お久しぶりです。
弁護士の満村です。
新たに法律事務所を開業してバタバタしたこともあり、しばらく発信活動は控えていましたが、今日は話題の(?)裁判例について紹介していければと思います。
東京地裁の令和3年12月10日判決、いわゆる「スクショによる引用リツイート」は違法だと判断した判決です。
以前の記事でこの問題について言及し、「他人のツイートのスクショを使った引用リツイートが違法と判断される可能性はあり、やめておいた方がいい」といった考えを示していましたが、がっつりアウトの判断が東京地裁によって下されました。以前の記事↓
「このスクショによる引用リツイート」とは下のような感じのものです。引用されているツイートは、スクリーンショットにより切り抜かれ保存された画像データです。

Twitterには、正規の「引用リツイート」の機能があり、Twitterでは他人のツイートを引用する際には、この機能を使うことが推奨されています。
もっとも、現実には、正規の「引用リツイート」よりも「スクショリツイート」の方が多いのではないか??と思うほど、「スクショリツイート」は盛んに行われてきました。
なぜなのか?
日常的な使われ方を見ていると、①引用元のツイートをした人に、自分が引用していることをできれば知られたくない(「引用リツイート」だと通知が行っちゃう)、という感情によるものが多いのではないでしょうか。
そのツイートに対して否定的な見解を述べる場合に多用されてそうですから。
あとは、②引用元のツイートをした人にブロックされていて、正規のリツイートができないといったことやそれ以外の理由もあると思います。
では、なぜ「スクショリツイート」が違法となったのか。
裁判例に即してその理由を紹介していきます。
1 著作物性について
以前の記事でも紹介しましたが、著作権法によって保護される「著作物」と言えるためには、
「その人の個性が現れている表現行為」、
もう少し分解すると、
「その人の考えや感情が表れている表現行為」であればいいことになっています。
多くのツイートはこれに当てはまり、著作物として保護されることになります。
「今日は晴れてたので公園に行きました!」とかは単に事実の報告として著作物ではないでしょうが。。
ではでは、今回の裁判で対象となったツイートとはどんなものだったか。
対象となったツイートは複数ありますが、その一つは
「@B @C @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう
「あたかも」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く 同じ」だって言ってるんだよ。 結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃ ねーか。お前も含めてな。」
というものです。
著作物でしょうか?
著作物なんです。
裁判所はその理由を以下のように示しました。
「(上記の投稿)は,140文字以内という文字数制限 の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見 を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成 2には作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である 原告の個性が現れているということができる」
「高圧的な表現である」ことも著作物性の根拠になっているようですね。
まあ、それほどツイート主の感情が詰まっているのだからということでしょう。
このように、内容の良し悪しと著作物性とは関係が無いということですね。
さて、このツイートが著作物であることはいいとして、問題は、「引用」が認められるかどうかです。
2 引用の成否について
著作権法32条には、「引用」についての規定が置かれており、簡単に言うと、
「すでに公表された著作物を常識的な範囲内で使用することは著作権侵害じゃないですよ」
というものです。
今回の発信者は、上の「卑怯者のクソ野郎じゃねえかツイート」をスクショで引用し、
「私に対してのリプ 何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」と呟きました。
意訳すると、「なんかすごい恫喝されてるけど皆これどう思います?ひどいですよね?私何もしてませんよ?」
ということで、これを言うために問題のツイートをスクショで引用したのです。
このスクショの引用が無いと、何を言っているのか分かりませんし、引用元ツイートの方が文字数が多いとはいえ「私に対してのリプ 何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」をメインとして伝えたいというのはわかるので、常識的な範囲内かなとも思えます。
ただ、裁判所はこう言いました。
「ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しな ければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうする と,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用すること なく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反す るものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。 また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占める原告各投稿の スクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用することが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。したがって,原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイ ッターに掲載することは,著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足しないというべきである。」
①Twitterの規約違反やん!と、②スクショでかいし、これを晒すのが目的やろ?
です。
ネット上の記事を見ると、
①Twitterの規約違反をごり押しして「引用」を認めないのはおかしいのではないか?実質的な理由ではないですよね?という見解が見られます。
ただ、この①の理由の裏には、私が以前の記事でも述べた以下の理由が潜んでいるのだと思います。
スクショ画像が改変される可能性がある、投稿者本人がツイートを消した場合にも拡散することができるのでその場合明らかに投稿者の意思に反する拡散になってしまう、引用リツイートと違って見た人が元ツイートにワンクリックで容易にたどり着けるものでないため投稿者の利益とはなりにくい(むしろ晒されるだけになってしまう)等の問題がある、
というものです。
なぜこれら理由が潜んでいると言えるのかというと、そもそもこれらの理由によりTwitter社は、利用規約で、正規の引用リツイート以外のリツイートを推奨していないと考えられるからです。
判決文にもこれら実質的理由が盛り込まれればよかったですが、実際は少し疑問符の付く判決になってしまいましたね。
以上から、私の見解としては、「スクショリツイートはやはり著作権侵害。訴えられる前にやめよう!」というものです。
ただ、この裁判、被告側が控訴しているようです。 もしかすると、高裁でこの判断はひっくり返るかもしれません。
注目していきたいですね。
このような著作権の問題のみならず、誹謗中傷やプライバシー侵害等ネット上のトラブルについて幅広く、ご相談を受け付けております。 御用の方は、mitsumura@vflaw.net までご連絡ください。では!
