弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や遺産相続関係、労働関係の法律問題についての発信をしています。

弁護士の満村です!

今回は、タイトルの裁判例を紹介します(福岡地判令和04年03月18日 事件番号:平成31年(ワ)第1170号)。

有名な東名高速道路あおり運転事件 ニュース記事 )の被告人と同姓であったために、とある掲示板上で被告人の父親だと名指しされたAさんが投稿者を訴えた事件です。
実際はAさんは父親ではありませんでした。

こういう特定班的なネットユーザーってよく見ますよね。
有名事件の真相を推測も交えて論じることでPVを稼ごうとするある種のトレンドブログのようなものもよく見かけます。
「犯人〇〇の家族は!?恋人はいるの??」みたいなやつです。

まあ、そういうお転婆なネットユーザーさんがちゃっかり訴えられたということですね。

今回注目する投稿は以下のものです。


訴えられた投稿:「これ? 違うかな。」 

です。

え??
という感じですが、
この投稿は、 「(被告人の)親って〇〇区で建設会社社長をしてるってマジ? 息子逮捕で会社を守るために社員からアルバイトに降格したの?」という内容の投稿に対する返信の形式で、B社(=Aさんの会社)の所在地や電話番号等が表示されるサイトへのハイパーリンクが設定されたURLも付してなされたものでした。

確かにこうなると前後の文脈からして、思いっきり特定の会社とその社長の社会的評価を低下させそうです。

でも、これって、「これ?」「違うかな」と質問形式なので、事実を断定していなくないですか?

当然、被告からはそのような反論が出ました。

しかし、裁判所は、
「これ? 違うかな」として断定した表現を避けてはいるものの、本件返信元記述の問いかけに答えるもので、本件返信元記述の記載内容の真実性に対して何ら疑問を呈することなく、かつ、本件投稿1を投稿した経緯の説明を付すことなく、本件返信元記述の内容を前提に、これに沿ったB社の情報を摘示したものであるから、本件返信元記述の信用性を高め、かつ、会社の名称や所在地を明らかにするハイパーリンクが設定されたURLを掲記し、情報の精度を上げるもので、本件投稿1の読者に対し、本件男性が本件会社に勤務し、B社の代表者が本件男性の親であるとの印象を与えるというべきである(一部単語の修正あり)」と判断しました。

投稿の違法性を判断するには、その投稿そのものだけを見ていればいいわけではないということがよく分かる事例ですね。

以上のように、この投稿について名誉棄損が認められました。

で、この慰謝料は、というと、 20万円+弁護士費用2万円でした。
安いですね~ここまでがっつりした名誉棄損なのに。

でも、これにはちょっと理由がありました。
・Aさんが報道機関に働きかけ、本件の虚偽情報が事実と異なる旨が繰り返し報道されるなどした
・Aは、B社とともに、本件虚偽情報に係る名誉毀損に関して、被告ら以外の者から合計約230万円の支払を受ていた
・被告らが、Aの告訴等を受けて本件各記述について、B社に対する名誉毀損罪が成立するとして、それぞれ罰金30万円の判決を受けた
とのことです。

報道があって、嘘がある程度修正されていると判断されれば慰謝料下がるんだ!
他人の慰謝料の支払でも関係あるんだ!
投稿者が刑事罰を受けていれば慰謝料が下がるんだ!
とか、少し気付きがありますよね。

はい、そんな感じでした。

ネット上では、大して調べもせず、「〇〇さんは××らしいよ」「〇〇さんの言ってたことは嘘で××が正しいらしいよ」みたいな推測の域を出ない発言が多く見られ、今日も人々の心を惑わしています。
我々法律家からすると、そのような「根拠なんて要らない」と言わんばかりの態度には驚くばかりです。
「根拠」の無いことへの危機意識をしっかり持ってこのネット社会を生きていきたいですね。
では!

