弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係、労働関係の法律問題についての発信をしています。

2023年10月

弁護士の満村です。

おそらくこの記事を見ていただいている方の中で、ステマを知らない方はいないのではないでしょうか?

ステルスマーケティング(ステマ)とは、一般的に、消費者に広告・宣伝と気付かれないように行われる広告・宣伝行為のことをいうとされています。

古くは、誰もが知っているような芸能人がこのステマの実行役になっていたこともありますし、最近で言うと、インフルエンサーと呼ばれる方々のちょっとした収入源かもしれません。

このステマが、令和5年10月1日から明確に景品表示法違反となりました。

消費者庁もサイト内で呼びかけています☟
令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。(消費者庁HP)

ステマ規制に違反するということは、後で詳しく説明しますが、景表法5条3号に違反するということになりますので、消費者庁等による、措置命令(景表法7条)や、措置命令に違反した場合の刑事罰(景表法36条等)の対象とされています。

では、以下の目次の通り、まずはステマの現在と歴史から見ていきましょうか。

目次

  1. ステマの現在と歴史
  2. なぜ景品表示法違反なのか
  3. 事業者・インフルエンサー向け対応策
  4. まとめ

ステマの現在と歴史

とある企業が消費者庁の委託を受けて実施した調査で、SNSのフォロワー数が50万人未満のインフルエンサー300人に回答を求めたところ、全体のおよそ4割にあたる123人が、「広告主からステマの依頼を持ちかけられた経験がある」と回答し、さらに、ステマの依頼にどう対応したか尋ねたところ、55人が、「すべて受けた」か「一部、受けたことがある」と答え、全体の2割近くがステマを行っていたことがわかったというものがあるそうです。(「ステマ」規制へ “インフルエンサー 2割近く行う”結果も(NHK) )


では、過去を振り返ってみましょう。
一つ目に取り上げるのは、芸能人によって行われた、ペニーオークション詐欺事件に関するステマです。

ペニーオークション詐欺事件とは、運営会社が入札しても落札できない仕組みのペニーオークションサイトを用いて入札者から手数料をだまし取ったとされる詐欺事件で、 そのオークションサイトは「入札すればするほど運営会社に手数料が入る」システムになっており、運営会社は架空の会員名義による入札を繰り返し価格を不当に吊り上げ、入札者がなかなか落札できないように細工を行っていたとされています。 また、家宅捜索の結果、そもそも商品のほとんどを仕入れた形跡がなく、最初から入札者に商品を販売する意思がなかったことが発覚したとされ、サイトの運営者は詐欺罪で懲役3年、執行猶予5年の判決を受けました。
このペニーオークションサイトの運営会社は複数の芸能人に広告・宣伝を依頼し、高額な商品を格安で落札することができるように見せかける宣伝を行っていました。

芸能人らは自身のブログに、運営会社からの依頼であることを隠して、「オークションサイトで商品を安く落札できた!」などとあたかも高額商品を格安で落札できたかのような文章を書き込んでいました。

次に、女子アナによるステマ疑惑事件も有名かと思います。
東京キー局女子アナたちが、芸能人御用達の人気美容室に通い、ヘアカットだけでなく、その系列店でもネイルやマツエクなどの施術を無料で提供してもらっており、その見返りに、店の看板の前で撮影するなどして、来店したことをインスタグラムなどのSNSで公開していました。

どちらの事件も日本社会で大きく物議を醸しました。

なぜ景品表示法違反なのか

ところで、なぜステマはいけないか聞かれたら、どのように答えますか?

一般的には以下のことが言えるでしょう。

消費者心理としては、ある表示が事業者自身による広告だと分かっていれば、
「少し誇張した内容になっているのではないか」
「商品のいいところしか書いていないのではないか」
などと、警戒し、慎重になると思います。

しかしながら、これを好きな芸能人やインフルエンサーなどの「商品を売る立場にない人」が、第三者的立場から使用感をレビューしていたりすれば、「これなら怪しくないかも・・・?」という消費者心理が働いてしまいます。

しかし、蓋を開けたら大したことない商品を倍の値段で買わされていたりするわけです。
事業者にとっては美味しい話ですが、消費者にとっては軽い詐欺にあっているような感じです。

こういう弊害がありますから、EUやアメリカなどの海外ではステルスマーケティングを規制する法律がすでに存在する一方で、日本では直接ステルスマーケティングを規制する法律がなく、業界団体からも「業界の自主規制には限界がある」などとして、規制を求める声があがっていました。


では、なぜ、景品表示法違反なのでしょうか?

