弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係等の法律問題についての発信をしています。

2020年06月

こんにちは!
弁護士の満村です。

前にネット上のどの程度の発言で、名誉棄損(侮辱行為)として損害賠償請求が認められてしまうのかという記事を書きましたが、
 

今回は、こういう投稿は人のプライバシー権を侵害してしまうよ、という記事です。


プライバシー侵害の要件とは

どのようなことが他人のプライバシー侵害になるか、ということについては、
「宴のあと」事件という古い判例(昭和39年)の基準が現在でも裁判で使用されています。 

その基準がこれです。 
①私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること 

②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められること

③一般の人々に未だ知られていない事柄であること


これらに加えて、プライバシー保護の対象となる人が私人か公人か、
公開された情報が公共的なものか等を検討して、
プライバシー情報を公表することが大きな価値を持つ場合には例外的に違法性が阻却されることがあります。

それぞれの要件について説明を加えると次の通りです。 
①について 
これは簡単ですね。
住所・氏名・電話番号や「あの人は実は裏で○○してる」のような情報をばらすということです。

②について
これも簡単です。 
例えば、「あの人は掃除が得意だ」ということをばらしたところで、特に本人にとって不利益ということはないのでプライバシー侵害にはなりません。

その人が他の人より神経質で、「どんな情報でもばらされるのは絶対いや」や「掃除が得意なことだけは人には知られたくなかった」と思っても、
「一般人の感受性」を基準にするので、やはりプライバシー侵害には当たりません。

③について
すでに多くの人が知っていることでは新たなプライバシー侵害にはならない、ということですね。
但し、電話帳に載っている等である程度知られうる情報でもそれをネット上で公開したり、あるプライバシー情報を含むツイートをリツイートなどで拡散した場合には、
「より多くの人が知ってしまうことになる」ということでプライバシー侵害が認められています。


では、次にプライバシー侵害についての裁判例を紹介します。

住所・氏名さらし事案

インターネットのチャットルームにおいて,原告の住所・氏名を公開するとともに,「郵便局の配達員クビになった」,「引き籠もり40才」などと記載した事案(大阪地裁平成20年6月26日)。

判決 
住所・氏名を公開したことをもってプライバシー侵害が認められました。

そして、住所・氏名や「郵便局の配達員クビになった」,「引き籠もり40才」などを公表することに公共性もなく、不必要な行為であって、違法性の阻却も無いとされました。

元風俗嬢への恨み男事案

インターネット掲示板で、元風俗嬢の女性に恨みを抱く男が以下のような書き込みなどを執拗に繰り返したという事案(仙台地裁平成31年4月12日)。

X1’(原告の旧姓)1990年○月○○日生まれ 28歳 バツイチ、子持ち、旦那、彼氏、愛人あり  ○○県内、某女子高卒 スナック、おっパブ、風俗の勤務経験あり 兄弟、姉妹あり  出身→青葉区(以下略)」
「私生活は充実しとるみたいやで~? 金も貯めとるみたいやし最近は新人サンも増えて店で肩身も狭いんやろ?笑 そろそろババアさかい、ソープに移籍するんやないか?」 


判決 
原告の旧姓でのフルネームだけでなく,生年月日や年齢,家族構成,実家の住所,職歴や性風俗業への勤務経験等が書き込まれており,
これらの情報は当然ながら非公知の事実であって,当該書込みが原告のプライバシーを侵害するものであることは明らかである、とされた。 

コメント
明らかなプライバシー侵害ですね。 

原告の女性がお店で働いていたときは、いわゆる源氏名を使っていましたが、女性の旧姓を公表したことだけでもプライバシー侵害を認めています。
他人の知られていない氏名・住所をネット上で公開することは原則として即プライバシー侵害となると言うことです。

