弁護士の満村です!
今回は、何人かの有名人・インフルエンサーが誹謗中傷訴訟に臨み、一定の成果を得ている裏で、
「ネット上の表現の萎縮」という事態に繋がりかねない現状があることを憂慮し、こういう表現については違法性の認定を受けない・もしくは受けるべきでないという点について解説することにしました。
では早速見てみましょう!
これはプライバシー侵害にあたる行為ではありますが、「そもそも人気商売なんだし仕方ないのでは?」や「いやいや、大体の住んでるところ自分で言ってたじゃん」というような指摘をしたくなることもあるでしょう。
アメリカ不法行為法上、「著名人の法理」というものがあり、
勿論程度問題はありますが、以下のような点でプライバシー侵害成立範囲を狭める議論がなされています。
①著名人は、プライバシー権を放棄した、あるいはプライバシーの公表に同意した
②著名人の行為は公共性を有するので、その暴露にも一定の正当性がある
我が国の裁判例においてこれらの理論は独自の判断基準として蓄積されつつあります。
①については、当該著名人の公の場での私生活に関する言動は、その人のプライバシー権放棄や公表の合意があったことの一判断材料になると判断されています。
なので、例えばYouTuberが自分の自宅を公開し、「○○というマンションですー」のように動画上で特定して公開すれば、これがその後もプライバシーとして保護されることは基本的にないと考えられます(もっとも過度な拡散行為は違法とされる可能性があります)が、単にYouTuberが自宅の映像を公開しただけで、当該映像からそのマンションを特定し、公表するというような行為は違法となるでしょう。
②については、公表されてしまった事実が社会の正当な関心事かどうかという観点から判断し、著名人であるということから直ちに導き出されるようなものではないというような判断がされています。
「正当な関心事」って何?と思われたと思いますが、基本的には政治的なことや、社会的なことです。
政治家や社会的影響力の強い団体の幹部等についての私生活上の行状については公共的なこととして「正当な関心事」とされ易いですが、芸能人にはこれは当てはまらないという判断が裁判例上なされています。
ただ、例えば、はあちゅうさんが妊活宣言をしたのに、その宣言前に妊娠していたのではないかとして炎上してましたが、「妊活宣言」によって世の女性からの社会的な関心を集めた以上、これは「正当な関心事」となっており、仮に「実ははあちゅうは妊活宣言前に妊娠していた。なぜそう言えるかというと…」と根拠込みで発信したとして、これをプライバシー侵害で違法と判断するのは間違いのように思います。 自らの私生活の一部を、自らの影響力に代えたのですから。
この点、とある評論家(原告)が原発に関して出した論稿に対して、大学教授(被告)が猛烈なバッシングを加えたことが名誉棄損及び名誉感情侵害に当たるとして争われた裁判例が参考になります(東京地裁平成28年2月1日)。
「原告のように,広く一般に自身の見解を発表する者については,当然自身の発表した見解に対して,反対の意見を有する者から批判が加えられることがあり得る・・・社会的に多くの議論のある事柄については,専門家の立場も多種多様であって,ある者が有する見解に対して批判的な立場から意見・評価が述べられることがあっても,そのことから直ちに,その見解が誤りであることが導かれるわけではないし,その者自身の社会的評価が低下するものともいえない。」という判断が示されました。
もっとも、この被告は原告について「醜悪な猿顔」や「老醜」というような、原告の見解とは無関係の暴言も吐きまくっていたので、発言の一部は違法性が認定されています。
このことからすれば、例えば、高知在住のイケハヤさんが、「日本はオワコン」のような発信をしていてそれに対して、「前提とする事実が間違いだらけ」や「仮にそうだとしても、それを大々的に発信することはだめだ」という批判を加えても、それはイケハヤさんの影響力を考えても、甘受すべき反対意見ということになりますね。
ただ、このイケハヤさんの見解とは関係のないことで、「目がきもい、〇ね」とか「はげだるま」のようなことを執拗に発言すれば侮辱行為として違法の認定をされる可能性があります。
この点、裁判例では、侮辱的な発言が、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見して明白であることを求めます。
簡単に言えば、だれが見ても不当で強い不快感を抱くような言動といったところです。
使われる言葉や、回数、執拗さなどが考慮されます。
なぜ、侮辱行為は違法性がかなり制限されるのかについては、傷ついたかどうかは言われた人の感じ方次第で分かりにくいとういう点も踏まえて、「人が社会生活を営む以上、人との摩擦は避けられないところ、名誉感情に広く法的保護を及ぼせばおよそ人の自尊心を傷つけるだけで違法となり、他人についての自由な論評をすることができなくなってしまう」という議論(「Q&A 名誉棄損の法律実務」(民事法研究会、2014))が参考になります。
芸能人やインフルエンサーが炎上を招くような言動をあえてしておいて、それに対して「とんでもないやつだ!」「謝罪しろ!ばか!」というような批判を受け、飛んで火にいる夏の虫とばかりに訴追するようなことをしても、違法性の認定はかなり限られると言えますね。
「お前も悪いやん」というのが一般的な社会の見方と言えそうですからね。
ではでは。
今回は、何人かの有名人・インフルエンサーが誹謗中傷訴訟に臨み、一定の成果を得ている裏で、
「ネット上の表現の萎縮」という事態に繋がりかねない現状があることを憂慮し、こういう表現については違法性の認定を受けない・もしくは受けるべきでないという点について解説することにしました。
では早速見てみましょう!