景表法では、「商品及び役務の取引に関連する不当な……表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的」として(景表法1条)、事業者の消費者に対する表示(広告)行為を以下のとおり規制しています(景表法5条各号)。

① 優良誤認表示(景表法5条1号)

商品・サービスの品質その他の内容について実際よりも著しく優良であると誤認させる表示
② 有利誤認表示(景表法5条2号)
商品・サービスの価格その他の取引条件について実際のものよりも著しく有利であると誤認させる表示
③ 指定告示(景表法5条3号)
商品・サービスの取引に関する事項について消費者に誤認され、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある、内閣総理大臣が指定する表示

このうち、③指定告示は、①優良誤認表示や②有利誤認表示には当たらない不当な表示について、内閣総理大臣が指定することによって、景表法の規制を及ぼすことができるという規制です。
今回のステマ規制は、この告示という方法によって行われており、まさに、この景表法5条3号に基づき、規制がされたということになります。 告示の内容は次の章で解説します。

事業者・インフルエンサー向け対応策

上記の通り、今回のステマ規制は、ステマは景品表示法で規制される「指定告示」に入りますよと内閣総理大臣が指定して告示したと簡単に言えばそういうことです。

では、その告示の内容を簡単に言うと、 ステマを「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義しますよ、というものです。

これも「で?どういうこと?」となると思いますが、これを全て説明するには極めて長くなるので、気になる方はこちらの「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(令和5年3月28日 消費者庁長官決定)をチェックしてください。

時間が無くてチェックできない方も以下の通り、気を付けるべき要点をおさえておいてください。

まずは、「広告」、「PR」等と、広告であることが分かる文字を分かりやすく表示することが何よりも重要です。

インフルエンサー等が事業者から依頼される場合には、広告であることの表示が非常に小さい、たくさんのハッシュタグに紛れ込ませている、動画上に一瞬だけ表示させる、なども規制対象になり得ることに注意が必要です。

また、事業者が、広告を明示的に依頼・指示していないという場合でも、言外に商品を売り込ませる動機を与えていた等の場合にもステマ規制が適用される可能性があります。

また、事業者内の広報の担当者等一定の立場の従業員等が行う表示が、事業者が自ら行う表示と判断され、ステマ規制が適用される可能性もあります。
しかし、このような表示は事業者の預かり知らないところで行われる可能性があります。
そこで、従業員等のSNS利用のルールを策定して、そのような事態を予防することが考えられます。

まとめ

いかがでしょうか?

現状、それなりの数のステルスマーケティングが横行しているかもしれませんが、まずは皆が新しく規制があったことを知り、そして、規制の内容を正しく把握していただくことが重要です。


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映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」(8月2日公開)の製作委員会が、主人公の名前を「小説ドラゴンクエストV」から無断で使用したとして、著者の久美沙織さんから訴えられた事件で、久美さんの請求が棄却されたとのニュースが飛び込んできました。

ところが、「なぜ請求が棄却されたか」について詳しく解説するような記事はあまり見当たりませんので、私なりに著作権法の知識の紹介と共に解説していきたいと思います!