ただし、単体で名字だけ載せたり、住所だけ載せたりする場合はどうでしょう。
それだけでは意味不明ですよね。

ある程度組み合わされて個人が特定されるからこそ「知られたくない情報」となるので、それに至らない情報量ではプライバシー侵害にはなりません。

そう言った意味では、この事案でも、最初の事案でも、個人を特定するに至っていると言う判断が前提にあるわけです。

グラビアアイドルの私生活事案

原告であるグラビアアイドルの女性が、SNS上で、男性との交際のことや、私生活上の行動についての写真を公開された事案(東京地裁平成30年4月27日 )。  

判決
原告の私的な交際の有無や態様等を摘示するものであるから,私生活上の事実らしく受け取られるおそれがある。

また,交際に関する事実は,原告の立場からすると主たるファン層である男性のファン離れを引き起こしかねないものであるから,一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合に公開を欲しない事柄である。

また、掲載された写真は,原告の私生活上の行動を写真に収めたものであるから,私生活上の事実である。

また,私生活上の行動については,通常は由なく公開されることを望む人はいないことから,一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合に公開を欲しない事柄である。

さらに,原告は芸能活動を行っているものの著名人とは言い難い存在であり,私生活上の行動を特に公表していることもないから,一般の人々に未だ知られていない事柄である。

したがって,これについても原告のプライバシーを侵害することは明らかである、とされた。 

コメント 
グラビアアイドルと聞くだけでドキドキしてしまうのはどうしてでしょう。

それはさておき、判決を見ればわかりますが、例えば交際の事実が嘘であっても、「私生活上の事実らしく受け取られる」と判断されれば、プライバシー侵害となるのですね。

他方で、「A子さんは、宇宙人と付き合っているらしい」なんてのはどうでしょう。
誰も信じませんよね。だからこれはプライバシー侵害にはなりません。


あと、写真の公表もプライバシー侵害になることが分かりますね。
もっとも、写真がかなり鮮明であったり、他の情報と相まって、個人が特定されればの話ですが。

誰かからの恨み事案

原告が,電子掲示板上で、何者かに自分の車を傷つけられたという事実を茶化すように書き込まれたという事案。(東京地裁平成29年10月31日)

判決 
自動車に傷をつけられること自体は,いたずらなどによりなされることもままあることであるから,そのこと自体は,一般人の感受性を基準として当該私人の立場に立った場合に,他者に開示されることを欲しないであろうとは認め難く,これが原告のプライバシーを侵害すると認めることはできない。

なお,原告は,原告が他人から悪意を持たれているという点で他人に知られたくない情報である旨主張しているが,一般的な閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすると,会社の駐車場で自動車に傷をつけられたとの印象を抱かせるにとどまるものというべきであり,原告が他人から悪意を持たれているという印象を与えるものとは認め難い、とされた。

コメント
まあ、これくらいの事実ならプライバシー侵害とはいえないんですね。
わざわざ言われたくないことではありますが。



以上、どうでしたか?
人のプライバシーは思っている以上に厚く保護されていると感じたのではないでしょうか。

くれぐれも、プライバシー侵害の加害者にならないように気を付けてください!


また、現在、ネットでの誹謗中傷、プライバシー侵害の被害に遭われた方の相談を受けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
mitsumura@vflaw.net


では!

こんにちは!
弁護士の満村です。


前回の記事で、ネット上の名誉棄損・侮辱行為がどの程度ならアウトなのか(損害賠償請求が認められてしまうか)ということを書きました。

今回は、この記事を踏まえて、ネット上での色々な発言を想定して、
個人的にアウト・セーフを検討していこうと思います。


①「芸能人Wが不倫しまくってるらしい。おれもトイレ入っていくの見たわ(電子掲示板にて)


タイムリーな話題について、これはどうでしょう。

まず、世間からの好感度を売りにしている芸能人の不倫を摘示するのは、明らかにその人の社会的評価を低下させますよね。

しかし、名誉棄損は、
「公共の利害に関する事実」を
「公益目的」で摘示する場合には例外的に違法性が無いとされる
んでしたよね。

芸能人のスキャンダルはどうでしょう。

たしかに「影響力のある人が不道徳な不倫をやっているということは国民にとって重大事であり、公共性がある」という意見もあるかもしれません。

ただ、基本的には芸能人は公人ではなく、言うなれば「有名な私人」なので、その人の私生活がだめだめでも、これを暴くことが公共性を持つということはないと考えるのが主流でしょう。

