弁護士みつむらの法律blog

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カテゴリ: 裁判例紹介

弁護士の満村です!

最近では、発信者情報開示請求が飛び交っており、もはやそれを傍観する人も「なんと人の個人情報の儚いことか」と、個人情報の重みの低下を主観的に感じとってしまっているかもしれません。

しかし、そんなことはありません。
デジタルタトゥーという言葉もある時代、個人情報の重みはむしろどんどん増しているはずです。

今回は、発信者情報開示請求訴訟において、個人情報の重みを軽視してしまった人の裁判例を紹介します。開示を受ける「正当な理由」が否定され、請求棄却となりました。
東京地方裁判所 平成25年04月19日判決です。 

1 事案の概要

 2ちゃんねるでなされた投稿が、原告の人格権ないし著作権を侵害したとして、原告が、被告(プロバイダ)に対し、氏名不詳者の発信者情報である氏名又は名称、住所、電子メールアドレスの開示を求めた事案。  
本件に関して、権利侵害を主張する原告はあろうことか自身のブログに以下の記事を掲載しました。

(ア) 氏名住所が分かり次第、弁護士とは別に探偵や興信所があなたの全てを調べます。家族構成、勤め先、学校、資産背景など調査します。   
(イ) 卑怯な小心者は、表舞台に引きずり出して、晒し者にして差し上げますよ。どんな奴か皆で拝見しましょうね。   
(ウ) プロバイダー全社の開示請求終了  実名が公に公表されてもプライバシーの侵害にはあたりませんよ。   
(エ) 月末までの告知が過ぎたので、今月から本格的に次のステージに進みます。バーチャルな世界で特定した人を集中的に攻撃していた方達が、今度は現実の世界では自分たちが今度は追いつめられて行く訳だ。それも一人ずつジワリジワリと、私のネット専門の代理人が追い詰めて行く。私だったら毎日落ち着いて寝る事もできないかもしれないね。家族がいれば、その不安が倍以上になってしまうだろう。   
(オ) あなたは喧嘩する相手を間違えてしまいましたね。昔、私が狩猟をしていた時の「イノシシ狩り」にこの作業は似ていると思った。   ・・・   さあ、次のステージは「ショータイム」になりそうですね。不動産投資業界に、あなたを知る人が大勢いるでしょうね。全てを暴露して差し上げますよwww   
(カ) 先月一杯までは、私には名前を知らせず、弁護士側だけで処理するはずだった。それに従っていれば穏便に済ませて、名前も世間に公表されなかったのにね。   

これについて指摘を受けた原告は、裁判の中で弁解として、平成25年1月21日付の陳述書を提出。
その中で、  
(ア) 私に対する書き込みに、私や家族は長年苦しめられてきました。ですので、発信者に対し法的措置を執ることを決めた際、やっとこのような理不尽な仕打ちに対抗することができる、と嬉しくなりました。   
(イ) その勢いとお酒も手伝って、発信者をさらし者にするとか、今回の訴訟をイノシシ狩りにたとえるようなブログ記事を書いてしまいましたが、もちろん違法なことをするつもりはまったくありません。発信者や発信者の家族の生命に危害を及ぼすこともありませんし、発信者をさらし者にしたり、家族や職場に対する嫌がらせなんてしません。   


このような弁解をしたにもかかわらず、原告は、平成25年2月9日、「ネットの世界だけで好き放題言っていた小心者のグズ奴らが誰なのか、名前が公開される時が来ました!昨年の8月から結構時間が掛かったのは、奴らグルになって証拠資料を集め、言い逃れをしてジタバタしてたので時間が掛かりました。ここからが本番で、全ての首謀者達を公開します!お楽しみに!」という内容のブログ記事等をさらに掲載するに至りました。   

2 裁判所の判断

法4条2号(プロ責法)は、損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることを、発信者情報開示請求を認める要件の1つとしているが、
法4条3項が、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならないと規定していることからすれば、少なくとも、発信者情報の開示請求をしている者に、開示を求めている発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図があると認められる場合には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと解するのが相当である。

そこで検討するに、原告が、発信者に対して損害賠償請求等をする意図を有していること自体は否定しないにしても、上の通り、原告は、自身のブログにおいて、発信者情報を取得した後、探偵等をつかって全てを調べる、晒し者にする、全てを暴露する、名前を世間に公表するなどと繰り返し投稿し、被告からこれらのブログ記事について指摘を受けると発信者情報を不正使用する意図はない旨の陳述書を証拠提出したが、その後も、自身のブログにおいて、発信者の名前を公表する旨の投稿をしているのであり、かかる事実経過に照らせば、原告において、開示を求めている発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図を併せ持っているものといわざるを得ない。   

以上によれば、原告には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとは認められない。 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する・・・。



