賠償請求訴訟の段階にも暗い影を落とします。
まずは相談してください。連絡先はこちらです。mitsumura@vflaw.net

では!


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