よって、違法性が無いとされることはなく、名誉棄損が成立します。


ただし、一般の人が芸能人のスキャンダルに触れるのは、週刊誌等にすっぱ抜かれてその事実が公になった後ですよね。
日本中誰でも知っているような事実を、さらに言ったところで、その人の社会的評価の低下はかなり限定的です。

結局のところ、我々が週刊誌のすっぱ抜いた事実について発言する限りでは、あまりにひどいことや嘘を言わない限りは、普通は名誉毀損にはならないでしょうね。

②「アンパンマソっていう奴さっきからうるさいけど、こいつ人殺したことあるんだぞ。(電子掲示板にて)」

「こいつ人殺したことある。」は、特に嘘であれば、かなり悪質な名誉棄損ですよね。
実際のところ本当であっても、証拠を握っているわけでもない状況ではデマと扱われるでしょう。

ただ、ここで問題が、「アンパンマソ」という名前の人がいるわけはありません。
ネット上のハンドルネーム、アカウント名と言うことですよね。

ってことは、実在の被害者がいない以上、名誉棄損は成立しえないでしょうか。

この「アンパンマソ」というアカウントが有名で、中の人の本名をけっこうみんな知っているというのであれば、被害者は特定されますから、名誉棄損は中の人について成立します。

また、例えば、中の人が「アンパンマソ」という名前を使ってブログなどしていて、
ネット上ではそれなりの有名人であれば、本名を知られてなくても名誉棄損が認められることがあります。
ネットにおけるその人の活動に社会的評価が十分認められるので保護しないといけないということですね。

③「A子は性格ブス。人格破綻者。(Twitter上にて)」


これは一方的な暴言のようですが、名誉棄損になるのでしょうか。

前回の記事では、発言者の単なる評価に過ぎない暴言については、名誉棄損は認められにくく、それがあまりに悪質なものであるときに侮辱行為として損害賠償請求が認められると説明したと思います。

上の発言は何も具体的な事実を摘示するものではないですが、
他方で、「あほ」「くそ」とかと比べれば、「A子さんは性格がとても悪いのだろう」と周りに思わせるのに十分な発言のようにも思われます。

で、これを名誉棄損とした裁判例はあります。

しかし、やはり、単なる一方的な評価ではないかと批判もあるところです。

むしろ、原理原則からすれば、名誉棄損とするには少々無理があると思います。

ただし、これが執拗に繰り返されていれば、名誉毀損にも侮辱行為にもなり得ますね。

④「X店の出しているメシは本当にまずい。(飲食店口コミサイトにて)」

食べログとかのサイトで、店の味をマイナスに評価すると名誉棄損となってしまうのでしょうか。

「まずい」とか「高い」というのは事実ともとれますが、基本的には個人の評価と考えられます。

そして、飲食店にとって、ご飯がまずいというのは評価低下につながりますが、常識的な批評であれば本来飲食店は批評を受けて然るべき立場ですし、問題ないでしょう。


また、少々表現が酷くて名誉毀損になりそうでも、公共性が認められるかという問題があります。

実際食べに行った人の飲食店の味の評価をネット上で確認できるのは非常にありがたいことですよね。

そういうことで、「店舗の関係者、周辺に在住する顧客等との間では(マイナスの口コミは)公共の利害に関するもの」とした裁判例があります。

常識的な範囲内で店の味をマイナスに評価することは名誉棄損にならないでしょう。


以上、飲食店のマイナスの口コミは名誉棄損にならないケースがほとんどと言えますが、
表現には気を付けた方がいいです。

「あまりよろしくないですね」「おいしくはないかな」
くらいなら大丈夫ですが、

「くそまずい!やめてしまえ!」「げろの味がする」
なんてものは批評の域を出た発言であり、名誉棄損になる可能性は上がるでしょう。

また、嘘で、「ゴキブリが入っていた」
なんてものもアウトです。

⑤「X社の社長はコロナにかかったらしい(Twitterにて)」

実際にこのような情報が流され(嘘なのに)、会社の取引先が撤退していき、業績が悪化した社長の話をテレビで見ました。

このような実害が現に発生していますし、明らかに社会的評価を下げるものと言えます。

デマであれば完全にアウトですし、感染した確証もなく発言するのであれば、本当のことかもしれなくてもアウトでしょう。

ただ、本当のことである確証がある場合はどうでしょう。

これもまた、公共性の問題になりますが、Twitterで、社長と直接の関係のない不特定多数に感染の事実を発信することには公益的な意義はないので、公共性は否定されるのではないかと思います。

⑥まとめ

以上、いかがでしたでしょうか。

前回の記事と併せて見ていただければ大体感覚は掴んでいただけたのではないかなと思います。

くれぐれも誹謗中傷の加害者にならないように気をつけながらも、ネットライフを楽しんでいただけたらと思います!

