こんにちは!
弁護士の満村です。

前にネット上のどの程度の発言で、名誉棄損(侮辱行為)として損害賠償請求が認められてしまうのかという記事を書きましたが、
 

今回は、こういう投稿は人のプライバシー権を侵害してしまうよ、という記事です。


プライバシー侵害の要件とは

どのようなことが他人のプライバシー侵害になるか、ということについては、
「宴のあと」事件という古い判例(昭和39年)の基準が現在でも裁判で使用されています。 

その基準がこれです。 
①私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること 

②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められること

③一般の人々に未だ知られていない事柄であること


これらに加えて、プライバシー保護の対象となる人が私人か公人か、
公開された情報が公共的なものか等を検討して、
プライバシー情報を公表することが大きな価値を持つ場合には例外的に違法性が阻却されることがあります。

それぞれの要件について説明を加えると次の通りです。 
①について 
これは簡単ですね。
住所・氏名・電話番号や「あの人は実は裏で○○してる」のような情報をばらすということです。

②について
これも簡単です。 
例えば、「あの人は掃除が得意だ」ということをばらしたところで、特に本人にとって不利益ということはないのでプライバシー侵害にはなりません。

その人が他の人より神経質で、「どんな情報でもばらされるのは絶対いや」や「掃除が得意なことだけは人には知られたくなかった」と思っても、
「一般人の感受性」を基準にするので、やはりプライバシー侵害には当たりません。

③について
すでに多くの人が知っていることでは新たなプライバシー侵害にはならない、ということですね。
但し、電話帳に載っている等である程度知られうる情報でもそれをネット上で公開したり、あるプライバシー情報を含むツイートをリツイートなどで拡散した場合には、
「より多くの人が知ってしまうことになる」ということでプライバシー侵害が認められています。


では、次にプライバシー侵害についての裁判例を紹介します。

住所・氏名さらし事案

インターネットのチャットルームにおいて,原告の住所・氏名を公開するとともに,「郵便局の配達員クビになった」,「引き籠もり40才」などと記載した事案(大阪地裁平成20年6月26日)。

判決 
住所・氏名を公開したことをもってプライバシー侵害が認められました。

そして、住所・氏名や「郵便局の配達員クビになった」,「引き籠もり40才」などを公表することに公共性もなく、不必要な行為であって、違法性の阻却も無いとされました。

元風俗嬢への恨み男事案

インターネット掲示板で、元風俗嬢の女性に恨みを抱く男が以下のような書き込みなどを執拗に繰り返したという事案(仙台地裁平成31年4月12日)。

X1’(原告の旧姓)1990年○月○○日生まれ 28歳 バツイチ、子持ち、旦那、彼氏、愛人あり  ○○県内、某女子高卒 スナック、おっパブ、風俗の勤務経験あり 兄弟、姉妹あり  出身→青葉区(以下略)」
「私生活は充実しとるみたいやで~? 金も貯めとるみたいやし最近は新人サンも増えて店で肩身も狭いんやろ?笑 そろそろババアさかい、ソープに移籍するんやないか?」 


判決 
原告の旧姓でのフルネームだけでなく,生年月日や年齢,家族構成,実家の住所,職歴や性風俗業への勤務経験等が書き込まれており,
これらの情報は当然ながら非公知の事実であって,当該書込みが原告のプライバシーを侵害するものであることは明らかである、とされた。 

コメント
明らかなプライバシー侵害ですね。 

原告の女性がお店で働いていたときは、いわゆる源氏名を使っていましたが、女性の旧姓を公表したことだけでもプライバシー侵害を認めています。
他人の知られていない氏名・住所をネット上で公開することは原則として即プライバシー侵害となると言うことです。

ただし、単体で名字だけ載せたり、住所だけ載せたりする場合はどうでしょう。
それだけでは意味不明ですよね。

ある程度組み合わされて個人が特定されるからこそ「知られたくない情報」となるので、それに至らない情報量ではプライバシー侵害にはなりません。

そう言った意味では、この事案でも、最初の事案でも、個人を特定するに至っていると言う判断が前提にあるわけです。

グラビアアイドルの私生活事案

原告であるグラビアアイドルの女性が、SNS上で、男性との交際のことや、私生活上の行動についての写真を公開された事案(東京地裁平成30年4月27日 )。  

判決
原告の私的な交際の有無や態様等を摘示するものであるから,私生活上の事実らしく受け取られるおそれがある。

また,交際に関する事実は,原告の立場からすると主たるファン層である男性のファン離れを引き起こしかねないものであるから,一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合に公開を欲しない事柄である。

また、掲載された写真は,原告の私生活上の行動を写真に収めたものであるから,私生活上の事実である。

また,私生活上の行動については,通常は由なく公開されることを望む人はいないことから,一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合に公開を欲しない事柄である。

さらに,原告は芸能活動を行っているものの著名人とは言い難い存在であり,私生活上の行動を特に公表していることもないから,一般の人々に未だ知られていない事柄である。

したがって,これについても原告のプライバシーを侵害することは明らかである、とされた。 

コメント 
グラビアアイドルと聞くだけでドキドキしてしまうのはどうしてでしょう。

それはさておき、判決を見ればわかりますが、例えば交際の事実が嘘であっても、「私生活上の事実らしく受け取られる」と判断されれば、プライバシー侵害となるのですね。

他方で、「A子さんは、宇宙人と付き合っているらしい」なんてのはどうでしょう。
誰も信じませんよね。だからこれはプライバシー侵害にはなりません。


あと、写真の公表もプライバシー侵害になることが分かりますね。
もっとも、写真がかなり鮮明であったり、他の情報と相まって、個人が特定されればの話ですが。

誰かからの恨み事案

原告が,電子掲示板上で、何者かに自分の車を傷つけられたという事実を茶化すように書き込まれたという事案。(東京地裁平成29年10月31日)

判決 
自動車に傷をつけられること自体は,いたずらなどによりなされることもままあることであるから,そのこと自体は,一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合に,他者に開示されることを欲しないであろうとは認め難く,これが原告のプライバシーを侵害すると認めることはできない。

なお,原告は,原告が他人から悪意を持たれているという点で他人に知られたくない情報である旨主張しているが,一般的な閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすると,会社の駐車場で自動車に傷をつけられたとの印象を抱かせるにとどまるものというべきであり,原告が他人から悪意を持たれているという印象を与えるものとは認め難い、とされた。

コメント
まあ、これくらいの事実ならプライバシー侵害とはいえないんですね。
わざわざ言われたくないことではありますが。



以上、どうでしたか?
人のプライバシーは思っている以上に厚く保護されていると感じたのではないでしょうか。

くれぐれも、プライバシー侵害の加害者にならないように気を付けてください!


また、現在、ネットでの誹謗中傷、プライバシー侵害の被害に遭われた方の相談を受けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
mitsumura@vflaw.net


では!