弁護士みつむらの法律blog

大阪の弁護士です。ネット関連の法律問題(誹謗中傷・知的財産等)や労働関係の法律問題についての発信をしています。

こんにちは!
弁護士の満村です。

弁護士として仕事をしていてよく思うのは、「著作権ってみんな存在は知っているはずなのになぜそんなに軽視するのか?」ということです。

その答えは、「ワードとして知っているけど中身はよく知らない」というものかもしれません。

特に今は個人が簡単にネット上で発信を行う時代。

日々大量の著作権侵害が発生しています。

そんな中で起こった悲劇的な著作権侵害事件が「ファスト映画」をめぐる事件でしょう。

東京地方裁判所は2022年11月17日、「ファスト映画」を著作権者に無断でYouTubeにアップロードした2人対し、著作権侵害による損害賠償金5億円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

また被告らは刑事事件としても有罪判決を受け、執行猶予付きとはいえ、懲役刑が課せられ、罰金刑も併科されました。
人生崩壊レベルの悲劇ですが、著作権侵害の怖さが分かりますね。

さて、では、この事件何がいけなかったのでしょうか?どのようにすれば責任を逃れられたのでしょうか?簡潔に説明していきます。

1 著作権って何?
著作権は著作物について認められる権利で、簡単に言うと、その著作物を公表したり、編集したり、売ったりできる権利です。
著作物をネット上にアップすることも著作権者ができることで、基本的に他の人はできません。

では、著作物とは何か、ということですが、以下の通り説明できます。

(1)「思想又は感情」を表現したものであること → 単なるデータが除かれます。
(2) 思想又は感情を「表現したもの」であること → アイデア等が除かれます。
(3) 思想又は感情を「創作的」に表現したものであること → 他人の作品の単なる模倣が除かれます。
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること → 工業製品等が除かれます。

(文化庁HPより 著作物について

こう見ると、何か芸術的なすごい物にしか認められないのではと思うかもしれませんが、例えば日々のツイートやこういうブログ記事なんかにも認められることが多いです。

映画が著作物に当たるというのは当然ですね。

2 映画の要約動画は元の映画の著作権を侵害するの?
「ファスト映画」はいろんなチャンネルからいろんなものが配信されていました。
でも基本的にその内容はある映画のダイジェスト版を作り、ナレーションを加えて作品を紹介するというものです。

映画そのものではないし、創意工夫して映画を宣伝しているようなものだからいいのではないか?と思う人もいるかもしれません。

ただ、先にも述べたように著作物を編集したり手を加えることも著作権者しかできないはずです。
そして、手を加えたものを全国に無断でばらまいたわけですから悪質です。

彼らが唯一言い逃れできる余地もありました。 それは「引用」(著作権法 第32条第1項)です。

自身の著作物を作成するにあたり、他人の著作物を常識的で正当な範囲内で拝借することは「引用」として適法とされるのです。

ただ、この「常識的で正当な範囲内で拝借する」と言えるためには、あくまで自分の作品が主で、他人の著作物が従(サブ)と言えるような力関係が必要になります。また、拝借してくる必要性もないといけません。

例えば参考文献的にちょろっと他人の書籍の一文を示す、といった具合ですね。

「ファスト映画」はこの点明らかに映画を見せることがメインであり、サブ的にナレーションを加えたりしてるわけですね。 主従逆転しており、さすがに「引用」は認められません。

このようにして「ファスト映画」は明確な、そして甚大な著作権侵害として多くの責任を作成者に課す結末となりました。

3 著作権侵害にならないためには
残念ながら、映画のシーンを切り取って使うことも、また、ストーリーを紹介してしまうことも基本的に著作権を侵害してしまいます。

もっともごくごく簡潔なあらすじを短い文章で抽象的に書く(話す)くらいであれば大丈夫と考えられます。
そして、あくまでも自らの思想や、社会問題に対する問題意識を語るような「意見・評論」をメインにした動画にするのが重要です。独自の映画論を語るというのでもいいでしょう。
映画をちょっとした題材として、ほんの少しその存在を拝借する程度に留めれば、「引用」ということができると考えられます。

