こんにちは!
弁護士の満村です。


前回の記事で、ネット上の名誉棄損・侮辱行為がどの程度ならアウトなのか(損害賠償請求が認められてしまうか)ということを書きました。

今回は、この記事を踏まえて、ネット上での色々な発言を想定して、
個人的にアウト・セーフを検討していこうと思います。


①「芸能人Wが不倫しまくってるらしい。おれもトイレ入っていくの見たわ(電子掲示板にて)


タイムリーな話題について、これはどうでしょう。

まず、世間からの好感度を売りにしている芸能人の不倫を摘示するのは、明らかにその人の社会的評価を低下させますよね。

しかし、名誉棄損は、
「公共の利害に関する事実」を
「公益目的」で摘示する場合には例外的に違法性が無いとされる
んでしたよね。

芸能人のスキャンダルはどうでしょう。

たしかに「影響力のある人が不道徳な不倫をやっているということは国民にとって重大事であり、公共性がある」という意見もあるかもしれません。

ただ、基本的には芸能人は公人ではなく、言うなれば「有名な私人」なので、その人の私生活がだめだめでも、これを暴くことが公共性を持つということはないと考えるのが主流でしょう。

よって、違法性が無いとされることはなく、名誉棄損が成立します。


ただし、一般の人が芸能人のスキャンダルに触れるのは、週刊誌等にすっぱ抜かれてその事実が公になった後ですよね。
日本中誰でも知っているような事実を、さらに言ったところで、その人の社会的評価の低下はかなり限定的です。

結局のところ、我々が週刊誌のすっぱ抜いた事実について発言する限りでは、あまりにひどいことや嘘を言わない限りは、普通は名誉毀損にはならないでしょうね。

②「アンパンマソっていう奴さっきからうるさいけど、こいつ人殺したことあるんだぞ。(電子掲示板にて)」

「こいつ人殺したことある。」は、特に嘘であれば、かなり悪質な名誉棄損ですよね。
実際のところ本当であっても、証拠を握っているわけでもない状況ではデマと扱われるでしょう。

ただ、ここで問題が、「アンパンマソ」という名前の人がいるわけはありません。
ネット上のハンドルネーム、アカウント名と言うことですよね。

ってことは、実在の被害者がいない以上、名誉棄損は成立しえないでしょうか。

この「アンパンマソ」というアカウントが有名で、中の人の本名をけっこうみんな知っているというのであれば、被害者は特定されますから、名誉棄損は中の人について成立します。

また、例えば、中の人が「アンパンマソ」という名前を使ってブログなどしていて、
ネット上ではそれなりの有名人であれば、本名を知られてなくても名誉棄損が認められることがあります。
ネットにおけるその人の活動に社会的評価が十分認められるので保護しないといけないということですね。

③「A子は性格ブス。人格破綻者。(Twitter上にて)」


これは一方的な暴言のようですが、名誉棄損になるのでしょうか。

前回の記事では、発言者の単なる評価に過ぎない暴言については、名誉棄損は認められにくく、それがあまりに悪質なものであるときに侮辱行為として損害賠償請求が認められると説明したと思います。

上の発言は何も具体的な事実を摘示するものではないですが、
他方で、「あほ」「くそ」とかと比べれば、「A子さんは性格がとても悪いのだろう」と周りに思わせるのに十分な発言のようにも思われます。

で、これを名誉棄損とした裁判例はあります。

しかし、やはり、単なる一方的な評価ではないかと批判もあるところです。

むしろ、原理原則からすれば、名誉棄損とするには少々無理があると思います。

ただし、これが執拗に繰り返されていれば、名誉毀損にも侮辱行為にもなり得ますね。

④「X店の出しているメシは本当にまずい。(飲食店口コミサイトにて)」

食べログとかのサイトで、店の味をマイナスに評価すると名誉棄損となってしまうのでしょうか。

「まずい」とか「高い」というのは事実ともとれますが、基本的には個人の評価と考えられます。

そして、飲食店にとって、ご飯がまずいというのは評価低下につながりますが、常識的な批評であれば本来飲食店は批評を受けて然るべき立場ですし、問題ないでしょう。


また、少々表現が酷くて名誉毀損になりそうでも、公共性が認められるかという問題があります。

実際食べに行った人の飲食店の味の評価をネット上で確認できるのは非常にありがたいことですよね。

そういうことで、「店舗の関係者、周辺に在住する顧客等との間では(マイナスの口コミは)公共の利害に関するもの」とした裁判例があります。

常識的な範囲内で店の味をマイナスに評価することは名誉棄損にならないでしょう。


以上、飲食店のマイナスの口コミは名誉棄損にならないケースがほとんどと言えますが、
表現には気を付けた方がいいです。

「あまりよろしくないですね」「おいしくはないかな」
くらいなら大丈夫ですが、

「くそまずい!やめてしまえ!」「げろの味がする」
なんてものは批評の域を出た発言であり、名誉棄損になる可能性は上がるでしょう。

また、嘘で、「ゴキブリが入っていた」
なんてものもアウトです。

⑤「X社の社長はコロナにかかったらしい(Twitterにて)」

実際にこのような情報が流され(嘘なのに)、会社の取引先が撤退していき、業績が悪化した社長の話をテレビで見ました。

このような実害が現に発生していますし、明らかに社会的評価を下げるものと言えます。

デマであれば完全にアウトですし、感染した確証もなく発言するのであれば、本当のことかもしれなくてもアウトでしょう。

ただ、本当のことである確証がある場合はどうでしょう。

これもまた、公共性の問題になりますが、Twitterで、社長と直接の関係のない不特定多数に感染の事実を発信することには公益的な意義はないので、公共性は否定されるのではないかと思います。

⑥まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。

前回の記事と併せて見ていただければ大体感覚は掴んでいただけたのではないかなと思います。

くれぐれも誹謗中傷の加害者にならないように気をつけながらも、ネットライフを楽しんでいただけたらと思います!

また、現在、ネットでの誹謗中傷の被害に遭われた方の相談を受けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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