弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係等の法律問題についての発信をしています。

カテゴリ: ネットトラブル

弁護士の満村です。

昨今、有名人の性的スキャンダルが話題となり、芸能界やスポーツ界などを大いに揺るがしています。

情報源の多くは週刊誌ですよね。

そして、週刊誌の記事に対して、有名人側が法的措置をとることも耳にします。

ここでの争点は、“スキャンダルが真実かどうか” とされていることが多いですが、果たして真実なら週刊誌側に違法性はない、となるのでしょうか?

少しそこには誤謬が潜んでいるように思います。

今回はそこを簡潔に説明していければと思います。

1 名誉棄損の成立要件について少し

性的スキャンダルは、一般的にそれを公にされた人の名誉を毀損することは明らかです。
著しくその人の社会的な評価を低下させますからね。

とはいえ、名誉棄損は、
①公共の利害に関する事実に関するものであって(公共性)、
②専ら「公益を図る目的」があり(公益目的性)、
③摘示された事実が真実である(真実性)

と言えれば、その違法性が阻却されて、損害賠償の責任も無くなります。

多くの場合、有名人が週刊誌と争う場合、ここが争点になることが多いように思います。

では、社会において、一定以上の影響力のある有名人であれば、上の②公共性が簡単に認められるのでしょうか??

2 政治家の場合
 
刑法230条の2の2項では、名誉毀損罪に該当する行為が、「公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。」と規定されていて、政治家も公務員であるため、名誉を毀損する内容が真実である場合には、名誉毀損罪が成立しないことになります。

これは、国会議員等の政治家は、国民の代表として、いわゆる「公人」として存在している以上、公人に関する事項は、公人の名誉よりもその事実を周囲に公表することにより国民の利益(知る権利等)を尊重すべきと考えられているからです。

3 芸能人の場合   
では、本記事のメインテーマである芸能人が、性的スキャンダルを報じられたような場合はどうでしょうか。

芸能人は当然,公務員ではありません。

ここで、とある最近の裁判例を紹介します。
 東京地方裁判所平成21年08月28日判決です。

元アイドルのタレントAさんが、元カレに法外な慰謝料をせびっているなどの男女トラブルを週刊新潮に書かれたという件で、このような判示がされています。

原告Aが、アイドルグループ「B」の元メンバーであり、同グループ脱退後も芸能活動に従事しているにしても、公職ないしそれに準ずる公的地位にあるものではなく、また芸能活動自体は、一般人の個人的趣味に働き掛けて、これを通じて公共性を持つものであるから、必ずしも私的な生活関係を明らかにする必要があるとの特段の事情は認められない。

はい、少なくとも、私生活上の事柄であれば、芸能人のスキャンダルが公共の利害や公益とは無関係だと考えているわけです(犯罪に至ったものなどは別であることには要注意)。  

よって、多くの場合、有名人側が週刊誌を訴えれば勝つわけです。

しかし、暴露された芸能人が、全員週刊誌を訴えないのはなぜかというと、

①法的紛争を抱えることがさらなるイメージダウンを招く、
②慰謝料をとれても、暴露された事実が真実であることがより固まってしまう(より詳細になる)、
③損害賠償として請求することができる金額は多くて数百万程度であり、内容によっては数十万程度しか認められない場合もある
④素直に謝罪することがイメージアップにつながることもある

等など考えられます。

そして、マスコミ側としても、少額の賠償を払うリスクよりも、その内容を記事にすることによる利益を優先してしまっているので、週刊誌による暴露が止まらないわけです。


4 思うこと
性的スキャンダルとひとえに言っても、それが本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)であれば、週刊誌を始めマスコミがそれを報じることに公共性が認められます。

ただ、「本当に証拠に基づいて判断された性犯罪(又はそれに類する違法行為)」かどうかを判断するのは司法の領域です。

週刊誌が先陣を切って「今回の報道には自信を持っている」なんて言うのは少し滑稽です。

週刊誌が率先して芸能人やスポーツ選手を潰しに行くかのような今の状況は変えて欲しいと思っています。
しかし、週刊誌が利益を追求する以上、この状況は中々変わりません。

多くの人が意見しているように、私も、名誉棄損の慰謝料相場の引き上げしか答えが無いように思います。
この問題は、これから、国民全体での議論を必要とするでしょう。

では、今回の記事はこれまでです!