これは、自らの元から持っていた意見を言うために映画のストーリーの一部を題材にする必要性が認められるからと言えます。

これに対して、映画のワンシーンを切り取った動画、又は静止画については、軽微なものでも基本的に「引用」は認められず、違法だと思った方がいいですね。映像まで拝借する必要性・必然性ってあるんですか?という話になります。(ただ、かなり軽微であれば刑事告訴したり、損害賠償請求してくる映画会社も無いかもなので、まあ実質セーフですかね・・・笑)

でもできれば、その映画の雰囲気と似たフリー素材の画像を使うなどして、創意工夫した動画を作ってみてください!

4 まとめ
以上、YouTube上で起こった「ファスト映画」の事件を参考に著作権について説明しましたが、著作権の問題はなにも映画だけの問題ではありません。
ツイッターのアイコンをアニメのキャラにしている人、テレビ番組の面白い一幕を撮影してSNSに上げている人等々、挙げだしたら著作権侵害事例はキリがありません。
いつ責任追及されるか分からない現状にあるので、著作権についてはよくよく気を付けてください。

著作権侵害について不安を感じている方、トラブルになった方は弁護士にご相談ください。
法律相談をお受けできます。 では!

ご無沙汰しております、弁護士の満村です。

警視庁がガーシー氏の複数の関係先へ捜索に入ったことからガーシー氏の逮捕もあるのか?ということが話題になっていますが、ネット上における表現については日に日に社会の関心が増していると言えます。

また、弁護士としての日々の業務を通じて、ネット上のトラブルが増加傾向にあることも感じます。

そんな中にあって、四面楚歌の状況に立たされているのが物申す系・炎上系YouTuberではないでしょうか。

この記事では、物申す系・炎上系YouTuberが直面する問題を整理すると共に、彼らがこれからも生き残り、成功していけるのか考えてみました。
このように本ブログではこれからYouTubeを題材とした記事をちょくちょく出していこうかと思っております。

1 刑事罰の問題
YouTubeを通じて人や組織を誹謗中傷すれば、名誉棄損罪や侮辱罪等に当たり、逮捕される可能性があります。

例えば、YouTuberの「よりひと」さんは2021年10月に人気女性YouTuberが過去にいじめを行っていたという発言を繰り返したことで、名誉毀損容疑で逮捕され、同11月には強要未遂容疑で再逮捕されました。
そして、2022年3月に懲役2年6月、執行猶予4年の判決が言い渡されました。

「いじめを行っていたって言っただけで犯罪者になるの!?」と驚く方もいるかもしれませんが、しつこいとそうなってしまうという例ですね。
本人も「まったく捕まると思っていなかった」と発言しているようです。

現状、YouTuberがコンテンツ上の言動により名誉棄損や侮辱罪で逮捕や起訴された件数は多くないようですが最近ではガーシー氏の例もありますし、侮辱罪が厳罰化されたこともあり、今後YouTuberの逮捕が増えていく可能性はあります。

また、誹謗中傷をすれば、刑事罰に留まらず、被害者からの損害賠償請求を受けることにもなり得ます。

2 利用規約・コミュニティガイドライン違反

YouTuberは上記のような違法行為を行っていなくても、別途、YouTubeの利用規約コミュニティガイドラインに違反すれば、各種ペナルティを受けることになります。

最も違反しやすそうなものとして、「下品な表現に関するポリシー」がありますが、これには例えば「性的に露骨な表現や口調を使用している」「コンテンツで過度に冒とく的な表現を使用している」等が挙げられています。
これに違反すれば、動画が削除されたり、年齢制限が課せられます。
また、違反を繰り返せばチャンネル又はアカウントの停止も予定されています。

特に「これから注目を集めて有名になるぞ!」という駆け出しYouTuberであれば、少々手荒いことをやって注目を集めたいと思うものですが、努力も虚しくコンテンツが消されてしまうわけですね・・・。
確実に成功のハードルの高いプラットフォームとなっていると言えそうです。