事件の概要をご存じの方は目次で「著作物性が認められなかった理由」の方に飛んでください。

目次

ドラクエ事件の概要

ドラクエのゲームでは主人公の名前を自由に設定できるところ、久美さんは小説版の主人公を「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」として、これのニックネームとしては「リュカ」としていました。

この命名に自身の創作性が認められるべきなのに、映画版ドラクエでは、主人公の名前を「リュカ・エル・ケル・グランバニア」と無断で改変して使ったとして、これが著作権侵害だと主張していたとのことです。

名前としては、かなり長い部類ですし、創作的な感じもするので著作物とされてもおかしくないのでは??と思う方もいるかと思います。

しかしながら、これについて判決では「人物の名称は、思想または感情を創作的に表現し、文芸や美術などに属するとは言えない」とされ、著作物ではないと判断されてしまったようです。

この判決文通りだとすると、人物の名称はどのようなものであっても著作物でないと考えるべきようにも考えられますよね。

では、ここから、なぜこのような判断となったかについて書いていきたいと思います。

著作物性が認められなかった理由

まず、「著作物」と言えるためには、「思想または感情を創作的に表現し、文芸や美術などに属するもの」と言えなければいけません(著作権法第2条1項1号)。

これだけ見るとかなり高尚な芸術でないと著作物ではないのかと錯覚しますが、実際のところ「特に高邁な学問的内容・哲学的思索・文学的薫り等が要求されるものではなく,人の考えや気持ちが現れているものであれば足りると解されている。人の思想・感情のレベルは裁判所で判断すべきものではなく,またしてはならないものであると考えられるので,幼稚園児の絵も著作物たり得る。」と考えられています(著作権法 第3版/中山信弘)。

では、キャラ名についてはどう考えられるでしょうか?

分かりやすく、例えば、ポケモンの「サトシ」の名前を考えてみましょう。

「サトシ」というのは、日本人男性の名前としてよくあるものと捉えられますが、いくらここで例えば「このポケモンのストーリーからすればサトシという主人公の名前はベストであって、長い期間と労力をかけて考え出された名前である」と主張したところで、ありふれた名前としか言いようがなく、また、「サトシ」という名称があらゆる場面で簡単に使用できなくなると考えると「それはダメだろ!」とすぐ分かりそうです。

この点、東京地裁決判平成22年12月21日(廃墟写真事件)では、「廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限することはできない」と述べられています。
このことからも、著作物性を判断する際には、「いか考えたか、労力を要したか」といったプロセスはほとんど考慮されないと考えられます。

また、キャッチフレーズなどの短文の著作物性について判断された裁判例を紹介しますと、英会話教材キャッチフレーズ事件があります。
「英語がどんどん好きになる」「ある日突然、英語が口から飛び出した!」という宣伝用のキャッチフレーズが著作物だと主張されたのですが、「他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が現れる余地が小さい場合には、創作性が否定される場合はあるというべきである」として、これらキャッチフレーズの著作物性が認められることはありませんでした。

宣伝用キャッチフレーズという性質も関係していましたが、これと単純な文字量も相俟って「個性が現れる余地が小さい」と考えられたと言えます。

では、「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」は名前としてはかなり長く、奇抜な印象も抱きますが、とはいえ名前として把握される文字の羅列という枠を超えるものではなく、そして名前なので一般論としてそれぞれの文字に何か語義があってそれぞれ組み合わせることで新たな意味が発生するというものでもなく、また、単純に文字量として見ても多いとは言えませんので、個性が現れる余地が小さいと言わざるを得ないと思われます。
名前を、それを考えた人の著作物とすることでその名前を使用できなくなることへの純粋な違和感もありますし、やはり、キャラ名が著作物性を獲得することはできないでしょう。

商標権について

本件で、仮に久美さんが「リュケイロム・エル・ケル・グランバニア」を商標登録していれば、映画版の無断利用について商標権侵害の責任を問えた可能性があります。

商標とは、市場において、自社の商品やサービスを、他社のものと区別して需要者に示すためのいわば「めじるし」であり、商品名やサービス名、あるいはロゴマークなどが商標の代表例です。

キャラ名も商標登録が可能です。

商標は著作物と違って、登録しなければ商標権は認められないところ、久美さんはこれを特に商標として登録していませんでした。

そして、商標権侵害に問うためには、①登録商標の使用または類似範囲での使用及び②商標的使用に該当することが必要とされるため、使用された場合に全てにおいて商標権侵害が認められるわけではありませんが、本件では商標権侵害となる可能性はあると考えられます。

上記要件①②については、またどこかで解説記事を出せればと思います。


今回は以上です!

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