私の法律事務所では、こういった名誉棄損事件を始め様々な事件を取り扱っております。
HP→弁護士法人長堀橋フィル  -大阪市中央区の法律事務所- (nflaw.jp)
お困りごとがありましたら、一度、ご相談ください。
メール k-mitsumura@nflaw.jp

弁護士の満村です。

おそらくこの記事を見ていただいている方の中で、ステマを知らない方はいないのではないでしょうか?

ステルスマーケティング(ステマ)とは、一般的に、消費者に広告・宣伝と気付かれないように行われる広告・宣伝行為のことをいうとされています。

古くは、誰もが知っているような芸能人がこのステマの実行役になっていたこともありますし、最近で言うと、インフルエンサーと呼ばれる方々のちょっとした収入源かもしれません。

このステマが、令和5年10月1日から明確に景品表示法違反となりました。

消費者庁もサイト内で呼びかけています☟
令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。(消費者庁HP)

ステマ規制に違反するということは、後で詳しく説明しますが、景表法5条3号に違反するということになりますので、消費者庁等による、措置命令(景表法7条)や、措置命令に違反した場合の刑事罰(景表法36条等)の対象とされています。

では、以下の目次の通り、まずはステマの現在と歴史から見ていきましょうか。

目次

  1. ステマの現在と歴史
  2. なぜ景品表示法違反なのか
  3. 事業者・インフルエンサー向け対応策
  4. まとめ

ステマの現在と歴史

とある企業が消費者庁の委託を受けて実施した調査で、SNSのフォロワー数が50万人未満のインフルエンサー300人に回答を求めたところ、全体のおよそ4割にあたる123人が、「広告主からステマの依頼を持ちかけられた経験がある」と回答し、さらに、ステマの依頼にどう対応したか尋ねたところ、55人が、「すべて受けた」か「一部、受けたことがある」と答え、全体の2割近くがステマを行っていたことがわかったというものがあるそうです。(「ステマ」規制へ “インフルエンサー 2割近く行う”結果も(NHK) )


では、過去を振り返ってみましょう。
一つ目に取り上げるのは、芸能人によって行われた、ペニーオークション詐欺事件に関するステマです。

ペニーオークション詐欺事件とは、運営会社が入札しても落札できない仕組みのペニーオークションサイトを用いて入札者から手数料をだまし取ったとされる詐欺事件で、 そのオークションサイトは「入札すればするほど運営会社に手数料が入る」システムになっており、運営会社は架空の会員名義による入札を繰り返し価格を不当に吊り上げ、入札者がなかなか落札できないように細工を行っていたとされています。 また、家宅捜索の結果、そもそも商品のほとんどを仕入れた形跡がなく、最初から入札者に商品を販売する意思がなかったことが発覚したとされ、サイトの運営者は詐欺罪で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けました。
このペニーオークションサイトの運営会社は複数の芸能人に広告・宣伝を依頼し、高額な商品を格安で落札することができるように見せかける宣伝を行っていました。

芸能人らは自身のブログに、運営会社からの依頼であることを隠して、「オークションサイトで商品を安く落札できた!」などとあたかも高額商品を格安で落札できたかのような文章を書き込んでいました。

次に、女子アナによるステマ疑惑事件も有名かと思います。
東京キー局女子アナたちが、芸能人御用達の人気美容室に通い、ヘアカットだけでなく、その系列店でもネイルやマツエクなどの施術を無料で提供してもらっており、その見返りに、店の看板の前で撮影するなどして、来店したことをインスタグラムなどのSNSで公開していました。

どちらの事件も日本社会で大きく物議を醸しました。

なぜ景品表示法違反なのか

ところで、なぜステマはいけないか聞かれたら、どのように答えますか?