法律相談は、mitsumura@vflaw.netまで。 

弁護士の満村です。

今回は「偽造開示請求」について。実際のご依頼を参考に書きます。

ネット関連のご相談を日々受けていますが、その多くは発信者情報開示請求に関する相談です。
むやみやたらと発信者情報開示請求をすることについての批判的意見がネット上を飛び交うこともありますが、多くの請求は少なくとも認められる余地のある妥当なものです。
しかし、法的に認められる余地のない投稿について、脅しや威嚇目的で発信者情報開示請求をすることは、倫理的に問題があるばかりか、プロバイダ責任制限法4条1項2号の「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」をまず充たさない法に反した請求ということになります。

つい最近ご依頼を受けた件で次のような「トンデモ」請求がありました。

請求者が実際の投稿に酷い文章を付け加えるという偽造を行ったうえでの発信者情報開示請求でした
これを本記事では「偽造開示請求」と命名して書いていきます。

依頼者様の承諾を得ましたので、以下ではブログ記事用に具体的事実を脚色して事案の内容を紹介すると共に、対処法等を書いていこうと思います。

1 事案
佐々木さん(仮名)は、ある日YouTubeで、特定の芸能人Aをやたらとこき下ろすような動画を見て、気分を害し、「そのような動画を上げるのはやめた方が良い」というコメントをしました。
すると、投稿者から「つまらんコメントしてくんなよ。お前非表示にするな。」と返信が来て、そのコメントは見れなくなってしまいました。

「このまま放っておいて、Aに対する根拠ないアンチ意見だけ残るのは良くない。」と思った佐々木さんは、その動画の概要欄に書いてあったその動画投稿者のブログと思われるサイトに移り、そのブログの記事に、「Aを根拠なくこき下ろすのはよくない。YouTubeもやめた方が良い。」とコメントしました。
すると、後日、契約するプロバイダから意見照会書が佐々木さんの自宅に届きました(意見照会書=発信者情報開示請求がなされたとき、請求を受けたプロバイダから投稿者に意見を求める書面 発信者情報開示請求=あるネット上の投稿をした者の個人情報取得を目指した請求)。

その意見照会書の内容は驚くべきものでした。佐々木さんのした投稿は、
「Aを根拠なくこき下ろすのはよくない。YouTubeもやめた方が良い。あと、お前殺しに行くからな。覚悟して待ってろよ。お前は死んだ方がいいんだから。」という内容になっていました。太字部分が付け加えられています。
慌てて佐々木さんは弁護士に相談しました。

2 どう対処する?
私は、このような偽造開示請求の相談を受けたのは初めてでしたが、このような請求はこれまでにも無かったわけでもないようです。

ポイントは「ブログにコメントしたこと」です。
ブログによっては、ブログ管理人が閲覧者ののコメントを勝手に編集することができるのでこのようなことが起こるということだと考えられます。

本当にとんでもない請求です。この請求自体、不法行為と言ってもいいと思います。

では、どのような反論をすればいいのでしょうか?

実際にした反論を紹介します(意見照会書に対する回答書における反論)。

(1)実際にコメントの偽造ができるのか検証してみた
ご依頼を受けてから、その請求者の使っていた無料ブログで新たにブログを開設しました。
意見照会書を見れば、請求対象の投稿がなされたページのURLが載っていますから、それで請求者の使っている無料ブログが判明しました。

そして、記事を作り、別端末からコメントを書き込みました。

管理者アカウントでコメントを見ると、コメントの下部に「編集」というボタンがありました(左下矢印部分)。

最新

何とこの「編集」を押すとコメントの編集ができてしまいます。

これによって、コメントの偽造が可能になるのでしょう。
これら偽造に至る一連の操作を証拠化して、容易にコメントの偽造ができることを証明することにしました。


(2)同様の被害者との協力
本件では、たまたま同じ請求者から同じ被害を受けている方を見つけられました。
その方と連絡を取り、互いに「陳述書」を作成しました。
要は、別の方も同じ被害に遭っていることを書き記した書面を作成し、証拠にしました。