3 悪口禁止強化へ
2019年6月に改訂された規約により、YouTubeの広告掲載規制が強化されました。

「炎上目的・侮辱的」な動画について、広告表示無しや広告制限となる例が追加されました。
だれかを悪く言う動画については程度にもよりますが、広告がつかず収益を得られないことになったんですね。

物申す系・炎上系YouTuberはこれでかなりダメージを受けたようです。

「悪口はもうだめ」というのはあまりに規制が広いなあという気がしますし、誰が判断するんだよという不満も出てきそうです。
この判断をしているのはAIとされています。
「AIに判断できるの?」と疑問も出てきそうですが、最近のAIは優秀なんですね。

もっとも、間違った判断があって広告が規制されたと思う場合は「人間による審査をリクエスト」できますので試してみるのはありですね(https://support.google.com/youtube/answer/7083671?hl=ja)。

4 物申す系・炎上系はもう出てこないのか
これまで見てきたように、物申す系・炎上系YouTuberの未来は決して明るいとは言えません。

ただ、無名のYouTuberにとっては「物申す」「炎上」は無くてはならない武器かもしれません。

刑事罰に当たる行為をしてはいけないのは当然で、また、利用規約・コミュニティガイドライン違反をしていてはアカウントを継続できないので避けるべきですが、広告を諦めて多少手荒いことをやって知名度を上げるという戦略はこれからも続くような気もします

そして、そのような方々に気を付けて欲しいのは、①嘘の事実で人を貶めない、②人の人格攻撃をしない、③物申すにしても、発生した「事実」をベースに、それを批判するという内容にする、といったことでしょう。

正当な表現の自由の行使であれば弁護士も未来のYouTuberを応援しています!

弁護士に話を聞いてみたいと思った方は是非ご連絡ください。
30分3300円(税込)で法律相談を受けております。では!

弁護士の満村です!
今回は、新たに改正される発信者情報開示請求制度について、簡単になると言われる手続きの中身や弁護士費用はどうなるかといった点を簡潔に解説したいと思います。

1 改正や新手続きの概要
発信者情報開示請求の根拠法令であるプロバイダ責任制限法の一部を改正する法律が成立しました。
そして、この「施行日」すなわち実際にその法律が効力を持つ日が令和4年10月1日に決まりました。

この改正の目的は、簡潔に言えば、インターネットでの誹謗中傷などの権利侵害の被害者救済をより迅速・確実に図ることということになります。
これまで、誹謗中傷をした匿名の発信者が誰かを調べるには、2段構えの裁判所での手続が必要でした(多少の例外はありますが)。

まず、投稿がなされたサイトの管理者から、裁判手続きを通してIPアドレスを開示してもらい(第1段階目)、次に、そのIPアドレスを管理する接続プロバイダ(J:COMやソフトバンク等)を調査して割り出し、これまた裁判手続きにより発信者の氏名・住所等の情報を開示してもらいます(第2段階目)。
かなり時間がかかる手続きでした。

新法では、「発信者情報開示命令」という制度が新たに作られ、上記2本あった手続きが1本化されることになりました。
分かり易いように下のような図を作りました(小さくて見えにくい場合は画面を拡大するか画像をクリックしてください)。

発信者情報開示請求新旧図解

新法では、請求者は、まず、サイト管理者を相手方とする「IPアドレスの開示命令」を裁判所へ申し立てるとともに、「提供命令」の申立てをします。
「提供命令」が発令されると、サイト管理者から請求者に対し、接続プロバイダの名称が提供されます。
この「提供命令」は比較的緩い要件のもと認められるため、すんなりと接続プロバイダが判明することでしょう。
次に請求者は、開示された接続プロバイダを相手方とする、「住所及び氏名の開示命令」を裁判所へ申し立てるとともに、「消去禁止命令 」の申立てをします(※この「消去禁止命令」は、投稿の足跡であるログを接続プロバイダに長期保存してもらうために申し立てます)。
請求者が、「接続プロバイダに対し開示命令の申立てをした」旨をサイト管理者に通知すると、サイト管理者は接続プロバイダに対し、IPアドレス等の情報を提供することになります。これを受け取った接続プロバイダは「投稿は誰が行ったものなのか」自社の契約者情報から検索することができるようになります。
このサイト管理者と接続プロバイダとの連携はこれまでありませんでした。