一般的には以下のことが言えるでしょう。

消費者心理としては、ある表示が事業者自身による広告だと分かっていれば、
「少し誇張した内容になっているのではないか」
「商品のいいところしか書いていないのではないか」
などと、警戒し、慎重になると思います。

しかしながら、これを好きな芸能人やインフルエンサーなどの「商品を売る立場にない人」が、第三者的立場から使用感をレビューしていたりすれば、「これなら怪しくないかも・・・?」という消費者心理が働いてしまいます。

しかし、蓋を開けたら大したことない商品を倍の値段で買わされていたりするわけです。
事業者にとっては美味しい話ですが、消費者にとっては軽い詐欺にあっているような感じです。

こういう弊害がありますから、EUやアメリカなどの海外ではステルスマーケティングを規制する法律がすでに存在する一方で、日本では直接ステルスマーケティングを規制する法律がなく、業界団体からも「業界の自主規制には限界がある」などとして、規制を求める声があがっていました。


では、なぜ、景品表示法違反なのでしょうか?

景表法では、「商品及び役務の取引に関連する不当な……表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的」として(景表法1条)、事業者の消費者に対する表示(広告)行為を以下のとおり規制しています(景表法5条各号)。

① 優良誤認表示(景表法5条1号)

商品・サービスの品質その他の内容について実際よりも著しく優良であると誤認させる表示
② 有利誤認表示(景表法5条2号)
商品・サービスの価格その他の取引条件について実際のものよりも著しく有利であると誤認させる表示
③ 指定告示(景表法5条3号)
商品・サービスの取引に関する事項について消費者に誤認され、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある、内閣総理大臣が指定する表示

このうち、③指定告示は、①優良誤認表示や②有利誤認表示には当たらない不当な表示について、内閣総理大臣が指定することによって、景表法の規制を及ぼすことができるという規制です。
今回のステマ規制は、この告示という方法によって行われており、まさに、この景表法5条3号に基づき、規制がされたということになります。 告示の内容は次の章で解説します。

事業者・インフルエンサー向け対応策

上記の通り、今回のステマ規制は、ステマは景品表示法で規制される「指定告示」に入りますよと内閣総理大臣が指定して告示したと簡単に言えばそういうことです。

では、その告示の内容を簡単に言うと、 ステマを「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義しますよ、というものです。

これも「で?どういうこと?」となると思いますが、これを全て説明するには極めて長くなるので、気になる方はこちらの「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(令和5年3月28日 消費者庁長官決定)をチェックしてください。

時間が無くてチェックできない方も以下の通り、気を付けるべき要点をおさえておいてください。

まずは、「広告」、「PR」等と、広告であることが分かる文字を分かりやすく表示することが何よりも重要です。

インフルエンサー等が事業者から依頼される場合には、広告であることの表示が非常に小さい、たくさんのハッシュタグに紛れ込ませている、動画上に一瞬だけ表示させる、なども規制対象になり得ることに注意が必要です。

また、事業者が、広告を明示的に依頼・指示していないという場合でも、言外に商品を売り込ませる動機を与えていた等の場合にもステマ規制が適用される可能性があります。

また、事業者内の広報の担当者等一定の立場の従業員等が行う表示が、事業者が自ら行う表示と判断され、ステマ規制が適用される可能性もあります。
しかし、このような表示は事業者の預かり知らないところで行われる可能性があります。
そこで、従業員等のSNS利用のルールを策定して、そのような事態を予防することが考えられます。

まとめ

いかがでしょうか?

現状、それなりの数のステルスマーケティングが横行しているかもしれませんが、まずは皆が新しく規制があったことを知り、そして、規制の内容を正しく把握していただくことが重要です。


本テーマのようなSNSマーケティング等のトラブル、著作権やネット上の誹謗中傷トラブル等でお困りの方は、ご相談をお受けいたします(30分5500円税込み)。
また、当事務所では複数の弁護士が在籍しており、遺産相続、不動産、労働事件等幅広い分野に対応しております。
お問い合わせは、弁護士法人長堀橋フィル( k-mitsumura@nflaw.jp or 06-6786-8924 )まで!

こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争についての第2弾です。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

第1弾は肖像権侵害についての解説でした↓


今回は著作権侵害についてです。
SNSが発達した今、ネット上では日々著作権侵害のオンパレードですが、この記事を機に改めて著作権について学んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが現行犯逮捕される等の様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。これについてYouTuberBは肖像権侵害等でYouTuberAを訴えました(本訴)。

そして、YouTuberBは、弁明等の趣旨で本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

簡単に言うと、
Bの逮捕現場をAが撮影した動画を、後日Bが編集して公開してしまった
ということです。

元の動画、すなわち本件逮捕動画の著作者は誰でしょうか?
当然、撮影したAですね。
これをBが、不当逮捕の弁明等のためとはいえ無断で使用してしまっては著作権侵害となってしまいます。
では、裁判所の判断はどういったものだったでしょうか?

2 裁判所の判断(著作権侵害~引用について~)
(1)どこが争点となったか
上で申し上げた通り、本件逮捕動画はAの著作物です。
そして、Bはこれを一部切り取り、モザイク等を施したりして無断使用しました。

これについては裁判所も著作権侵害を比較的簡単に認めています。
しかし、こういうときによく出てくる「引用」を次に考えます。
他人の著作権を侵害しうる行為でも「引用」に該当すれば適法な利用行為となります。
本件の大きな争点は「引用」です。

以下、裁判所の認定した事実です。
①動画冒頭で「これから公開させていただく動画は私が不当逮捕された時に通りがかったパチスロ系人気YouTuberAさんに撮影され・・・。動画を開始させていただきます。」という導入に続き、
②背景に「当動画はAさんにモザイクなしで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で本件状況が映っている。
③最後に「ご視聴ありがとうございます・・・。」と締めのテロップが入る。
④本件逮捕動画のうちBが逮捕されるなどした生の映像について引用する一方で、Aが独自に作ったテロップ等は引用していない。
⑤本件逮捕動画は早いうちに削除されており、著作者であるAに実質的な不利益が生じていない。


(2)実際の判断
上のような事実を前提として、裁判所は「引用」を認めました。
なので、この点のAの請求は結局認められませんでした。

他にもBはAの動画をいくつか使用していたため著作権侵害の主張はこれ以外にもなされましたが、いずれも「引用」を認めました。要点としては、出所が明示されていること弁明や反論等目的が正当なものであったこと必要な範囲内で使用していることAに実質的な不利益が発生していないこと、です。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この記事で言いたかったのは大きく二つ、
①人の撮った動画や画像を勝手に使用すると著作権侵害になる可能性が高い
 →ちょっとくらい大丈夫と思っている人がかなり多い
②正当な目的でお作法を守れば「引用」が認められますが、安易に「引用」が認められることを期待してはならない
 →正当な目的もなく「引用だから大丈夫!」と考える人もけっこういる

です。

また、これを機に「引用」について詳しく勉強されてもいいかもしれませんね。

著作権のトラブル等のご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)にご連絡ください。
では!


こんにちは、弁護士の満村です!

今回はとあるYouTuberAととあるYouTuberBが一戦交えた法廷抗争について紹介します。
東京地判令和4年10月28日(本訴・令和3年(ワ)28420号、反訴・令和3年(ワ)34162号事件)です。

まさに現代に生きる我々に「何をしたらだめなのか、何はしていいのか」教えてくれる教科書のような最新裁判例です。
最後まで読んでいただければ幸いです。

1 事案
YouTuberAはある日の昼間に路上で、YouTuberBが警察官に押し倒され制圧されたり、押し問答の末に現行犯逮捕されている様子を撮影することができました。この動画(「本件逮捕動画」)を編集して自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberBはそもそもこの逮捕は不当逮捕であるし、自らの容貌を無断で公表した行為は肖像権侵害に当たるとして提訴しました。

