弁護士の満村です。
以前から総務省において、「発信者情報開示請求制度」の簡易・迅速化の議論がなされてきました。
そして、令和2年11月12日に行われた「発信者情報開示の在り方に関する研究会(第10回)」において最終とりまとめ(案)が出されました。現在、意見公募中です。
案なので当然ここに書かれていることが全て制度化するわけではありませんが、おそらく書かれている内容の一部について制度化が行われるでしょう。
と、いうことで、今回は取り急ぎその内容を簡潔に書きたいと思います。あまり案ごとの場合分けを重ねて分かりにくくなるのも嫌なので、メインの部分の解説とします。以下で解説する内容はおそらく制度化されるんだろうなあと思われるものです。
1.開示対象情報の拡大
まず、令和2年8月にすでに省令が改正され、開示対象となる発信者情報の中に「電話番号」が含まれました。
積み残しとして議論の対象となっていたのが「ログイン時情報」です。
ブログにしてもSNSにしても、ほとんどのコンテンツで、IDとパスワードを打ち込みログインします。
そのログインのときにネットへの通信が発生するので、その通信に関するIPアドレス等も開示対象とするというものです。
権利侵害を発生させているのはあくまで個別の記事やツイートなどですから、その投稿の通信に関するIPアドレス等が出れば足りるのですが、それが消去されているなどして残っていないとき用ということです。
問題の投稿は結構前になされている。でもログインはこれまで定期的にされている。という場合に有効です。
ただ、この投稿をしたのと、このログインをしたのが別人だったらどうするの?という疑問もありますので、双方の関連性を要求するなど何らかの限定を付すことが適当であるとされています。
公募された意見も踏まえて最終的に詰めるのでしょう。
2.新たな裁判手続きの創設等
ここが議論の本丸でしょう。
以下、Twitter等のコンテンツプロバイダをCP、OCN等のアクセスプロバイダをAPとします。
今までは、
CPへの仮処分→APへの本案訴訟→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、時間とお金をかけて3段階の措置をとらなければなりませんでしたが、
最終案では、
裁判所への開示命令申立→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、かなり簡単な非訟手続のみで発信者情報を開示することを想定しています。
※非訟手続き=裁判所が当事者の主張に拘束されず、その裁量によって将来に向かって法律関係を形成する手続。
この最終案においては、最初はCPに開示命令申立の通知がいくのですが、CPがこれに対して発信者の使っているAPを特定し、そのAPにIPアドレスやタイムスタンプといった発信者の発信の形跡を提供し、APが発信者の氏名住所等を割り出し、開示命令がなされればそれに応じて情報を開示するという流れを想定しています。
もっとも、これでは、「発信者の意見はどうなるの??」となりますよね。
この点、開示命令申立を受けてプロバイダは、従前の通り発信者に意見照会を行い、その意見を考慮することになりそうです。
そして、最終的に裁判所が開示相当と判断し、開示命令がされれば、プロバイダは開示命令に応じるか、異議申し立てを行うかの判断をすることになります。
異議申し立てがなされればAPへの訴訟手続に移行します。
この異議申立権を発信者にも付与するなどの意見もあったのですが、最終的にそれは採用されなさそうです。
この点、「制度的には異議申立てについては直接の当事者であるプロバイダが最終的に決定すべき事項ではあるものの、発信者から非訟手続における開示決定に対して異議申立てを希望する意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましいと考えられる」とされています。
3.任意開示の促進
このような裁判手続のみならず、当事者間における任意の開示の促進も重要と位置付けられています。
この点、「権利侵害が明らかである場合には、プロバイダが迷うことなく開示の判断を行いやすくする観点から、例えば、要件該当性の判断に資するために、プロバイダにアドバイスを行う民間相談機関の充実や、裁判手続において要件に該当すると判断された事例等をガイドラインにおいて集積するなどの取組が有効であると考えられる」とされています。
4.雑感
ネットの誹謗中傷における権利救済が前進した点、大変喜ばしいことです。
もっとも、発信者情報の開示手続がかなりスムーズになる一方で、当然、発信者側のストレスは増えることになりそうです。
適切な制度利用を呼び掛けると同時に、濫用的利用の抑制は課題となってくるでしょう。
また、損害額についてですが、発信者の特定までに使う弁護士費用は抑えられることになるでしょうから、最終的な損害賠償請求額はおのずと抑えられることになります(というより、これまで高額な特定費用を発信者が押し付けられるという状態がどうも苦々しく思わざるを得ないものでした)。
あとは最終的な制度化を待ちましょう。適宜情報発信をしていきます。
また、現在ネット上の誹謗中傷についての相談をお受けしています。
mitsumura@vflaw.net
までご連絡ください。
では!
