こんにちは!
弁護士の満村です。

今回はYouTubeでの誹謗中傷が問題となった発信者情報開示請求訴訟について紹介します。
特に公益目的性について争点となった事案ですので、ここにフォーカスして書いていきますね。
分かりやすさの観点から、かなり簡略化しています。


徳島地裁令和2年2月17日判決(徳島地裁平30(ワ)338号)

事案
LEDを主力商品とする大企業X社の元社員と称するYが自身のYouTubeチャンネル「晒しチャンネル」にX社の内部状況を告発するような動画を投稿した。
その内容は、「(X社には)まともな社員教育がありません。なので、社員はいつまで経っても学生気分です。」「学生社員が提案したLEDの製造工程を、下の学生社員が従う。まともな部分が無いので、仕上がるLEDの質もその程度です。」「「クリーンルーム」内に鳥が紛れ込んだり、犬が紛れ込んだり。こんな状態で仕上がったLEDです。」などと、X社の社員の質の悪さや、製品の品質の悪さなどを暴露するようなものであり、さらに上司からのパワハラが日常的にあったことにも言及しており、これらがX社の名誉・信用を毀損したと主張された。
YはX社を解雇された元社員のようである。

Y側の反論としては、①動画の画面は黒の背景に青字というおどろおどろしいもので怪情報と見られるようなものであり一般的な読者がこれを真実と受け取るようなものでなく、また、Yの主観的な意見が抽象的に述べられているにすぎず、X社の社会的評価が低下するものではない、②動画の内容には公益目的等の違法性阻却事由がある、というものであった。

判決
①動画内容は、会社の内部者しか知りえないような事実を具体的に摘示しつつ意見を表明する形式となっていて、一般的読者にとって信用性が低いというものでなく社会的評価の低下はある。

②動画の内容は、X社の製品の品質や職場環境に関するものが含まれており、X社の事業内容や規模等を考えると、これが公共の利害に関するものであることは否定できないし、そうであれば、公益目的で出された動画であるとも一定程度は推認できる。しかし、チャンネル名が「晒しチャンネル」であることや、内容が色々な表現を用いて執拗にX社を貶めるものであることを考えると、X社への嫌がらせ、復讐等を行うことを主たる目的とするものと認められる。よって、公益目的が認められない。

と、判断され原告の請求は認められた。



はい、こんな感じの裁判例でした。
名誉棄損における違法性阻却事由というのは、以前の記事でも解説していますが、
ア 公共の利害に関するものであること
ィ 専ら公益目的でなされたこと
ウ 重要な部分の内容が真実であること
(エ 論評としての域を逸脱したものでないこと)
とされており、本裁判例ではィが否定されたということになるでしょう。


「みんなのため」「社会のため」っぽい感じで言ってるけど、結局は個人的にムカつくていうのが一番強いんでしょ?みたいな感じですね。

SNSや掲示板上の、スキャンダルを起こした芸能人やきな臭いインフルエンサーに対する批判などの中には、正義感に根差してはいるものの、「でもそれを言うことで本当に社会のためになるのか?」「言うにしても、もっと伝わりやすく、洗練された言い方はなかったのか?」などと考えると、そうでもないということは多いかもしれません。
そうすると結局、「じゃあそれって、自己満足だよね?ほとんど公益目的ではないよね?」と判断されてしまうってことですね。

「社会のためを思ってのことだからいいでしょ」といって軽はずみに投稿すると訴えられてあっさり負けてしまうかもしれないので要注意です。

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