弁護士の満村です!

今回は新しい裁判例の紹介なのですが、非常に面白い内容です。
分かりやすくかみ砕いて書いたのですぐに読めると思います!

最近、ネット上で「赤狩り」ならぬ「誹謗中傷狩り」のような事態が見受けられますが、
ちょっとした批判などを発端にしたほとんど嫌がらせのような法的措置の行使が今後横行することを懸念していました。
Youtuberなどが「アンチコメうざいから片っ端から訴えてみた。」みたいな動画を出すとかありそうですよね(もうあるのかもしれません)。

では、法的措置をとることが逆に違法になってしまうことはあるのでしょうか
大したことをしてないのに、ある日突然訴状が届いて弁護士に相談しないといけなくなったり、刑事告訴されて警察のお世話になるなんてたまったもんじゃないですよね。

それでも「弁護士つけての法的措置なんだから全部大丈夫」となるのでしょうか。

この問題について判断した新しい裁判例が出ています。

東京地裁令和元年10月1日判決(東京地裁平30(ワ)33189号)です。

事案
とある弁護士Xが、自身の所属する法律事務所のブログで、A社に対し、「事業に実体がない。」「A社から資金提供を持ち掛けられてもそれは詐欺話である。」などのように投稿したのに対して、A社が代理人弁護士Yをつけて、弁護士Xを刑事告訴し、損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対してXは、A社の代理人Yが自分に対して①刑事告訴、②損害賠償請求訴訟提起をしたのは、しっかりとした裏付け調査もせずにした違法な行為だとして、逆にXがYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

判決
①刑事告訴について

告訴人が自らの認識、記憶に基づいて刑事告訴することは、その後の捜査によって告訴された側に犯罪の嫌疑が無いことが判明した場合であっても、直ちに違法となるものではない。

ただし、虚偽の事実に基づいて告訴したり、事実関係や証拠を十分に検討せずに行った告訴は、国家の刑事司法作用を害し、また、告訴された者の名誉や信用を毀損するから違法となることがある。
代理人である弁護士も、法律の専門家として十分な調査・検討を行わずした刑事告訴は、違法であり、損害賠償責任を負うことになる。

②損害賠償請求訴訟提起について

民事訴訟の提起については、当該訴訟における主張が、事実的、法律的根拠を欠く上に、根拠がないことを知っていたり、根拠のないことに普通なら気づくような状況でなされたような場合には、訴訟提起が相手方に対する違法行為になり損害賠償責任を負う。
代理人である弁護士も十分な調査・検討を行っていないのであれば、同様に責任を負う。



以上のように、代理人である弁護士が加害者になることも含めて、人に法的措置をとることの違法性の基準が示されました。
ただ、この訴訟では被告の弁護士Yは損害賠償責任を負わないとされました。
しかし、別訴訟(A社が最初にXを訴えた訴訟の中でXが反訴した)では、A社が本当に実体の無い詐欺師まがいの会社であるとして、A社本人による弁護士Xに対する刑事告訴や損害賠償請求訴訟提起は違法と判断されています。(注:もっとも、控訴審判決(令和2年8月5日)では、A社が実体のない投資話を持ちかけたわけではなく、詐欺を行なっていた事実もないと判断されました。ただし、事実が否定されただけで、違法性に関する上の基準が否定されたわけではありません。地裁で認定された事実をベースにすれば、こう考えるべきという裁判所の判断はそのまま参考にできます。)

そして、弁護士Yが許されたのは、刑事告訴や訴訟提起当時、YがA社の実体を見抜けなかったことは諸々の事情に照らしてやむを得ないとの判断がなされたからでした
逆に言えば、弁護士が、面白がって、もしくは金の為に、根拠ない法的措置に加担したとすれば違法との判断がされるでしょう。

と、いうことで、今回の記事は終わりです。

「ちょっと批判しただけなのに損害賠償請求訴訟を提起された」という方は逆に訴訟提起してやりましょう。
ではでは!