また、現在、ネットでの誹謗中傷の被害に遭われた方の相談を受けておりますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
mitsumura@vflaw.net

こんにちは!弁護士の満村です。

今回のテーマは、ネット上での発言はどんなものだと違法になっちゃうの!?ということです。


そういえば、先日、某チェーン店で食事したときに、他店舗と比べて食事も空調も悪くて、鬱憤晴らしにネットで発信したい気持ちにかられたのですが、
これ店名とか明らかにして発信したらだいぶやばいよなあ・・・と思ってました笑

ただこの辺のやばい基準がよくわからないですよね。


逆に基準が分かっていれば、萎縮せず、ネット上でも自由な発信を続けられると思います。
もちろん悪口などを推奨するわけではないですよ!

と、前置きしたところで見ていきましょう。

今回は、名誉棄損についての一般的な解説をした上で、いろんな事案を紹介していきます。



名誉棄損(侮辱行為)の成立要件


ネット上の誹謗中傷で損害賠償請求(不法行為責任)が認められるものの代表格が名誉棄損です。

そもそも、名誉棄損というのがどういうものか、皆さんご存じですか?

簡単に言うと、その人の社会における評価を低下させる言動をすることとされています。

なので、「個人的に傷ついた!」と言うだけでは名誉棄損には当たりません。

例えば、「Xさんは散々不倫をしまくっている」というのをネット上で書き込めば、不特定多数の人がXさんが不倫をたくさんしていることを認識し、Xさんの評判は下がりますから、名誉棄損が成立します。


ちなみに、人の評価を下げる発言でも、社会的に有用な発言は表現の自由の保護下にあります。

典型的なのが政治家の不正とかですね。

公的なことでも、事実無根であったり、あまりにも度が過ぎて表現としての保護に値しないなども考慮されます。

では、「個人的に傷ついた!」という場合には、全く損害賠償の対象とならないかと言うとそうではなく、侮辱行為として不法行為責任を負う可能性があります。

ただし、単なる不快感では認められず、主観的名誉感情が害されたという必要があり、
判例では、「侮辱行為の違法性が強度で、社会通念上許容される限度を超え」るような言動をした場合にのみ不法行為責任が認められます(最3小判平成22年4月13日)。


では、それぞれの要件を簡潔にまとめると以下の通りです。

・名誉棄損
①社会的評価を低下させるおれのある発言、書込みがなされたこと

②違法性阻却事由をうかがわせる事情の存在 (これらを全て充たすこと) 
 ア 公共の利害に関する事実であること 
 イ 公益を図る目的でなされたこと
 ウ 内容が重要な部分において真実であること
 エ 論評としての域を逸脱したものでないこと

・侮辱行為
名誉感情を害する強度の侮辱的発言、書込みがなされたこと


まあ、なかなか難しいですよね笑

例えば、「ばか」「あほ」「DQN」「きちがい」などは一方的な意見と言えますから、なかなか人の社会的評価を低下させることにはつながりにくく、名誉棄損の成立も難しいことが多いと思います。

ただし、これが執拗に繰り返されるなど悪質であれば侮辱行為として損害賠償請求が認められることがあるでしょう。


他方で、「Xさんは不倫をしている」や「あの店は食事に毒を混ぜている」というような事実摘示になると、名誉棄損の成立は比較的認められやすいと言えます。

色んなケースを想定して、上の要件に当てはめてみてください。

次に実際の裁判例を紹介していきたいと思います。

つまらん暴言積み上げ事案 


インターネット掲示板の投稿記事で、原告が勤務する予備校名と原告の姓の後に「くそ」「うんこ」「ゴミ」「死ね」という言葉を,13回,14回と繰り返し書いたという事案(東京地判平成29年1月16日)