さらにここから興味深い展開ですが、
【事案2】
撮影されてしまったYouTuberBは、本件逮捕動画の一部を基にした動画を新たに作り(不当逮捕の事実やYouTuberAの本件逮捕動画投稿を糾弾するような目的で作成したと思われる)、これまた自らのチャンネルに投稿しました。
YouTuberAはこれは自分の著作物である本件逮捕動画についての著作権を侵害するとして、反訴しました。

このように本件では、
①B→A
肖像権侵害の本訴(名誉棄損・プライバシー権侵害の主張もあり)


②A→B
著作権侵害の反訴


という二重構造が生まれました。


今回の記事では①B→Aのみ扱い、次回の記事で②A→Bをやります。


2 裁判所の判断(肖像権侵害)
(1)判断基準

裁判所は、肖像権侵害に関するこれまでの下級審裁判例の判断基準を整理し、以下のような3類型に区分した上で違法になるケースを示しました。
この整理は従来のものから判断基準を一歩推し進めたものと理解されています(判例時報7月11日号)。

①被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき
②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき
③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき

(2)当てはめ

本件では、白昼路上での撮影が問題となっており、その内容も被撮影者の現行犯逮捕という屈辱的なものであることから、②の類型に当たることを前提としたうえで、「本件逮捕動画を原告(YouTuberB)に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為上違法となる。」と判断されました。

(3)応用的考察
なお、少し応用的なところですが、本件逮捕動画には警察官やYouTuberBの発言のテロップが「逮捕だYO!」「変態(現逮)だYO!」などと嘲笑的につけられていました。
これは、名誉棄損の違法性阻却事由の判断で、公益目的性が認められない理由として使われていました。

しかし、これは肖像権侵害の判断においては触れられませんでした・・・。なぜでしょう?

肖像権侵害の判断に当たっては、「容貌についての情報のみ」が侮辱的かどうかで判断され、それに付された文字情報等を問擬するのであれば名誉棄損とか侮辱の問題として判断してくれ、というメッセージなのでしょうか?
しかし、過去の裁判例では私が担当したものも含め、後に付された文字情報の内容も考慮して「侮辱的だ」ということで肖像権侵害を認めたものもあります。

また、例えば、「YouTuberが自宅で撮影し、自ら公表した動画に映るそのYouTuberの容貌」はどう考えればいいでしょうか?
私的領域での撮影なので①ですか?
それはちょっとおかしいですよね。公表する目的で撮影されていますから、もはやプライバシー権の保護下にある容貌とも思えません。
そうなると、②ということになるでしょう。
ただ、これはYouTuber自ら公表した容貌なので、「容貌についての情報のみ」をもって侮辱的と判断されるケースはあり得ないですよね。
そうなると、やはり、後から付されたテロップのような文字情報も一応考慮に入れて侮辱的かどうかを判断するという枠組みに落ち着きそうです。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。
この裁判例が出たことによって多くの事例で肖像権侵害の有無を判断する際の基準に迷うことは無くなったようにも思えますね。

もっとも、「応用的考察」で述べたように、これからの裁判所の判断を待つしかないかなというようなケースがあるのも事実です。

肖像権侵害について、皆さまはどう考えますか?

次回はこの裁判例の反訴の部分、他人のYouTube動画を勝手に使用した場合の著作権侵害について扱います!
そちらもぜひよろしくお願いいたします。

ご相談やご依頼はこちら(k-mitsumura@nflaw.jp)までご連絡ください。


弁護士の満村です。

最近、捏造された疑いのある誹謗中傷的ツイートに基づいた発信者情報開示請求訴訟が通ったことで、最終的に請求者が反訴を受けたというケースが話題となっています。

発信者情報開示請求訴訟でこの「捏造」がスルーされた原因がどこにあるかはっきりしたことは分かりませんが、
①原告代理人弁護士
②被告となったプロバイダの代理人弁護士
③裁判官
の全員がこれに気づかず、開示判決に至ったということは確かです。

