弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係、労働関係の法律問題についての発信をしています。

2021年05月

こんにちは!
弁護士の満村です。

今回は、どのような行為がセクハラ・パワハラになるのかについて書いていきたいと思います。
慰謝料相場や証拠収集についても書いています。

「もしかしたら、職場でされている行為はセクハラorパワハラかもしれない?」と思われている方に読んでいただきたい記事です。 

セクハラ・パワハラの定義について

案外、多くの人はセクハラもパワハラも大雑把に何となく理解しているだけで、どのような場合にこれらに該当するのか厳密に考えたことはないかもしれません。

また、近年は「〇〇ハラ」などと色んなハラスメントが生まれてきているので、余計に判断が難しいですよね。
そこで、法律上のこれらの定義を見ていきましょう。

セクシュアルハラスメント
とは、
職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けるもの、又は、当該性的な言動により、労働者の就業環境が害されるものと定義されます(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第11条1項)。 

パワーハラスメント
とは、
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものと定義されます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。

そして、それぞれ、このようなことが起こらないよう、会社には必要な防止措置をとることが義務付けられているのです。

勿論、これらに該当しない場合でも、いじめ・いやがらせ等違法な行為があれば法的な責任追及が可能なのですが、これらに該当すると、
①明示的に禁止された行為なので違法性が認められやすい
②防止できなかった会社の責任も追及しやすい

という意味があると思われます。

以下では、ハラスメントについて簡潔に説明していきます。
目次で大きく項目を分けているので、ご自身の興味関心に応じて適宜スキップしていただければと思います。



セクハラについて

(1)「職場」でなければセクハラでは無いのか?

「職場」の範囲は必ずしも物理的な仕事場に限定されるものではありません。

平成28年7月20日名古屋高裁判決では、同じ職場の従業員(加害者)が、被害者に対して、
 ①就業時間中に近くに来て繰り返し交際を申し込む
 ②就業時間外に被害者宅に押しかけ、面会を求める
 ③被害者退職後も、複数回、被害者宅近くに長時間自動車を停車させる
という行為に及んだことなどがセクハラと認められました。

仕事と直接関係なさそうな②と③もセクハラと認められたのは、裁判所が、物理的な「職場」を超えて、「職場」で働くことをきっかけとして行われた性的嫌がらせもセクハラと認めたということが言えますね。
例えば、仕事後の飲み会でされた性的嫌がらせであっても、セクハラと認められることは大いにあり得ますよ。

(2)同性間でのセクハラも認められるのか。

認められます。

平成28年11月29日千葉地裁松戸支部判決では、大学講師である被害者(男性)が、受け持つクラスの男子生徒から、その臀部を触られるなどしたことについて、「精神的衝撃は決して小さなものではない」などとして不法行為が認められました。

この裁判例からは、同性間のセクハラも成立するという他にも、セクハラには地位の上下は関係ないということも分かりますね。

(3)1回のセクハラでアウト?

相手の意に反する身体的接触を受け、被害者が強い精神的苦痛を受けた場合では、1回でも就業環境を害すると判断され、セクハラに該当します。

(4)加害者にしか慰謝料請求ができないのか。

会社への請求も認められます。

上述しましたが、会社には、セクハラが起こらないように必要な措置をとることが義務付けられています。
何の対策も取らず、漫然とこれを放置していたような場合には会社にも慰謝料請求できることになります。
例えば、
 就業規則にハラスメントの禁止や対処方針等が何も規定されていない
 ハラスメントの相談窓口がない
 窓口や上司にセクハラの相談をしたがまともに対応してもらえなかった
などの場合には会社にも責任が生じる場合があるということです。

パワハラについて

(1)「職場」でなければセクハラでは無いのか?

「職場」の範囲は必ずしも物理的な仕事場に限定されるものではありません。

平成28年12月20日東京地裁判決では、被害者が加害者である上司から、勤務時間外の飲み会において、鼻の頭にたばこの火を押し付けられたり、カラオケ店のマイクで殴打されるという暴行を受けたことについて、いじめ・パワハラであり不法行為を構成すると判断しました。

「職場」といっても、物理的な仕事場所のみに限定するものでないことが分かります。

(2)使用者や上司からの行為に限定されるのか?

パワハラは、「優越的な関係を背景とした言動」と定義されています。
しかし、それは使用者や上司の言動には必ずしも限定されません。

厚労省のパワハラ指針によると、優越的な関係については、
 ①職務上の地位が上位の者による場合
 ②自身が同僚又は部下である場合
 ③同僚又は部下からの集団による場合
が例示されており、使用者や上司によるものに限定していません。

その上で、同指針では、「優越的な関係」とは、労働者(被害者)になされた言動に対して、抵抗又は拒絶できない蓋然性が高い関係を指すものと説明されています。

3)1回のパワハラでアウト?