判決
名誉棄損かどうかについては、原告の社会的評価を低下させる事実の摘示を伴うことなくなされたものにすぎないから、いずれも、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に該当するものとは認められないとされたものの、
社会通念上許される限度を超えた侮辱行為として原告の名誉感情を害し、違法阻却事由もないとして、原告の請求を認容した。

コメント
しょうもない発言ですが、繰り返し発信されたことで損害賠償が認められました。

この暴言は、13、14回行われたのですが、約5時間くらいの間に行われたにすぎず、長期間執拗に繰り返されたというほどでもありません。

しかし、この回数の執拗さから悪質性が認められたのでしょう。

逆に言うと、突発的に「あいつはあほだ!」と一回投稿したくらいでは損害賠償とまではならないでしょうね。(もちろん推奨はしませんよ)

どっちもどっち事案 


ネット通信サービス上で、A氏が原告に対して、

「あなたの妄想特急の勢いには、ほとほと感服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。」
「精神的文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です」、
「禁治産者って、裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?」

などと発言されたことにより、原告が、名誉毀損及び侮辱の被害を受けたと主張した事案(東京地方裁判所判決/平成11年(ワ)第2404号)。

判決
上記発言が原告に対する侮辱的発言であることは認めたものの、
この発言が、原告による発言に誘発されたものであるし、原告は、A氏の発言に対抗する必要かつ十分な反論もできているから、上の発言により原告の社会的評価が低下する危険性は消滅したと認めるのが相当である、として名誉棄損性、侮辱行為性を認めなかった。

実は、原告は「当人の精神構造が異常だと確信させてしまう」、「(A氏)の底知れぬ悪意に反吐が出ます」等の発言をしていた。

コメント
権利侵害的な言論に対しては、まずは言論による対抗がなされるべきという考え方が従来からあり、この考え方を当てはめた事例と言えます。

かなりきわどい表現であっても一時的な罵倒合戦で、一方が少し行き過ぎたというくらいでは「お前も悪い」となるし、ちゃんと反論できているんだから社会的評価も落ちていないという判断がされたということです。

水商売女性ぶったたき事案 


電子掲示板において、水商売の女性である原告に対する

「(原告)の加齢臭が強烈」や
「(原告には)太いのいないけど客の数が多い。(原告の客が多いのは)□□七不思議の一つ」

との記載が原告の名誉感情を害すると主張した事案(東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第27437号)。


判決
「加齢臭が強烈」は、それが侮辱的な表現であるということは認めることができるが,
同投稿はこの記載のみで何ら具体性がないものであるから,これが,原告の人格的価値について言及し,評価するもので,社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとまでは認めがたく,原告の社会的な評価を低下させるものとも認められないとした。
 
また、「太いのいないけど客の数が多い □□七不思議の一つ」との記載は,原告の客の数が多いことを認め,
接客業において原告が優れていることを前提にしているのであり,それを七不思議であると評価したことをもって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるということはできないとした。

コメント
いずれも、言われたくないこと、馬鹿にされていると感じることではありますが、具体的な事実を摘示しているわけでもない抽象的な発言であったり、そこまで大したことのないものだったりするので侮辱行為性は否定されていますね。

ただ、これらが同一人物により執拗に繰り返されている場合には侮辱行為とされる可能性はあるでしょう。

枕営業ばらし事案


電子掲示板上で、ナイトクラブのママである原告が整形又は脂肪吸引をしたとの私生活に関する事実や枕営業を行っていたとの事実が摘示された事案(東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第24311号 ) 。

判決
枕営業に関しては「鬼枕で有名だった」「寝たっていう客何人も知ってる」という表現がなされていたが、これらは原告の社会的評価を低下させるとして名誉棄損と認められ、整形、脂肪吸引については、非公知の他人に知られたくないことを明らかにするものであるとしてプライバシー権の侵害と認められた。

コメント
「ばか」「あほ」とかと違い、「枕営業してる」「何人もの男と寝ている」のような不名誉な事実を摘示する発言については比較的容易に名誉棄損性が認められると言えます。
どこのだれか分からない人の勝手な評価より、「事実」を流布されることの方が社会的評価が下落することは当然と言えますね。
 
さらに、事実無根であればよりアウトですが、事実であっても公益的な事柄でなければアウトとなる可能性は高いでしょう。

ちなみに、プライバシー侵害が出てきましたが、これも権利侵害の一類型です。また、今後の記事でプライバシー侵害は扱う予定です!