このようなケースでは、同じ被害が複数発生しているというのは、自分の反論に説得力を付与する心強い事実になります。

(3)当初の投稿の調査をプロバイダに促す
プロバイダは自らを媒介として行われたネット上の通信を管理しているわけですから、この偽造されたコメントの当初の内容の調査が可能でしょう。
この調査を十分にしてほしい旨念押しで主張しました。

3 注意喚起
事案の内容や実際にした対処法は以上のような感じです。

先にも述べましたが、このような偽造開示請求は大問題であり、不法行為にも該当しうる行為と思われます。
カッとなったとしてもやっていい行為ではありません。

また、他者のブログに攻撃的なコメントをするのもやめるべきでしょう。
コメントを偽造できる場合があることを知ってください。

実際に、偽造開示請求に遭ってしまった場合には、弁護士に相談することをお勧めします。


この問題に限らず、ネット上のトラブルについてのご相談を広くお受けしていますので、mitsumura@vflaw.net まで気軽にご相談ください。

ではでは!








お久しぶりです。
弁護士の満村です。

新たに法律事務所を開業してバタバタしたこともあり、しばらく発信活動は控えていましたが、今日は話題の(?)裁判例について紹介していければと思います。

東京地裁の令和3年12月10日判決、いわゆる「スクショによる引用リツイート」は違法だと判断した判決です。
以前の記事でこの問題について言及し、「他人のツイートのスクショを使った引用リツイートが違法と判断される可能性はあり、やめておいた方がいい」といった考えを示していましたが、がっつりアウトの判断が東京地裁によって下されました。以前の記事↓



「このスクショによる引用リツイート」とは下のような感じのものです。引用されているツイートは、スクリーンショットにより切り抜かれ保存された画像データです。
Web キャプチャ_4-2-2022_122222_twitter.com



Twitterには、正規の「引用リツイート」の機能があり、Twitterでは他人のツイートを引用する際には、この機能を使うことが推奨されています。
もっとも、現実には、正規の「引用リツイート」よりも「スクショリツイート」の方が多いのではないか??と思うほど、「スクショリツイート」は盛んに行われてきました。

なぜなのか?

日常的な使われ方を見ていると、①引用元のツイートをした人に、自分が引用していることをできれば知られたくない(「引用リツイート」だと通知が行っちゃう)、という感情によるものが多いのではないでしょうか。
そのツイートに対して否定的な見解を述べる場合に多用されてそうですから。
あとは、②引用元のツイートをした人にブロックされていて、正規のリツイートができないといったことやそれ以外の理由もあると思います。

では、なぜ「スクショリツイート」が違法となったのか。
裁判例に即してその理由を紹介していきます。

1 著作物性について


以前の記事でも紹介しましたが、著作権法によって保護される「著作物」と言えるためには、
その人の個性が現れている表現行為」、
もう少し分解すると、
その人の考えや感情が表れている表現行為」であればいいことになっています。
多くのツイートはこれに当てはまり、著作物として保護されることになります。
「今日は晴れてたので公園に行きました!」とかは単に事実の報告として著作物ではないでしょうが。。

ではでは、今回の裁判で対象となったツイートとはどんなものだったか。
対象となったツイートは複数ありますが、その一つは

「@B @C @D >あたかものんきゃりあさんがそういった人たちと同じよう

「あたかも」じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと「全く 同じ」だって言ってるんだよ。 結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃ ねーか。お前も含めてな。」
というものです。

著作物でしょうか?