犯人探しをするつもりはありませんが、発信者情報開示請求訴訟を簡単に通してしまう昨今の司法には問題が無いとは言えません。

開示判決=自身に嫌悪感や敵対心を持っている人物に個人情報が特定されるということです。
投稿者側には甚大な精神的負荷が伴います。

私は勿論、違法な誹謗中傷を擁護しませんが、とはいえ、「匿名表現の自由」というものがもう一度考え直されるべきタイミングなような気がしています。
以下詳述しますが、これを重視することは発信者情報開示請求をする側にとっても有益なことです。
なぜなのか今は分からない人も多いかもしれません。最後までお付き合いいただければと思います。

以下、憲法的な表現の自由の話から発信者情報開示請求制度の限界、それから請求側が考えるべきことといったトピックについて見ていきたいと思います。




目次








①憲法上の権利としての匿名表現の自由

憲法21条1項表現の自由を規定しています。

例えば、報道をする自由やネット上で発信する自由も当然ここに含まれてきます。

表現が抑圧された時代への反省もあり、憲法において非常に重要な権利とされます。

ただ、ここで、匿名者による表現の自由は重要な権利として認められるの?名前も出さずに言いたい放題なわけだし重要ではないのでは??という疑問が生まれてきます。
ただ、これを軽視するならば、少しでも不快な発言をした匿名投稿者であれば、簡単に特定をさせたり、警察の捜査対象にさせたりできるようになってしまうかもしれません。

まず匿名表現の自由が憲法の保障下にあるのかについて参考になる裁判例を紹介します。

平成18年10月3日最高裁判所決定は、
とある記者が裁判における証人尋問で自らの取材源が誰か等を証言拒絶したことについて、憲法21条の精神を持ち出しつつ、一定の場合に取材源の秘密は保護に値すると解すべき、としました。
公共のための報道を維持するための情報源の匿名性を支持したわけです。

これよりももっと正面から匿名表現の自由を認めたものとして、
令和2年1月17日大阪地法裁判所判決があります。

これは大阪市ヘイトスピーチ条例が憲法に違反するか問題となった事件ですが、ここで裁判所は、「匿名による表現活動を行う自由は、憲法21条1項により保障されているものと解されるところ・・・」と匿名表現の自由を認めました。

このような判決の流れを見るに、匿名表現の自由は憲法の保障外だとする見解にはもはや無理があるでしょう。

では、これはどこまで重要な権利として認められるべきでしょうか。

この点、立命館大学の市川正人教授は、「政府や多数者から見て好ましくないと思われるような内容の表現活動を行う者は、素性を明らかにすることによって『経済的報復、失職、肉体的強制の脅威、およびその他の公衆の敵意の表明』にさらされる可能性が高いのであるから、素性を明らかにしての表現活動しか認めないことはそのような表現活動を行おうとする者に対して大きな萎縮効果を与えるであろう」と指摘しています(『表現の自由の法理』 日本評論社 2003年)。

また、京都大学の曽我部真裕教授は、「表現の自由の歴史を振り返ってみても厳しい検閲に対抗する手段として、匿名での出版物が大きな役割を担ったのであって、そこからも、匿名表現の自由の重要性を認識することができる」としています(『匿名表現の自由』 ジュリスト 2021年2月#1554)。

こういった学者の見解を見ると、匿名表現の自由の内実はより鮮明に浮かび上がってきます。
そして、その重要性を認識させられます。

匿名だからこそできる表現というのは多岐にわたるはずです。
当然、インターネット上の匿名アカウントによる投稿というのは、現代的文脈で言えば、まさにこの匿名表現の自由の問題のど真ん中に位置付けられるでしょう。
ですので、
「匿名アカウントによる投稿は実名アカウントによるものよりも価値が劣る」とは一概に言えないわけです。