言動の頻度と継続性は考慮されますが、強い身体・精神的苦痛を与える態様の言動の場合は1回でも就業環境を害する場合があり得ると理解されています。

たった一度の行為でも、度が過ぎればパワハラとして違法行為となってしまうわけです。

(4)加害者にしか慰謝料請求ができないのか。

会社への請求も認められます。

上述しましたが、会社には、パワハラが起こらないように必要な措置をとることが義務付けられています。
何の対策も取らず、漫然とこれを放置していたような場合には会社にも慰謝料請求できることになります。
例えば、就業規則にハラスメントの禁止や対処方針等が何も規定されていない、ハラスメントの相談窓口がない、窓口や上司にパワハラの相談をしたがまともに対応してもらえなかった、などの場合には会社にも責任が生じる場合があるということです。


慰謝料相場について

数十万円から100万円程度が相場と言えるでしょう。
特にひどい場合には、100万円を超えることもあります。

優越的関係の程度、頻度・期間、退職にまで至っているか、うつ病等を発症しているか、複数人からによるものかどうか等により慰謝料額は増額する傾向にあります。
セクハラの場合には特に性交渉を強要するにまで至っているか等、性への干渉の程度が当然増額原因になります。


被害に遭ったときの証拠収集について

ハラスメントは密室で行われることも多く、証拠が残っていないこともよくあるのですが、それでは慰謝料請求ができなくなってしまう恐れもあります。そこで、以下のような証拠をとっておくといいでしょう。

 ①LINEやメールなどの履歴(スクショしておくとなお良し)
 ②証人になってくれる第三者
 ③医師の診断書(治療費請求のため領収書も大事)
 ④防犯カメラなどの映像記録
 ⑤被害直後のメモなどの記述
 ⑥録音記録

 ②について
責任追及する段階になってから証人になってくれるような人を探しても中々見つからないことが多いです。
ハラスメントの実情を知っているのは会社内部の人のみであることは多いですが、会社内部の人は会社からお金を貰って働いている手前、中々会社に不利なことを言ってくれません。
被害を受けたタイミングで、会社外の人に相談しておくといったことは一つの手です。

 ③について
ハラスメントがきっかけで心身に不調が出たら、すぐに病院にかかることも重要です。
その時点でのハラスメントの事実が立証しやすいですし、ハラスメントと認められれば治療費も請求できます。




以上、セクハラ・パワハラについて解説しました。

もし、この記事を読んでいただいた方の中で、実際に被害に悩んでいる方がおられれば一度ご相談ください。
メール、電話、Zoom等でも相談受け付けます。最初の連絡はこちらまで
mitsumura@vflaw.net

ではでは。

こんにちは!
弁護士の満村です。

今回はYouTubeでの誹謗中傷が問題となった発信者情報開示請求訴訟について紹介します。
特に公益目的性について争点となった事案ですので、ここにフォーカスして書いていきますね。
分かりやすさの観点から、かなり簡略化しています。


徳島地裁令和2年2月17日判決(徳島地裁平30(ワ)338号)

事案
LEDを主力商品とする大企業X社の元社員と称するYが自身のYouTubeチャンネル「晒しチャンネル」にX社の内部状況を告発するような動画を投稿した。
その内容は、「(X社には)まともな社員教育がありません。なので、社員はいつまで経っても学生気分です。」「学生社員が提案したLEDの製造工程を、下の学生社員が従う。まともな部分が無いので、仕上がるLEDの質もその程度です。」「「クリーンルーム」内に鳥が紛れ込んだり、犬が紛れ込んだり。こんな状態で仕上がったLEDです。」などと、X社の社員の質の悪さや、製品の品質の悪さなどを暴露するようなものであり、さらに上司からのパワハラが日常的にあったことにも言及しており、これらがX社の名誉・信用を毀損したと主張された。
YはX社を解雇された元社員のようである。

Y側の反論としては、①動画の画面は黒の背景に青字というおどろおどろしいもので怪情報と見られるようなものであり一般的な読者がこれを真実と受け取るようなものでなく、また、Yの主観的な意見が抽象的に述べられているにすぎず、X社の社会的評価が低下するものではない、②動画の内容には公益目的等の違法性阻却事由がある、というものであった。

判決
①動画内容は、会社の内部者しか知りえないような事実を具体的に摘示しつつ意見を表明する形式となっていて、一般的読者にとって信用性が低いというものでなく社会的評価の低下はある。

②動画の内容は、X社の製品の品質や職場環境に関するものが含まれており、X社の事業内容や規模等を考えると、これが公共の利害に関するものであることは否定できないし、そうであれば、公益目的で出された動画であるとも一定程度は推認できる。しかし、チャンネル名が「晒しチャンネル」であることや、内容が色々な表現を用いて執拗にX社を貶めるものであることを考えると、X社への嫌がらせ、復讐等を行うことを主たる目的とするものと認められる。よって、公益目的が認められない。

と、判断され原告の請求は認められた。



はい、こんな感じの裁判例でした。
名誉棄損における違法性阻却事由というのは、以前の記事でも解説していますが、
ア 公共の利害に関するものであること
ィ 専ら公益目的でなされたこと
ウ 重要な部分の内容が真実であること
(エ 論評としての域を逸脱したものでないこと)
とされており、本裁判例ではィが否定されたということになるでしょう。


「みんなのため」「社会のため」っぽい感じで言ってるけど、結局は個人的にムカつくていうのが一番強いんでしょ?みたいな感じですね。

SNSや掲示板上の、スキャンダルを起こした芸能人やきな臭いインフルエンサーに対する批判などの中には、正義感に根差してはいるものの、「でもそれを言うことで本当に社会のためになるのか?」「言うにしても、もっと伝わりやすく、洗練された言い方はなかったのか?」などと考えると、そうでもないということは多いかもしれません。
そうすると結局、「じゃあそれって、自己満足だよね?ほとんど公益目的ではないよね?」と判断されてしまうってことですね。

「社会のためを思ってのことだからいいでしょ」といって軽はずみに投稿すると訴えられてあっさり負けてしまうかもしれないので要注意です。

現在、ネットに関するトラブルについて相談を受けています。
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