最後に、申立人の主張が認められ、接続プロバイダに対し開示命令が発令されると、投稿者の住所氏名が開示されます。


2 新制度のメリットとは
これまでは、IPアドレスの開示請求と、住所氏名の開示請求と別々に裁判手続を利用する必要があったため、発信者の住所氏名が判明するまでに、長いと1年近くかかったりしていました。

この期間がかなり短縮されることが予想されますので、解決までの期間が短くなります


特に、これからは、これまでのサイト管理者との間の第1段階目の裁判手続きを終えるよりも、かなり短い期間で「提供命令」が発令されると考えられます。
そのため、接続プロバイダが判明するまでの期間が短くなることになり、“サイト管理者との裁判手続きをやっている間にログ保存期間が過ぎてしまって投稿は違法なのに開示がされない”という非常に残念な事態が起こりにくくなります。
実際これが一番重要と考えることもできると思います。

3 弁護士費用は安くなるのか?
結論から言うと、多少弁護士費用の相場が安くなることが予想されます

もっとも、上で述べた通り、新制度では、請求者側は、
①サイト管理者への発信者情報開示命令申立
②提供命令申立
そして、
③接続プロバイダへの発信者情報開示命令申立
④消去禁止命令申立
をすることになります。

要は、証拠収集・書面作成・提出等、やることが多いという状況が抜本的に解消されるということにはなりません。

弁護士に依頼する場合、これらを全て弁護士が行うことになりますが、このようにこの改正で弁護士の業務量が劇的に減少するということには繋がらないため、中には弁護士費用を下げない法律事務所もあると思いますし、下げるとしても、「手続きが2つから1つになったんだから、これまでの半額にします!」というレベルで値引きする法律事務所はほとんど出てこないでしょう(勿論、これまでの費用が高い事務所ほど値下げはしやすいと思いますので、「半額」にします!という広告を目にすることはあるかもしれません・・・)。
もっとも、かける労力や時間は多少減少するでしょうから、その分の相場の引き下げは予想されるということになります。

この点について、弊所では、弁護士費用の減額を想定して動いています。
例えば、これまで全部で50万円程度いただいていた件では、大体40万円くらいに、40万円いただいていた件では、大体30万円ちょっとくらいになる感じの減額を検討中です。
勿論これは投稿件数や内容次第になります。

できる限り弁護士費用を抑えることが被害者救済に繋がりますし、訴えられた発信者が無駄に「調査費用」として相手方の弁護士費用を払わせられる状況を緩和することにも繋がりますので、その辺頑張りたいと思います。

4 請求される側は改正でデメリットがあるの?メリットがあるの?
請求側の調査費用(発信者情報開示請求に要した弁護士費用)は一部又は全額が損害として請求される側の負担となりますから、その金額が減るかもしれないという点は請求される側にメリットがあります。
また、請求される側の方の悩みとして、「争いがかなり長期間になって精神的に辛い・・・」といったことをよくお聞きしますが、良くも悪くも結果が出るまでの時間が短縮されるので、そういった悩みは軽減されるかもしれません。
もっとも、自分の情報が開示される確実性が増すので、デメリットも大きいですが。。

5 まとめ
以上、ごく簡潔に「新・発信者情報開示請求制度」を解説しました。
そして、新制度による請求側のメリットとして、①早期解決が期待される、②それにより匿名投稿者の特定の確実性が増す、②弁護士費用が安くなる、ということを紹介しました。

ネット上の権利侵害にお悩みの方について、請求する側・請求される側問わずご相談を受け付けていますので、一度、mitsumura@vflaw.netにお問い合わせください。

では!

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