有名人とプライバシー侵害
芸能人やインフルエンサーと呼ばれるような方々の住所や経歴、その他の私生活上の行状がネット上で暴露されることはよく目にすることです。これはプライバシー侵害にあたる行為ではありますが、「そもそも人気商売なんだし仕方ないのでは?」や「いやいや、大体の住んでるところ自分で言ってたじゃん」というような指摘をしたくなることもあるでしょう。
アメリカ不法行為法上、「著名人の法理」というものがあり、
勿論程度問題はありますが、以下のような点でプライバシー侵害成立範囲を狭める議論がなされています。
①著名人は、プライバシー権を放棄した、あるいはプライバシーの公表に同意した
②著名人の行為は公共性を有するので、その暴露にも一定の正当性がある
我が国の裁判例においてこれらの理論は独自の判断基準として蓄積されつつあります。
①については、当該著名人の公の場での私生活に関する言動は、その人のプライバシー権放棄や公表の合意があったことの一判断材料になると判断されています。
なので、例えばYouTuberが自分の自宅を公開し、「○○というマンションですー」のように動画上で特定して公開すれば、これがその後もプライバシーとして保護されることは基本的にないと考えられます(もっとも過度な拡散行為は違法とされる可能性があります)が、単にYouTuberが自宅の映像を公開しただけで、当該映像からそのマンションを特定し、公表するというような行為は違法となるでしょう。
②については、公表されてしまった事実が社会の正当な関心事かどうかという観点から判断し、著名人であるということから直ちに導き出されるようなものではないというような判断がされています。
「正当な関心事」って何?と思われたと思いますが、基本的には政治的なことや、社会的なことです。
政治家や社会的影響力の強い団体の幹部等についての私生活上の行状については公共的なこととして「正当な関心事」とされ易いですが、芸能人にはこれは当てはまらないという判断が裁判例上なされています。
ただ、例えば、はあちゅうさんが妊活宣言をしたのに、その宣言前に妊娠していたのではないかとして炎上してましたが、「妊活宣言」によって世の女性からの社会的な関心を集めた以上、これは「正当な関心事」となっており、仮に「実ははあちゅうは妊活宣言前に妊娠していた。なぜそう言えるかというと…」と根拠込みで発信したとして、これをプライバシー侵害で違法と判断するのは間違いのように思います。 自らの私生活の一部を、自らの影響力に代えたのですから。
反対意見・批判と名誉棄損
影響力ある人物のある見解についての発信に対して、厳しい批判やバッシングを加えることは名誉棄損でしょうか?この点、とある評論家(原告)が原発に関して出した論稿に対して、大学教授(被告)が猛烈なバッシングを加えたことが名誉棄損及び名誉感情侵害に当たるとして争われた裁判例が参考になります(東京地裁平成28年2月1日)。
「原告のように,広く一般に自身の見解を発表する者については,当然自身の発表した見解に対して,反対の意見を有する者から批判が加えられることがあり得る・・・社会的に多くの議論のある事柄については,専門家の立場も多種多様であって,ある者が有する見解に対して批判的な立場から意見・評価が述べられることがあっても,そのことから直ちに,その見解が誤りであることが導かれるわけではないし,その者自身の社会的評価が低下するものともいえない。」という判断が示されました。
もっとも、この被告は原告について「醜悪な猿顔」や「老醜」というような、原告の見解とは無関係の暴言も吐きまくっていたので、発言の一部は違法性が認定されています。
このことからすれば、例えば、高知在住のイケハヤさんが、「日本はオワコン」のような発信をしていてそれに対して、「前提とする事実が間違いだらけ」や「仮にそうだとしても、それを大々的に発信することはだめだ」という批判を加えても、それはイケハヤさんの影響力を考えても、甘受すべき反対意見ということになりますね。
ただ、このイケハヤさんの見解とは関係のないことで、「目がきもい、〇ね」とか「はげだるま」のようなことを執拗に発言すれば侮辱行為として違法の認定をされる可能性があります。
侮辱的発言とその権利侵害性
では、次に、気に入らないインフルエンサーに対して、「ぼけ」「やめちまえ」のようなちょっとした暴言を吐いたら即アウトでしょうか。この点、裁判例では、侮辱的な発言が、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが一見して明白であることを求めます。
簡単に言えば、だれが見ても不当で強い不快感を抱くような言動といったところです。
使われる言葉や、回数、執拗さなどが考慮されます。
なぜ、侮辱行為は違法性がかなり制限されるのかについては、傷ついたかどうかは言われた人の感じ方次第で分かりにくいとういう点も踏まえて、「人が社会生活を営む以上、人との摩擦は避けられないところ、名誉感情に広く法的保護を及ぼせばおよそ人の自尊心を傷つけるだけで違法となり、他人についての自由な論評をすることができなくなってしまう」という議論(「Q&A 名誉棄損の法律実務」(民事法研究会、2014))が参考になります。
芸能人やインフルエンサーが炎上を招くような言動をあえてしておいて、それに対して「とんでもないやつだ!」「謝罪しろ!ばか!」というような批判を受け、飛んで火にいる夏の虫とばかりに訴追するようなことをしても、違法性の認定はかなり限られると言えますね。
「お前も悪いやん」というのが一般的な社会の見方と言えそうですからね。
最後に
以上、いかがでしたでしょうか。 まっとうな批判や、本来許される範囲内でのネット上のおふざけのような言動がいちいち「はい訴えられるー!」というように脅かされ、表現の萎縮が進んでしまわないように、一材料として本記事を提供しました。ではでは。