「個人情報晒してやる!」などと言っている人への個人情報の開示が拒まれることなど当たり前と言えば当たり前なのですが、いざ自分が優位な立場に立つと人はこのように勇んでしまうものなのでしょうか。

せっかく権利救済へと努力していても、これでは時間やお金、労力の無駄使いですね。

もしあなたが発信者情報開示請求を受けたのであれば、請求者がどんな人で、どんなことを言っているか、やっているかに着目した反論をするのも一つの切り口です。


現在、発信者情報開示請求を受けた方がプロバイダから受け取る意見照会書への回答書の作成を多くやっております。
詳細は別記事にて公開しています。



回答書をテキトーに自分で作ってしまうことはその後の損害賠償請求訴訟の段階にも暗い影を落とします。
まずは相談してください。連絡先はこちらです。benngoshi.mitsumura4715@gmail.com

では!


弁護士の満村です!

前回の記事では、とある会社(A社)を投資詐欺会社として名指しで批判した弁護士XがA社から訴えられたことで、弁護士Xが逆にA社代理人の弁護士Yを訴えた訴訟について紹介しました。



そして、この訴訟では弁護士Yの一連の行為(A社を代理し、Xに対して刑事告訴、損害賠償請求訴訟提起等をした)は違法でないとされました。

この記事では、弁護士Yが赦されたのはなぜか、そしてA社自体は赦されなかったということについて説明していきます。

いつも通り、なるべくわかりやすい記事にするため敢えて簡単な用語を使うので、法律に詳しい人からしたら突っ込みたくなる言い回しも使うかもしれないですがご容赦ください。

そもそも、前回紹介した「弁護士X vs 弁護士Yの訴訟」は言わば傍論的な訴訟で、
メインは、最初にA社が弁護士Xを訴えた「弁護士X vs A社の訴訟(東京地裁平成28年(ワ)31015号及び東京地裁平成29年(ワ)30626号)です。

最初に訴えたのはA社(本訴)で、これに対して弁護士XがA社に反訴提起したので、上のように事件番号が2つあります。

 反訴・・・本訴と同じ手続きの中で審理されることを求めて被告が原告を訴えること。

A社は、「弁護士Xが自分たちをブログ内で詐欺師呼ばわりして、名誉を棄損し、業務を妨害した!」として、弁護士Xに対して損害賠償請求訴訟を提起したのでした。

これに対して、弁護士Xは、「A社は詐欺会社であるのに、それを暴いた私を刑事告訴し、懲戒請求し、さらにこの訴訟を提起した。これらは全て違法だ!」として、損害賠償請求の反訴を提起しました。


ここで、詐欺会社と書かれたA社が何をしていたかですが、「第三者から出資を受けて、福島第一原発事故に関する除染作業を行う作業員の宿舎を建設し、その宿舎をT社に貸して賃料をもらい、その賃料を出資者に配当する」というスキームを組み立てて出資者を勧誘していたのでした。

このスキームが本当に機能して出資者にもお金が還元される実体あるものであれば、A社は真っ当な会社であり、それを詐欺師呼ばわりした弁護士Xは損害賠償責任を負うことになります。

しかし、この裁判中に破産手続をしていたT社に対して裁判所が上の点を問いただしたところ(実際には裁判所の調査嘱託(民事訴訟法第186条)に対してT社破産管財人が回答した)、A社とT社間では宿舎の賃貸借契約書が作成されてはいたが、その対象となるはずの宿舎はどこにも存在せず、両社間には実際に賃貸借契約を締結する意思がなかった。そのため、出資者に賃料が配当されることはなかった。
ということが認定されました。
(注:もっとも、控訴審判決(令和2年8月5日)においては、上記のA社による投資話に実体が無かったという点が否定され、A社が詐欺会社であるような事実が否定されました。)

このように(地裁においては)A社が詐欺をしていたことが判明し、弁護士Xの記事投稿は市民を詐欺被害から守るためにしたことで、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われたものであり、その摘示事実は、真実であるから、A社の名誉を棄損したとしても違法性が阻却されると判断されたのです。

逆に、A社は当然自らの投資詐欺行為を認識しながら弁護士Xに各種の法的措置をとっていたのであるから、その行為は弁護士Xに多大な損失を与えるものであったとして、A社に100万円の賠償責任があるという判決になりました。
(注:この点も控訴審判決では前提となる事実が異なるために賠償責任に関する判断が覆り、逆に弁護士Xが100万円の賠償責任を負うこととなりました。)

A社を代理していた弁護士Yはというと・・・

・A社が本当は詐欺会社だったということは上のように裁判の場で客観的に明らかになった

・A社からの依頼を受けた時点ではちゃんと作られた賃貸借契約書等の資料を判断材料にするしかなかった

というようなロジックで、弁護士Yは赦されることになったのでした。

もっとも、注に入れているように、つい最近出された控訴審判決では、A社の投資話や事業には実体があったとされていますから、このような地裁判決の法的判断は「地裁判決の中で認められた事実を前提にすればこのように判断される」ことが示されたという風に理解できます。