とはいえ、この匿名表現の自由は、a他者の人権との衝突、b現実との衝突を避けられません。

aは簡単に言えば、明らかに違法な誹謗中傷をすれば氏名・住所を開示されることがあるし、損害を賠償しないといけないということです。

では、bとは何でしょう。

②発信者情報開示請求の増加と限界

NTTコミュニケーションズ株式会社が2020年4月30日に出した推計によると、同社内における発信者情報開示請求件数は、増加の一途(直近3年で約2倍)だそうです。

実務家の肌感覚でも分かりますが、発信者情報開示請求件数は増え続けています。
3年で約2倍ですから、実務に支障が出ないはずがないとも考えられるでしょう。

現に、捏造されたツイートや投稿が開示請求訴訟をすり抜けてくる現象まで起きているわけです。

現場の疲弊(または怠惰化?)は現に発生している現実と言えるでしょう。

そうです。

上述したb現実との衝突とは、
ネット上の法的トラブルの飛躍的増加による制度的リソースの限界、それに伴う権利の地盤沈下とも言える現象のことを念頭に置いて指摘しました。

これはある種構造的問題であるが故に、表面的に何か批判しようにも、どうにもならない側面があります。

「裁判官を増やせ!」と言っても予算の問題もありますし中々解決するものではありません。
「プロバイダはもっと人員を割いてまともな仕事をしろ!」と言っても彼らには本業があり、本業部分にリソースが回されることを止めようがない面があります。

そこで、弁護士の立場で私が強調したいのは代理人弁護士の責務です。次に行きましょう。

③発信者情報開示請求を如何に行うべきか

発信者情報開示請求訴訟もその出発点は誹謗中傷被害者から弁護士への依頼であり、「先生こんな投稿をされているんです。特定してどうにかしたいです。」といった相談が想定されます。

ここで弁護士はその投稿を見て、発信者情報開示請求をするのか、削除請求をするのか、などといったメニューを提示し、違法の主張立証が困難なケースでは依頼をお断りしたりすることもあります。

この判断のハードルをある程度高くすべきなのです

例えば、すでに現存していない投稿をもとにした請求なら私であれば依頼をお断りするでしょう。
今回のような捏造も疑われますし、立証が難しかったりして主張が通る可能性も本来高いものではないです。
裁判例に照らして違法だとされる可能性がかなり低そうな投稿についてもその説明をしてお断りすると思います。

「いやいや、弁護士は依頼者の味方でしょ? 匿名表現の自由を重んじるあまり加害者の見方をするの??」と聞こえてきそうです。

ですがそうではありません。

危ない橋を渡るような請求には請求者側に大きなデメリットがあると考えられます。
①開示請求に多くのお金と時間を費やしたのに開示もされず無念だけが残ることや、今回のように②捏造された証拠を根拠としたこと等で反訴を受けるリスクがあること、そして特に強調したいのは、③少しでも不快だと感じる投稿を乱発的に請求対象とすることで「あいつに言及したらやばいぞ」的な評判が立ち「名前を言ってはいけないあの人」状態になって自らの発信力・影響力が大幅に減少することさらには④より一層アンチ感情が膨らむこと、です。

だから私は請求対象は慎重に選んでから請求をすべきだと思います。

代理人弁護士らがこれらを意識して無駄な請求をしなければ上記の制度的限界は少しは解消しないでしょうか?
夢物語でしょうか?
少なくとも、この制度的限界の問題の解決策を裁判所やプロバイダの改革に求めるよりも現実的な気がします。

自戒を込めてこのような提言をしました。

④まとめ

今、ネット上は、「実名VS実名」「実名VS匿名」「匿名VS匿名」なんでもありの戦国乱世です。

正直SNSに毎日浸かれば滅入ってしまいます。

そして、皆様も思ったことはないでしょうか。
「色んな人が色んなことを言っているけど・・・結局何が正しいの・・・?」と。

今回の記事で匿名者による表現をどのように考えるのか、少しクリアに考えられ楽しんでいただけたのであれば幸いです。

私のツイッターアカウントはそろそろこのブログの更新情報発信専用にしようかと思っておりますが、ご相談やご依頼はお受けしていますので、
こちら(k-mitsumura@nflaw.jp)までご連絡ください。

では!

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