こんにちは!弁護士の満村です。

今回のテーマは、ネット上での発言はどんなものだと違法になっちゃうの!?ということです。


そういえば、先日、某チェーン店で食事したときに、他店舗と比べて食事も空調も悪くて、鬱憤晴らしにネットで発信したい気持ちにかられたのですが、
これ店名とか明らかにして発信したらだいぶやばいよなあ・・・と思ってました笑

ただこの辺のやばい基準がよくわからないですよね。


逆に基準が分かっていれば、萎縮せず、ネット上でも自由な発信を続けられると思います。
もちろん悪口などを推奨するわけではないですよ!

と、前置きしたところで見ていきましょう。

今回は、名誉棄損についての一般的な解説をした上で、いろんな事案を紹介していきます。



名誉棄損(侮辱行為)の成立要件


ネット上の誹謗中傷で損害賠償請求(不法行為責任)が認められるものの代表格が名誉棄損です。

そもそも、名誉棄損というのがどういうものか、皆さんご存じですか?

簡単に言うと、その人の社会における評価を低下させる言動をすることとされています。

なので、「個人的に傷ついた!」と言うだけでは名誉棄損には当たりません。

例えば、「Xさんは散々不倫をしまくっている」というのをネット上で書き込めば、不特定多数の人がXさんが不倫をたくさんしていることを認識し、Xさんの評判は下がりますから、名誉棄損が成立します。


ちなみに、人の評価を下げる発言でも、社会的に有用な発言は表現の自由の保護下にあります。

典型的なのが政治家の不正とかですね。

公的なことでも、事実無根であったり、あまりにも度が過ぎて表現としての保護に値しないなども考慮されます。

では、「個人的に傷ついた!」という場合には、全く損害賠償の対象とならないかと言うとそうではなく、侮辱行為として不法行為責任を負う可能性があります。

ただし、単なる不快感では認められず、主観的名誉感情が害されたという必要があり、
判例では、「侮辱行為の違法性が強度で、社会通念上許容される限度を超え」るような言動をした場合にのみ不法行為責任が認められます(最3小判平成22年4月13日)。


では、それぞれの要件を簡潔にまとめると以下の通りです。

・名誉棄損
①社会的評価を低下させるおれのある発言、書込みがなされたこと

②違法性阻却事由をうかがわせる事情の存在 (これらを全て充たすこと) 
 ア 公共の利害に関する事実であること 
 イ 公益を図る目的でなされたこと
 ウ 内容が重要な部分において真実であること
 エ 論評としての域を逸脱したものでないこと

・侮辱行為
名誉感情を害する強度の侮辱的発言、書込みがなされたこと


まあ、なかなか難しいですよね笑

例えば、「ばか」「あほ」「DQN」「きちがい」などは一方的な意見と言えますから、なかなか人の社会的評価を低下させることにはつながりにくく、名誉棄損の成立も難しいことが多いと思います。

ただし、これが執拗に繰り返されるなど悪質であれば侮辱行為として損害賠償請求が認められることがあるでしょう。


他方で、「Xさんは不倫をしている」や「あの店は食事に毒を混ぜている」というような事実摘示になると、名誉棄損の成立は比較的認められやすいと言えます。

色んなケースを想定して、上の要件に当てはめてみてください。

次に実際の裁判例を紹介していきたいと思います。

つまらん暴言積み上げ事案 


インターネット掲示板の投稿記事で、原告が勤務する予備校名と原告の姓の後に「くそ」「うんこ」「ゴミ」「死ね」という言葉を,13回,14回と繰り返し書いたという事案(東京地判平成29年1月16日)

判決
名誉棄損かどうかについては、原告の社会的評価を低下させる事実の摘示を伴うことなくなされたものにすぎないから、いずれも、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に該当するものとは認められないとされたものの、
社会通念上許される限度を超えた侮辱行為として原告の名誉感情を害し、違法阻却事由もないとして、原告の請求を認容した。

コメント
しょうもない発言ですが、繰り返し発信されたことで損害賠償が認められました。

この暴言は、13、14回行われたのですが、約5時間くらいの間に行われたにすぎず、長期間執拗に繰り返されたというほどでもありません。

しかし、この回数の執拗さから悪質性が認められたのでしょう。

逆に言うと、突発的に「あいつはあほだ!」と一回投稿したくらいでは損害賠償とまではならないでしょうね。(もちろん推奨はしませんよ)