また、いま話題になっているトピック(令和2年6月時点)などを織り交ぜて、名誉棄損の成立の有無を考察している記事も併せて紹介します↓



以上、色々と紹介してきましたが、いかがでしたか?

もちろん、人を傷つけるような発言をすることは慎まれるべきです。

しかし、今の風潮的に、マイナスな発言はちょっとしたことでも許されないのではないか、まっとうな批判でも訴えられたらアウトなのではないか、等過度にネット上の表現が萎縮してしまうことを恐れて、このような記事を出しました。

また、今から誹謗中傷と戦おうとされている方の参考にもなれば幸いです。

ではでは!


こんにちは!

以前リストラについて記事を書きましたが、今回は日本におけるリストラの新たな流れについて書きたいと思います。 

黒字リストラって聞いたことありましたか?

黒字リストラ」とは、好業績であっても将来的なリスクを見越して、組織をリストラクチャリング(再構築)することをいいます。

普通、これまでリストラは会社の業績不振による延命措置的な位置づけで行われてきました。

しかし、リストラ=赤字リストラの時代は終わってきているんです。

なぜ今黒字リストラか

2019年、トヨタの豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言して話題になりました。

また、経団連の中西会は「新卒一括採用、年功序列、終身雇用がセットになっている日本型雇用システムの見直しを議論すべき」と発言しています。


そして、かつては終身雇用、生涯安泰と言われたような大手企業による早期・希望退職募集のニュースが相次いでいます。
さらには今年に入ってコロナの影響でより厳しい局面にあります。


長い不景気が続き、まさに変革が求められる日本の経済において、ある種の従業員の社会保障を担ってきた会社のあり方が大きく変化しているといっていいでしょう。


次々と黒字リストラを行う企業の目的は大きく分けるとこの2つではないでしょうか。

①人件費削減

②将来目線での事業構造改革




人件費削減は簡単なことです。

能力の低い社員に辞めて貰えば、その分給料が浮いて経営のスリム化が図れます。

特に、年功序列の給与体系を取ってきた日本企業にとって、歳の分給料が高いだけの「働かないおじさん」を切れるのはかなりのメリットを享受できます。


これからのAI/IoT/ビッグデータ時代に備えて、企業も既存の事業の見直しを行っています。

その中で、いらない部門やいらない社員というのが必ず浮き彫りになりますよね。

企業はこれらの「いらない」を切り捨て、新しい時代に適合する事業や社員を欲しがっているのです。
その意味での黒字リストラもあるということですね。

人間が働かない時代

上では、これから、いらない人材がリストラされ、その分いる人材が補充されるというようなニュアンスになっていたかもしれません。

しかし、補充されるのはロボットかもしれません。

というより、企業は既にロボットと人を入れ替えるためにリストラをしているという指摘もできます。

これからAIがより高度化すれば、確実にロボットにさせた方がいい業務は増えてくるでしょう。

継続的に給料を支払わねばならず、「セクハラ」「パワハラ」「男女トラブル」など面倒ごとを発生させる人より、ロボットにドンっと初期投資した方がよっぽど合理的と判断する経営者は絶対に増えてくるはずです。

では、この黒字リストラ時代を生き抜くには自分がどのような人材になるべきか自ずと決まってくるような気もします。

仕事に辛さを感じることはすごく分かりますが、少なくとも、職場への不満を日々愚痴っていて、働く意欲を失っている人は、経営者から見たらすぐにでもロボットに変えたいと思うんじゃないでしょうか。

会社は今後どんどん、ある意味冷酷になっていきます。

「社員は家族」とは思ってくれません。

じゃあ、自分も今の会社のためにでなくて、自分のためにスキルを身につけたり、将来有望な会社に転職したりという策をとるべきではないでしょうか。

まとめ

過去の記事では、今後転職市場が拡大する、転職が普通になる、ということを書いていましたが、逆に、これまで書いたように会社側から社員を切るリストラも普通になってくるでしょう。

社員が会社に忠誠を尽くしたり、縛られたりする時代は終わりました。

ジョブ型雇用の記事も書きましたが、自分の「ジョブ(スキル)」を基準に社会人ライフを送っていただければと思います。


法律相談については以下のアドレスまで、気軽にご連絡ください!
mitsumura@vflaw.net

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こんにちは!