以前から総務省において、「発信者情報開示請求制度」の簡易・迅速化の議論がなされてきました。
そして、令和2年11月12日に行われた「発信者情報開示の在り方に関する研究会(第10回)」において最終とりまとめ(案)が出されました。現在、意見公募中です。
案なので当然ここに書かれていることが全て制度化するわけではありませんが、おそらく書かれている内容の一部について制度化が行われるでしょう。
と、いうことで、今回は取り急ぎその内容を簡潔に書きたいと思います。あまり案ごとの場合分けを重ねて分かりにくくなるのも嫌なので、メインの部分の解説とします。以下で解説する内容はおそらく制度化されるんだろうなあと思われるものです。
1.開示対象情報の拡大
まず、令和2年8月にすでに省令が改正され、開示対象となる発信者情報の中に「電話番号」が含まれました。
積み残しとして議論の対象となっていたのが「ログイン時情報」です。
ブログにしてもSNSにしても、ほとんどのコンテンツで、IDとパスワードを打ち込みログインします。
そのログインのときにネットへの通信が発生するので、その通信に関するIPアドレス等も開示対象とするというものです。
権利侵害を発生させているのはあくまで個別の記事やツイートなどですから、その投稿の通信に関するIPアドレス等が出れば足りるのですが、それが消去されているなどして残っていないとき用ということです。
問題の投稿は結構前になされている。でもログインはこれまで定期的にされている。という場合に有効です。
ただ、この投稿をしたのと、このログインをしたのが別人だったらどうするの?という疑問もありますので、双方の関連性を要求するなど何らかの限定を付すことが適当であるとされています。
公募された意見も踏まえて最終的に詰めるのでしょう。
2.新たな裁判手続きの創設等
ここが議論の本丸でしょう。
以下、Twitter等のコンテンツプロバイダをCP、OCN等のアクセスプロバイダをAPとします。
今までは、
CPへの仮処分→APへの本案訴訟→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、時間とお金をかけて3段階の措置をとらなければなりませんでしたが、
最終案では、
裁判所への開示命令申立→発信者への損害賠償請求訴訟等
と、かなり簡単な非訟手続のみで発信者情報を開示することを想定しています。
※非訟手続き=裁判所が当事者の主張に拘束されず、その裁量によって将来に向かって法律関係を形成する手続。
この最終案においては、最初はCPに開示命令申立の通知がいくのですが、CPがこれに対して発信者の使っているAPを特定し、そのAPにIPアドレスやタイムスタンプといった発信者の発信の形跡を提供し、APが発信者の氏名住所等を割り出し、開示命令がなされればそれに応じて情報を開示するという流れを想定しています。
もっとも、これでは、「発信者の意見はどうなるの??」となりますよね。
この点、開示命令申立を受けてプロバイダは、従前の通り発信者に意見照会を行い、その意見を考慮することになりそうです。
そして、最終的に裁判所が開示相当と判断し、開示命令がされれば、プロバイダは開示命令に応じるか、異議申し立てを行うかの判断をすることになります。
異議申し立てがなされればAPへの訴訟手続に移行します。
この異議申立権を発信者にも付与するなどの意見もあったのですが、最終的にそれは採用されなさそうです。
この点、「制度的には異議申立てについては直接の当事者であるプロバイダが最終的に決定すべき事項ではあるものの、発信者から非訟手続における開示決定に対して異議申立てを希望する意向が示された場合には、プロバイダは可能な限り発信者の意向を尊重した上で、個別の事案に応じた総合的な判断により異議申立ての要否を検討することが望ましいと考えられる」とされています。
3.任意開示の促進
このような裁判手続のみならず、当事者間における任意の開示の促進も重要と位置付けられています。
この点、「権利侵害が明らかである場合には、プロバイダが迷うことなく開示の判断を行いやすくする観点から、例えば、要件該当性の判断に資するために、プロバイダにアドバイスを行う民間相談機関の充実や、裁判手続において要件に該当すると判断された事例等をガイドラインにおいて集積するなどの取組が有効であると考えられる」とされています。
4.雑感
ネットの誹謗中傷における権利救済が前進した点、大変喜ばしいことです。
もっとも、発信者情報の開示手続がかなりスムーズになる一方で、当然、発信者側のストレスは増えることになりそうです。
適切な制度利用を呼び掛けると同時に、濫用的利用の抑制は課題となってくるでしょう。
また、損害額についてですが、発信者の特定までに使う弁護士費用は抑えられることになるでしょうから、最終的な損害賠償請求額はおのずと抑えられることになります(というより、これまで高額な特定費用を発信者が押し付けられるという状態がどうも苦々しく思わざるを得ないものでした)。
あとは最終的な制度化を待ちましょう。適宜情報発信をしていきます。
また、現在ネット上の誹謗中傷についての相談をお受けしています。
mitsumura@vflaw.net
までご連絡ください。
では!