はい!今回の記事はこんなところです!
根拠なく人を法廷に引きずりだしたり、警察に突き出したりすれば、自分が違法行為の主体になってしまうということが分かりますね。

弁護士も、依頼者から「聞いてください!あんなことも、こんなことも書かれて傷つきました!!」と泣きつかれたからといって、
軽はずみに「お助けしますよ!キラッ」と安請け合いしてはいけないということです。

その投稿は本当にあったのか?どういう文脈でそうなったのか?真っ当な批判ではないのか?

人を訴えるのならしっかり考えてからやりましょう。

では!

弁護士の満村です!

今回は新しい裁判例の紹介なのですが、非常に面白い内容です。
分かりやすくかみ砕いて書いたのですぐに読めると思います!

最近、ネット上で「赤狩り」ならぬ「誹謗中傷狩り」のような事態が見受けられますが、
ちょっとした批判などを発端にしたほとんど嫌がらせのような法的措置の行使が今後横行することを懸念していました。
Youtuberなどが「アンチコメうざいから片っ端から訴えてみた。」みたいな動画を出すとかありそうですよね(もうあるのかもしれません)。

では、法的措置をとることが逆に違法になってしまうことはあるのでしょうか
大したことをしてないのに、ある日突然訴状が届いて弁護士に相談しないといけなくなったり、刑事告訴されて警察のお世話になるなんてたまったもんじゃないですよね。

それでも「弁護士つけての法的措置なんだから全部大丈夫」となるのでしょうか。

この問題について判断した新しい裁判例が出ています。

東京地裁令和元年10月1日判決(東京地裁平30(ワ)33189号)です。

事案
とある弁護士Xが、自身の所属する法律事務所のブログで、A社に対し、「事業に実体がない。」「A社から資金提供を持ち掛けられてもそれは詐欺話である。」などのように投稿したのに対して、A社が代理人弁護士Yをつけて、弁護士Xを刑事告訴し、損害賠償請求訴訟を提起した。
これに対してXは、A社の代理人Yが自分に対して①刑事告訴、②損害賠償請求訴訟提起をしたのは、しっかりとした裏付け調査もせずにした違法な行為だとして、逆にXがYに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

判決
①刑事告訴について

告訴人が自らの認識、記憶に基づいて刑事告訴することは、その後の捜査によって告訴された側に犯罪の嫌疑が無いことが判明した場合であっても、直ちに違法となるものではない。

ただし、虚偽の事実に基づいて告訴したり、事実関係や証拠を十分に検討せずに行った告訴は、国家の刑事司法作用を害し、また、告訴された者の名誉や信用を毀損するから違法となることがある。
代理人である弁護士も、法律の専門家として十分な調査・検討を行わずした刑事告訴は、違法であり、損害賠償責任を負うことになる。

②損害賠償請求訴訟提起について

民事訴訟の提起については、当該訴訟における主張が、事実的、法律的根拠を欠く上に、根拠がないことを知っていたり、根拠のないことに普通なら気づくような状況でなされたような場合には、訴訟提起が相手方に対する違法行為になり損害賠償責任を負う。
代理人である弁護士も十分な調査・検討を行っていないのであれば、同様に責任を負う。



以上のように、代理人である弁護士が加害者になることも含めて、人に法的措置をとることの違法性の基準が示されました。
ただ、この訴訟では被告の弁護士Yは損害賠償責任を負わないとされました。
しかし、別訴訟(A社が最初にXを訴えた訴訟の中でXが反訴した)では、A社が本当に実体の無い詐欺師まがいの会社であるとして、A社本人による弁護士Xに対する刑事告訴や損害賠償請求訴訟提起は違法と判断されています。(注:もっとも、控訴審判決(令和2年8月5日)では、A社が実体のない投資話を持ちかけたわけではなく、詐欺を行なっていた事実もないと判断されました。ただし、事実が否定されただけで、違法性に関する上の基準が否定されたわけではありません。地裁で認定された事実をベースにすれば、こう考えるべきという裁判所の判断はそのまま参考にできます。)

そして、弁護士Yが許されたのは、刑事告訴や訴訟提起当時、YがA社の実体を見抜けなかったことは諸々の事情に照らしてやむを得ないとの判断がなされたからでした
逆に言えば、弁護士が、面白がって、もしくは金の為に、根拠ない法的措置に加担したとすれば違法との判断がされるでしょう。

と、いうことで、今回の記事は終わりです。

「ちょっと批判しただけなのに損害賠償請求訴訟を提起された」という方は逆に訴訟提起してやりましょう。
ではでは!

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