今回は、コロナの影響もあって今後どんどん変貌していく日本人の働き方について書きます。

特に「ジョブ型雇用」というワードにスポットライトを当てた記事です。


どういう働き方をすればいいか、どういうスキルを身に着けるべきか、などに迷っておられる方の参考になればと思います。

目次

ジョブ型雇用とは?

転職市場はどうなる?

リストラはしやすくなるの?

まとめ

ジョブ型雇用とは?

ジョブ型雇用とは、かなり簡潔に言ってしまうと、職務(ジョブ)を雇用の段階から限定して採用するという企業の雇用形態のことです。

最初から職務内容を細かく規定し、個別に契約を結ぶので、営業の人はずっと営業、会計の人はずっと会計という感じに部署の異動というのを想定していません。


最近では、日立、富士通、資生堂といった有名企業がジョブ型雇用への移行を表明しています。


ジョブ型雇用の対義語としては、メンバーシップ型雇用が挙げられ、日本式の雇用システムとなっています。

メンバーシップ型では、多くは総合職として採用し、転勤や異動、ジョブローテーションを繰りかえすことで、会社を支える人材を長期的に育成していきます。

早期離職をしないよう、長期的に働くほど一律で昇給する年齢給を採用する企業が多く、さらに多額の退職金が受け取れる年功序列型賃金体系がセットになった雇用と言えるでしょう。

「まさに日本企業じゃん!」と思いますよね!

メンバーシップ型は「仕事のプロ」を作るというよりは、「この会社のプロ」を作るという感覚ですね。

転職市場はどうなる?

ジョブ型雇用が主流になっていけば、飛躍的に転職市場は巨大化するでしょう。

人材が「会社」を基準に評価されるのでなく、「仕事」「スキル」を基準に評価されるのですから、優秀な人材はどんどん転職して、ステップアップしていくような世の中になっていくと想像できます。

優秀な人材というわけでなくても、「この会社にはあわない」と思った人は、何とか自分の分野での経験とスキルを身に着ければ、今の社会よりは格段に転職しやすくなるでしょう。


「A社で色んな部署を経験したのでA社事情には詳しいです」ということにはそこまで価値は無くても、「営業職を8年ずっとやってきました」ということには一定の業界評価がつくのは当然のことです。

リストラはしやすくなるの?

個人的な意見としてはリストラはどんどんしやすい社会になっていくと思います。

ジョブ型雇用になれば、労働者の評価は特定の「仕事」に焦点が絞られますから、この「仕事」が全然できていないことには、いくら社内のムードメイカーのような人であっても評価のしようがありません。


また、以前の記事

で書きましたが、一番強力なリストラ手段である整理解雇には法律上要件があって、その中には、「リストラする前に配置転換などを検討・実施したのか」というものがあります。

ただ、ジョブ型雇用では、配置転換は全く予定されていませんから、「Aさんを他の部署で働かせたら何とかなるんじゃないか」ということを会社として考える必要が無くなります。

結果として、今までよりは簡単にリストラができてしまうということになります。

まとめ

以上のように、日本企業がジョブ型雇用に移行していくと、確実に労働市場の流動性が増すという結果をもたらすことでしょう。
転職・リストラのハードルが確実に下がると思います。


もちろんいいことばかりではないですが、労働者にとっては一つの会社に縛られる必要が無くなるわけで、人生の自由度が増すと考えるべきではないでしょうか。

会社に就職するのでなく、自分のスキルに就職するというイメージはどうでしょう。
自由な感じがしませんか?

今の職場に嫌気がさしているあなた、今こそ、「企業戦士」から「プロフェッショナル」にあなた自身の意識を移行させるときではないでしょうか。

法律相談はmitsumura@vflaw.netまで!
ではでは!


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