若い女子プロレスラーがSNS上で誹謗中傷を受け続け自死を選んでしまったという痛ましい事件が発生してから、ネット上の誹謗中傷への対策が社会的急務となっている気がしています。
弁護士としては、社会的責務を果たす意味でもこの問題に可能な限り注力していきたいと思います。
本記事では、皆さんが気になっているであろう「発信者情報開示請求」を実際にするにあたっての要件を解説していきたいと思います!
この請求が通れば、誹謗中傷をした張本人の個人情報を取得でき、損害賠償請求や刑事告訴ができます!

まずは、プロバイダ責任制限法第4条1項から分かる同請求の要件をまとめるとこうなります(用語が難しいですが後でわかりやすく解説します!)
①特定電子通信による情報の流通がなされた場合であること
②当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること
③発信者情報の開示を受ける 正当な理由が存在すること
④発信者情報の開示を求める相手方が開示関係役務提供者であること
⑤開示を求める情報が発信者情報に当たること
⑥上記発信者情報を開示関係役務提供者が保有していること
これらを充たせば、誹謗中傷を行う人の情報を取れるわけです!
では、各要件ごとに解説していきますね。

①特定電子通信による情報の流通がなされた場合であること 

「特定電気通信」というのは、「不特定の者により受信されることを目的とする電気通信の送信」と定義されています。
難しいかもしれませんが、SNSの書き込みがされた場合や、電子掲示板への投稿、また、このようなブログ記事の投稿がされた場合といったことです。
同じ電気通信でもメールの送信は「不特定の者」に対してされるものではないのでこれに当たりませんね。
嫌がらせメールのようなものは大量になされることは考えにくいですし、個別にブロックしてしまえばすみますよね。基本的にみんなが見れるネット上に情報として残ってしまうこともありません。

②当該情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明白であること  

まずは、当然ネット上の書き込みが自分のプライバシーや名誉権等を害するひどい内容のものであることが必要です。
例えば「生きている価値がない」とか 、根拠もなく「あいつは人のものを盗んでいる」とか、または「あいつは〇〇に住んでいるから嫌がらせをしてやれ」みたいなことですね。
企業が被害者であれば、「あの会社は毒入りの食品を売っている」とかになりますね。

これに加えて違法性阻却事由が無いことが必要です。ごく簡単にいうと、言論に公共性があり、公益目的があるような場合は、たとえ権利侵害的表現がなされても違法なものとされません。例えば、記者が政治家の汚職を暴いたところ名誉毀損で訴えられたら大変ですよね。 もちろん真っ赤な嘘なら違法になりますが。

難しいところなので、この辺の詳しい解説はまた別の記事でやりますね!

③発信者情報の開示を受ける 正当な理由が存在すること 

誹謗中傷している人の個人情報を、例えば個人的に嫌がらせをするために入手したり、それを欲しがっている人に売りつけたりする目的で入手しようとすることが認められたらそれはそれで大変ですよね。
これは、正当な権利行使の目的でしか開示請求はできませんよ、という要件です。
具体的には、記事等の削除請求、損害賠償請求、刑事告訴、謝罪広告などの名誉回復措置などの目的で請求することがここでの要件になります。

④発信者情報の開示を求める相手方が開示関係役務提供者であること 

開示関係役務提供者」、これまたよくわからない言葉ですね。
単に、サイト運営者やサーバーの提供者などのことと考えればいいです。
発信者ではなく、発信者の発信の土台を提供している会社ということですね。

⑤開示を求める情報が発信者情報に当たること 

どのような情報の開示を求められるのかということは、プロバイダ責任制限法の発信者情報を定める省令に規定されているんです。ここに規定されている情報以外は今のところ開示請求できません。
その開示請求できる情報は次のとおりです。
 ・発信者等の氏名・名称
 ・発信者等の住所
 ・発信者の電子メールアドレス
 ・侵害情報に係るIPアドレス、ポート番号
 ・インターネット接続サービス利用者識別符号
 ・侵害情報に係るSIMカード識別番号
 ・侵害情報が送信された年月日および時刻

⑥上記発信者情報を開示関係役務提供者が保有していること 

上に出てきた「開示関係役務提供者」が情報を開示する権限を有していて、さらに情報を抽出してそれを開示することが現実的に可能あることとと理解されています。
あまりに多大なコストや時間が係るような場合はこの要件を充足しません。別の請求先を考えるべきということになりますね。

法律相談について 

以上のような要件を充たす場合には、被害を受けた個人が自分で請求することもできます。もちろん法人も請求主体ですよ!
今後、どのような流れでこの請求をしていけば良いかということも記事にしようと思いますが、自力での請求はなかなか大変な作業になってしまいますので、弁護士に頼むことが一般的には推奨されます。
このようなネット上の誹謗中傷について、発信者情報開示請求を検討しているという方の相談を受け付けておりますので、mitsumura@vflaw.netまでメールをいただければと思います。
ではでは。