どっちもどっち事案 


ネット通信サービス上で、A氏が原告に対して、

「あなたの妄想特急の勢いには、ほとほと感服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。」
「精神的文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です」、
「禁治産者って、裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?」

などと発言されたことにより、原告が、名誉毀損及び侮辱の被害を受けたと主張した事案(東京地方裁判所判決/平成11年(ワ)第2404号)。

判決
上記発言が原告に対する侮辱的発言であることは認めたものの、
この発言が、原告による発言に誘発されたものであるし、原告は、A氏の発言に対抗する必要かつ十分な反論もできているから、上の発言により原告の社会的評価が低下する危険性は消滅したと認めるのが相当である、として名誉棄損性、侮辱行為性を認めなかった。

実は、原告は「当人の精神構造が異常だと確信させてしまう」、「(A氏)の底知れぬ悪意に反吐が出ます」等の発言をしていた。

コメント
権利侵害的な言論に対しては、まずは言論による対抗がなされるべきという考え方が従来からあり、この考え方を当てはめた事例と言えます。

かなりきわどい表現であっても一時的な罵倒合戦で、一方が少し行き過ぎたというくらいでは「お前も悪い」となるし、ちゃんと反論できているんだから社会的評価も落ちていないという判断がされたということです。

水商売女性ぶったたき事案 


電子掲示板において、水商売の女性である原告に対する

「(原告)の加齢臭が強烈」や
「(原告には)太いのいないけど客の数が多い。(原告の客が多いのは)□□七不思議の一つ」

との記載が原告の名誉感情を害すると主張した事案(東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第27437号)。


判決
「加齢臭が強烈」は、それが侮辱的な表現であるということは認めることができるが,
同投稿はこの記載のみで何ら具体性がないものであるから,これが,原告の人格的価値について言及し,評価するもので,社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとまでは認めがたく,原告の社会的な評価を低下させるものとも認められないとした。
 
また、「太いのいないけど客の数が多い □□七不思議の一つ」との記載は,原告の客の数が多いことを認め,
接客業において原告が優れていることを前提にしているのであり,それを七不思議であると評価したことをもって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるということはできないとした。

コメント
いずれも、言われたくないこと、馬鹿にされていると感じることではありますが、具体的な事実を摘示しているわけでもない抽象的な発言であったり、そこまで大したことのないものだったりするので侮辱行為性は否定されていますね。

ただ、これらが同一人物により執拗に繰り返されている場合には侮辱行為とされる可能性はあるでしょう。

枕営業ばらし事案


電子掲示板上で、ナイトクラブのママである原告が整形又は脂肪吸引をしたとの私生活に関する事実や枕営業を行っていたとの事実が摘示された事案(東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第24311号 ) 。

判決
枕営業に関しては「鬼枕で有名だった」「寝たっていう客何人も知ってる」という表現がなされていたが、これらは原告の社会的評価を低下させるとして名誉棄損と認められ、整形、脂肪吸引については、非公知の他人に知られたくないことを明らかにするものであるとしてプライバシー権の侵害と認められた。

コメント
「ばか」「あほ」とかと違い、「枕営業してる」「何人もの男と寝ている」のような不名誉な事実を摘示する発言については比較的容易に名誉棄損性が認められると言えます。
どこのだれか分からない人の勝手な評価より、「事実」を流布されることの方が社会的評価が下落することは当然と言えますね。
 
さらに、事実無根であればよりアウトですが、事実であっても公益的な事柄でなければアウトとなる可能性は高いでしょう。

ちなみに、プライバシー侵害が出てきましたが、これも権利侵害の一類型です。また、今後の記事でプライバシー侵害は扱う予定です!




また、いま話題になっているトピック(令和2年6月時点)などを織り交ぜて、名誉棄損の成立の有無を考察している記事も併せて紹介します↓



以上、色々と紹介してきましたが、いかがでしたか?

もちろん、人を傷つけるような発言をすることは慎まれるべきです。

しかし、今の風潮的に、マイナスな発言はちょっとしたことでも許されないのではないか、まっとうな批判でも訴えられたらアウトなのではないか、等過度にネット上の表現が萎縮してしまうことを恐れて、このような記事を出しました。

また、今から誹謗中傷と戦おうとされている方の参考にもなれば幸いです。

ではでは!