著作物なんです。

裁判所はその理由を以下のように示しました。

「(上記の投稿)は,140文字以内という文字数制限 の中,意見が合わない他のユーザーに対して,短い文の連続によりその意見 を明確に修正した上,高圧的な表現で同人を罵倒するものであり,その構成 2には作者である原告の工夫が見られ,また,表現内容においても作者である 原告の個性が現れているということができる」

「高圧的な表現である」ことも著作物性の根拠になっているようですね。
まあ、それほどツイート主の感情が詰まっているのだからということでしょう。
このように、内容の良し悪しと著作物性とは関係が無いということですね。

さて、このツイートが著作物であることはいいとして、問題は、「引用」が認められるかどうかです。

2 引用の成否について

著作権法32条には、「引用」についての規定が置かれており、簡単に言うと、
すでに公表された著作物を常識的な範囲内で使用することは著作権侵害じゃないですよ
というものです。

今回の発信者は、上の「卑怯者のクソ野郎じゃねえかツイート」をスクショで引用し、
「私に対してのリプ  何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」と呟きました。
意訳すると、「なんかすごい恫喝されてるけど皆これどう思います?ひどいですよね?私何もしてませんよ?」
ということで、これを言うために問題のツイートをスクショで引用したのです。

このスクショの引用が無いと、何を言っているのか分かりませんし、引用元ツイートの方が文字数が多いとはいえ「私に対してのリプ  何にもしてないのにぃ(ó﹏ò。)」をメインとして伝えたいというのはわかるので、常識的な範囲内かなとも思えます。

ただ、裁判所はこう言いました。
「ツイッターの規約は,ツイッター上のコンテンツの複製,修正,これに基づく二次的著作物の作成,配信等をする場合には,ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しな ければならない旨規定し,ツイッターは,他人のコンテンツを引用する手順として,引用ツイートという方法を設けていることが認められる。そうする と,本件各投稿は,上記規約の規定にかかわらず,上記手順を使用すること なく,スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターに掲載していることが認められる。そのため,本件各投稿は,上記規約に違反す るものと認めるのが相当であり,本件各投稿において原告各投稿を引用して利用することが,公正な慣行に合致するものと認めることはできない。 また,前記認定事実によれば,本件各投稿と,これに占める原告各投稿の スクリーンショット画像を比較すると,スクリーンショット画像が量的にも質的にも,明らかに主たる部分を構成するといえるから,これを引用することが,引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない。したがって,原告各投稿をスクリーンショット画像でそのまま複製しツイ ッターに掲載することは,著作権法32条1項に規定する引用の要件を充足しないというべきである。」

①Twitterの規約違反やん!と、②スクショでかいし、これを晒すのが目的やろ?
です。

ネット上の記事を見ると、
①Twitterの規約違反をごり押しして「引用」を認めないのはおかしいのではないか?実質的な理由ではないですよね?という見解が見られます。

ただ、この①の理由の裏には、私が以前の記事でも述べた以下の理由が潜んでいるのだと思います。

スクショ画像が改変される可能性がある、投稿者本人がツイートを消した場合にも拡散することができるのでその場合明らかに投稿者の意思に反する拡散になってしまう、引用リツイートと違って見た人が元ツイートにワンクリックで容易にたどり着けるものでないため投稿者の利益とはなりにくい(むしろ晒されるだけになってしまう)等の問題がある
というものです。

なぜこれら理由が潜んでいると言えるのかというと、そもそもこれらの理由によりTwitter社は、利用規約で、正規の引用リツイート以外のリツイートを推奨していないと考えられるからです。

判決文にもこれら実質的理由が盛り込まれればよかったですが、実際は少し疑問符の付く判決になってしまいましたね。

以上から、私の見解としては、「スクショリツイートはやはり著作権侵害。訴えられる前にやめよう!」というものです。
ただ、この裁判、被告側が控訴しているようです。 もしかすると、高裁でこの判断はひっくり返るかもしれません。
注目していきたいですね。

このような著作権の問題のみならず、誹謗中傷やプライバシー侵害等ネット上のトラブルについて幅広く、ご相談を受け付けております。 御用の方は、mitsumura@vflaw.net までご連絡ください。では!

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