弁護士の満村です。
新たに法律事務所を開業してバタバタしたこともあり、しばらく発信活動は控えていましたが、今日は話題の(?)裁判例について紹介していければと思います。
東京地裁の令和3年12月10日判決、いわゆる「スクショによる引用リツイート」は違法だと判断した判決です。
以前の記事でこの問題について言及し、「他人のツイートのスクショを使った引用リツイートが違法と判断される可能性はあり、やめておいた方がいい」といった考えを示していましたが、がっつりアウトの判断が東京地裁によって下されました。以前の記事↓
「このスクショによる引用リツイート」とは下のような感じのものです。引用されているツイートは、スクリーンショットにより切り抜かれ保存された画像データです。

Twitterには、正規の「引用リツイート」の機能があり、Twitterでは他人のツイートを引用する際には、この機能を使うことが推奨されています。
もっとも、現実には、正規の「引用リツイート」よりも「スクショリツイート」の方が多いのではないか??と思うほど、「スクショリツイート」は盛んに行われてきました。
なぜなのか?
日常的な使われ方を見ていると、①引用元のツイートをした人に、自分が引用していることをできれば知られたくない(「引用リツイート」だと通知が行っちゃう)、という感情によるものが多いのではないでしょうか。
そのツイートに対して否定的な見解を述べる場合に多用されてそうですから。
あとは、②引用元のツイートをした人にブロックされていて、正規のリツイートができないといったことやそれ以外の理由もあると思います。
では、なぜ「スクショリツイート」が違法となったのか。
裁判例に即してその理由を紹介していきます。
1 著作物性について
以前の記事でも紹介しましたが、著作権法によって保護される「著作物」と言えるためには、
「その人の個性が現れている表現行為」、
もう少し分解すると、
「その人の考えや感情が表れている表現行為」であればいいことになっています。
多くのツイートはこれに当てはまり、著作物として保護されることになります。
「今日は晴れてたので公園に行きました!」とかは単に事実の報告として著作物ではないでしょうが。。
ではでは、今回の裁判で対象となったツイートとはどんなものだったか。
対象となったツイートは複数ありますが、その一つは
「@B @C @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう
「あたかも」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く 同じ」だって言ってるんだよ。 結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃ ねーか。お前も含めてな。」
というものです。
著作物でしょうか?
著作物なんです。
裁判所はその理由を以下のように示しました。
「(上記の投稿)は,140文字以内という文字数制限 の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見 を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成 2には作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である 原告の個性が現れているということができる」
「高圧的な表現である」ことも著作物性の根拠になっているようですね。
まあ、それほどツイート主の感情が詰まっているのだからということでしょう。
このように、内容の良し悪しと著作物性とは関係が無いということですね。
さて、このツイートが著作物であることはいいとして、問題は、「引用」が認められるかどうかです。
2 引用の成否について
著作権法32条には、「引用」についての規定が置かれており、簡単に言うと、
「すでに公表された著作物を常識的な範囲内で使用することは著作権侵害じゃないですよ」
というものです。
今回の発信者は、上の「卑怯者のクソ野郎じゃねえかツイート」をスクショで引用し、
「私に対してのリプ 何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」と呟きました。
意訳すると、「なんかすごい恫喝されてるけど皆これどう思います?ひどいですよね?私何もしてませんよ?」
ということで、これを言うために問題のツイートをスクショで引用したのです。
このスクショの引用が無いと、何を言っているのか分かりませんし、引用元ツイートの方が文字数が多いとはいえ「私に対してのリプ 何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」をメインとして伝えたいというのはわかるので、常識的な範囲内かなとも思えます。
ただ、裁判所はこう言いました。
「ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しな ければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうする と,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用すること なく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反す るものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。 また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占める原告各投稿の スクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用することが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。したがって,原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイ ッターに掲載することは,著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足しないというべきである。」
①Twitterの規約違反やん!と、②スクショでかいし、これを晒すのが目的やろ?
です。
ネット上の記事を見ると、
①Twitterの規約違反をごり押しして「引用」を認めないのはおかしいのではないか?実質的な理由ではないですよね?という見解が見られます。
ただ、この①の理由の裏には、私が以前の記事でも述べた以下の理由が潜んでいるのだと思います。
スクショ画像が改変される可能性がある、投稿者本人がツイートを消した場合にも拡散することができるのでその場合明らかに投稿者の意思に反する拡散になってしまう、引用リツイートと違って見た人が元ツイートにワンクリックで容易にたどり着けるものでないため投稿者の利益とはなりにくい(むしろ晒されるだけになってしまう)等の問題がある、
というものです。
なぜこれら理由が潜んでいると言えるのかというと、そもそもこれらの理由によりTwitter社は、利用規約で、正規の引用リツイート以外のリツイートを推奨していないと考えられるからです。
判決文にもこれら実質的理由が盛り込まれればよかったですが、実際は少し疑問符の付く判決になってしまいましたね。
以上から、私の見解としては、「スクショリツイートはやはり著作権侵害。訴えられる前にやめよう!」というものです。
ただ、この裁判、被告側が控訴しているようです。 もしかすると、高裁でこの判断はひっくり返るかもしれません。
注目していきたいですね。
このような著作権の問題のみならず、誹謗中傷やプライバシー侵害等ネット上のトラブルについて幅広く、ご相談を受け付けております。 御用の方は、mitsumura@vflaw.net までご連絡ください。では!
